双子の令嬢姉妹の専属ペットになった俺は今日も二人の足の下にいる。

桃ノ木ネネコ

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第17話:姉妹の仕事編7「終焉」(完結)

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翌日、屋敷に行くと既に姉妹と皐月が待っていた。
「文月さん!おはようございます!」
皐月は元気よく挨拶する。
「あ、ああ・・・おはよう」
黒川は戸惑いながらも挨拶を返す。
皐月はニコニコと笑いながら黒川を見つめている。
(なんかやりにくいな)そう思いながらも、
黒川は平静を装う事にした・・・。

「短い間でしたがいろいろとありがとうございました。」
皐月は深々と頭を下げた。そしてその頭にはウィッグがあった。
短い黒髪があるだけで雰囲気が随分違う。
(さすがに坊主のまま帰すわけにもいかないんだろうな)
黒川はそう思った。

「はい、またいつか会えるといいですね」
「はい!」皐月が笑顔で答える。
(・・・まあ、もう二度と会う事は無いとは思うが。)
社交辞令をしつつ黒川は思った。

「こちらとしても、対象者を童貞のまま返すのは
前代未聞ですわ」
結衣が少し呆れ気味に言う。
「申し訳ありません、でも僕自身としては人間として
得たものは大きかったです」
皐月は礼を言った。

「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいですわ」
友麻は笑顔で答える。

「はい。僕・・・いえ、若竹洋平として
お礼を言わせていただきます!」

「!!!!!!!」

一瞬3人が静まり返る・・・。

そんな3人をよそに彼は晴れやかな笑みを浮かべている。

「よ、よろしいんですの?!本当の名前を明かしてしまって!!」
結衣が驚きの声を上げる。
「はい、どうせ父が、体裁のために勝手に決めたことですから。
それにあなた方には本当の名前でお礼が言いたかったなんです。」
皐月は少し寂しげな顔をして言う。

「それより『若竹』って・・・あの『ワカタケ製薬』の・・・?!」
黒川も開いた口が塞がらない。
「はい・・・次男ですが」
皐月が答える。

「え、えぇ・・・!?」黒川は絶句した。
(あの大企業の社長の息子だったのか!?)
彼は愕然としていた・・・。

「そんな大事な事を話してしまって良いんですの?!」
結衣が驚く。
「ええ、それにどうせ僕は父に期待されていませんし」
皐月こと洋平は続けた。
「父は昔から、後継ぎである優秀な兄ばかり構って、
次男で、しかも気の弱い僕にはまるで無関心でした・・・。
だからこそ母は、父の目が届かない僕を
好き勝手に育ててきたのでしょう。」
洋平は淡々と話す。

「ずっと親御さんのいう通りにしてきましたものね・・・」
友麻が少し同情的な顔で言った。
「・・・これまで僕は、自分の意志というものを
持ったことはありませんでした。
僕の人生の選択権は、母、もしくは父が決定していましたから。」
(環境の犠牲者って奴か・・・)黒川も同情する。

「父が僕をここに連れてきたのも、大学を卒業したら、
どこかの会社社長の家に婿養子に出して、
パイプを作るための道具とするためだと思います。」
洋平は遠い目をして言う。
(そういう政略結婚は殆ど女の子がやらされるのにな・・・)
そんな利用のされ方をされる彼を、黒川は彼を不憫に思う。

「でもここに来て、色々教えてもらった事で、
初めて自分というもの見つめることが出来ました。
それに皆さんも、自分の考えをしっかりと
持っていらっしゃって・・・」
顔を上げ、洋平は笑顔で言った。

「ふふ、そこまではっきり褒められると、
こそばゆいですわね」
結衣が笑う。
「え、えぇ・・・」黒川は戸惑いながらも答える。
(そんな大層な人間じゃないんだけどな・・・)
黒川は複雑な心境だった・・・。
「でも皐月・・・いえ洋平さんは、これからどうするんですか?」
友麻が尋ねる。
「はい・・・まずは家を出ようかと思います。」
洋平は答える。
「え・・・?!」黒川は思わず声が出てしまった。

「家族から離れて、一人で初めて見たいんです」
洋平は真っ直ぐな瞳で答える。
(すごい決断力だな・・・)黒川は思った。
「ふふ、いいお顔ですわ」結衣が微笑む。

そこには、ここに来たばかりのおどおどした雰囲気の彼とはまるで違う、
なにかの決意と覚悟を感じさせる笑顔があった。

「そういう事でしたら私たちもお手伝いいたしますわ。」
「私たちが直接あなたのお父様に、あなたを成長させるためには
一人暮らしが必要・・・とでも進言しておきましょう。」
「そういった事への働きかけでしたら、任せてくださいませ。」
結衣と友麻が言う。

「え?!あなた方は、うちの父にそんな意見が言えるんですか?!
あなた方は一体どういう・・・?!」
今度は洋平が驚く番だった。

「・・・友麻、もういいですわ。仮面をお取りなさい」
「はい、お姉さま」
結衣が言うと、2人は仮面を取った。

「え・・・!?」洋平はまた驚く。
「貴方は自分から名乗ってくださいました。
ならばこちらも名乗るのが礼儀です。
私は松葉結衣、こちらは妹の友麻ですわ」
そう言って姉妹は一礼した。

「え、えぇ・・・!?松葉姉妹ってあの!?」
洋平は驚愕する。
「ふふ、ご存知だったのですね」結衣が微笑む。
(そりゃ知ってるだろ!)黒川は思った・・・。
「私たちも驚きましたもの・・・」友麻も苦笑する。

(松葉グループとワカタケ製薬といったら
どちらも大企業だしなぁ・・・)
大企業の社長の娘と息子が、対峙するこの光景が、
黒川には現実のものとは思えなかった・・・

「え、えぇ・・・?本当に?」
そして洋平は驚きすぎて逆に冷静になっていた。

「はい、そうですわ」結衣が微笑む。
「ええ・・・?」洋平はまだ信じられない様子だった。
(そりゃそうだろうな・・・)黒川は思った。

「・・・しかしどうして松葉グループのお嬢様方が、
こんな事を?」
洋平が至極まっとうな疑問を投げかける。
「ふふ、それはですね・・・」
「代々の家業といったところですわ」
姉妹はそう言って笑って返した。

「え・・・・?」(なんかはぐらかされた?!)
洋平はちょっと面喰った顔をする。
(まぁにわかには信じられないだろうな・・・)
そんな様子を見て黒川は、心の中苦笑した。

「あ、あの・・・文月さん!あなたは?!」
洋平が今度は黒川に向かって尋ねる。
「・・・・。」
黒川は、黙って顔をそむけた。
「彼は家の人間ではございませんが、
私たちに仕えてくれている者です」
結衣が代わって説明する。
「え、そうなんですか?!」洋平は驚く。
「・・・そういう事です」
黒川が照れ臭そうにぽそりとつぶやく。

そんな彼を見て、洋平が黒川に近付いた。
「でも文月さん・・・改めてお礼を言います。
色々とありがとうございました。あなたはに一番お世話になりました。」
洋平は頭を下げた。

「い、いや・・・そんな・・・」黒川は戸惑う。
(なんか調子狂うな・・・)
こういうことを言われ慣れないので反応に困る。

そして、洋平は黒川の耳元でこう囁いた。
「で、あのお二人のどちらが好きなんですか?」

「!!!!???」
突然のことに、黒川は驚く。
(な、何を言い出すんだこいつは?!)
「・・・す、好きだなんて、そんなこと・・・」
黒川は照れくさそうにそっぽを向いた。
そしてみるみる真っ赤になる。
(そんな事言えるわけないじゃないか!!)

「隠さなくてもいいですよ。あなたを見てれば、
どちらかを好きだという事は分かります。」
洋平は無邪気に笑う。
(こ、こいつ・・・)
黒川は動揺する。

「何をヒソヒソと話してますの?」
友麻が黒川の後ろから声を掛けると、
手を伸ばして彼のマスクを取ってしまう。
「え、いや・・・!」いきなりの事に黒川は慌てて
自分の顔を両手で隠す。
「・・・もう隠す必要ないのではありませんの?」
友麻は微笑んでそう言うと、黒川の顔を覆う手をどける。
(え、えぇ・・・?)黒川はさらに戸惑う。
「ね、この子は素顔の方が全然良いでしょう?」
そう言って友麻は黒川の頭を撫でる。

「ちょっと・・・友麻様」
黒川は恥ずかしそうに言う。
「ふふ、いいではありませんか」友麻はそう言って微笑んだ。
「本当、文月さんの顔・・・あの、凄く素敵です・・・!」
洋平は黒川を見つめて言う
「はい?!」。
(な、何なんだ?この視線は)黒川は、ちょっと引く。

「あ!そ、そういう意味じゃなくて!カッコいいというか、
顔に頭も服装も・・・似合っているというか・・・」
洋平は顔を赤くして言い訳をしている。
(素直すぎるわ!)黒川が心の中でツッコんでしまう。
「ふふ、分かってますのよ」友麻は笑う。

「え、えぇ・・・?」黒川はまだ戸惑っている。
(正直に何でも口に出すのも考えものだな・・・)
黒川は洋平の純朴さを改めて痛感した。

「あ、ええとですね・・・と、とにかく文月さんを見て、
僕は強くなろうと思いましたから、
そういった意味でもあなたは僕の恩人ですよ」
洋平は照れながら言う。

「え、えぇ・・・?」黒川はさらに戸惑う。
「僕がまず誰かを好きになろうって決めたのも、
貴方を見ての事ですから!」
(やっぱりこいつと話してると、なんか調子狂うなぁ・・・)
黒川は戸惑いながらそう思った。

「さて、お互い顔も素性も明かしたわけですから、
ここでの数週間の出来事については
他言無用でお願いいたしますわ。
その方がお互いのためですわよ。」
結衣がそう纏めた。「は、はい!もちろんです!」
洋平が答える。
「ええ、よろしくお願いしますの。」友麻も笑顔で言った。

「それでは皆様、お世話になりました!」
洋平は改めてお辞儀をする。

「さ、車が迎えに来たようですわ」
結衣が言うと、 一同は玄関に向かった。
「それでは皆様、お元気で!」洋平が笑顔で言う。
「ええ、貴方も頑張ってくださいね」友麻も笑う。

洋平は車に乗るまで何度も頭を下げ、手を振った・・・。

***
「皐月ちゃん・・・じゃなかった洋平ちゃん、
戻ってもしっかりやっていますのかしら。」
「大丈夫ですわ友麻。
あんな親や家庭環境の下で育っていたというのに、
性格が歪んだりせずにまっすぐ素直に育っているのですから。」
「色々と可哀想な生い立ちでしたものね・・・」

「あの子自身のあの素直な心根は元来のもので、
しかもかなり強くしっかりとしているものと思われますわ。
そんな子が強く決意したことは、誰であっても
そう簡単には曲げることは出来ないでしょう。」
結衣がそう言って微笑んだ。
「そうだといいですのね」友麻も笑う。
彼女たちの中でも、洋平に関する評価が
最初の頃と大分変っていた。

洋平が帰って数日後、姉妹は先日のことを思い返している。
「それにしても、あの子は大変でしたわね。」
「・・・あの年齢まで性知識がまるでないというのは
初めてでしたものね」
「ええ、驚きましたわ。高校生とは思えませんでしたもの。」
2人は苦笑する。
「まさかあそこまで純粋培養されていたとは・・・」
結衣が呟くと、友麻も頷いた。
「・・・でもあの純粋さはある意味とてもまぶしくて、
そして羨ましいものがありましたわよ。」
友麻が言う。
「えぇ・・・、なのであの子には幸せになってほしいですわ。
もし助けがあったら、私たちも出来るだけの事をしてあげましょう」
結衣が微笑む。

2人がそんな事を話していると、部屋に黒川がやってくる。
「あら、いらっしゃい。お待ちしておりましたわ。」
結衣が声をかける。
「はい、お邪魔します」黒川は会釈した。
地下室ではなく、私室に直接呼ばれるのは珍しい。

「この間はご苦労様でした。お前も大変でしたでしょう?」
結衣はそう言うと黒川に封筒を渡す。
「これは・・・?」黒川が受け取ると、結衣は微笑んだ。
「今回の働きのお給金ですわ」
封筒の厚さからして、かなりの金額だ。

黒川は驚いて、
「こ、こんなの受け取ることは出来ません!」
と慌てて受け取りを拒否する。
「ふふ、構いませんのよ。これはお前が働いた上での報酬です」
結衣は微笑む。

「で、でも・・・」
黒川が返そうとすると、友麻も口を開く。
「そうですのよ。文月、お前は私たちの仕事を手伝いました。
これはれっきとした労働にあたりますのよ。
労働に対価が支払われるのは、当たり前の事ですのよ。」
友麻も言う。
「で、でも・・・」黒川はまだ戸惑っている。

「お前、これは命令ですわよ?」
結衣が凄むと、黒川はびくっとする。
(う・・・)この姉妹の主人としての迫力に、
思わずたじろいでしまう・・・。

「・・・分かりました」黒川は渋々封筒を受け取った。
「ふふ、それでいいんですのよ」友麻は微笑む。
「それにそれは私達からのお前への評価でもあるのですから、
ありがたく受け取りなさい」
結衣が言うと、黒川は「はい・・・」と言って封筒をしまった。

「あ、あの・・・!」黒川が何か言いかけると、結衣が彼を見る。
「・・・な、何でもありません・・・」黒川は大人しくなった。
(こ、このお二人には逆らえない・・・。)そう思ったのだった。

―そして数年後、洋平が海外の留学先でできた恋人と
駆け落ち同然で本当に家を出てしまったという話が、
彼女たちの耳に入って来て、3人を巻き込んだ
大騒動に発展する・・・というのはまた別の話・・・。

おわり
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