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第66話:君の総てを私に(後編)
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涼香は妖艶な笑みを浮かべユキヤの顔に自分の顔を近づけた・・・。
(くそ・・・何とか・・・何とかならないのか?!)
ユキヤは観念したのか目をぎゅっと瞑る・・・。
と、その時
店のドアが豪快に開いて、女性二人が入ってくる。
「店員さーんどこにいるっスかぁ!?」
「あらあらワンオペだからって油断したわね。」
入ってきたのは浅葱と沙由美だった・・・。
「い、いらっしゃいませ!今ご案内いたします!!」
涼香が二人の登場に驚いてユキヤから離れていく隙に、
ユキヤは服装を正して急いでカウンターの方に逃げていった。
「た、ただ今のお時間、モ、モーニングセットしかございませんが、
よ、よろしいでしょうか・・・?」
ユキヤは息を切らせながら言った。
「構わねっスよ。パンのお代わりは自由っスか?」
「あ、はい、お、お好きなだけお食べください・・・。」
ユキヤは全身から冷や汗を流しながら心底安堵した表情で言う。
沙由美はにっこり微笑んで言う。
「ふふっありがとう。」
「あ、お嬢さん、いくら誰もいないからって
店員さんの独り占めはよくないっスよ!」
浅葱が涼香に大声で言う。
「・・・・・。」
この騒がしい客たちに、形勢不利と感じたのか、
涼香は早々に会計を済ませて去っていった。
「フン、小娘が」
沙由美はボソッと言って席につく。
「お二人とも・・・ありがとうございました!」
ユキヤから心の叫びが出る。
「まぁあとから何か言われても、痴女が抵抗できない店員襲ってたって
二人で証言してやるから安心するっスよ。」
浅葱がにっこり笑って言う。
「しかしどうしてお二人ともここに?」
「私は学校が春休みだし、浅葱ちゃんは例の教授からお休み頂いてたんで、
二人して夜通し女子飲み会やってたらこんな時間になってて、
最後はここのモーニングセットで締めようってことになって・・・」
沙由美が眠そうに答えた
。
「いやぁ~教授を可愛がり過ぎたら、しばらく休めって言われたっス」
浅葱もニヤつきながら答える。
(この人、何をしたんだろう・・・?)
ユキヤはさっきとはまた別の恐怖にかられる。
「と、とにかく何でもおごりますよ!・・・
モーニングセットしかないけど」
「ふふ、じゃあ遠慮なく頂くわね」
「取り敢えずトーストを20枚ほどいただくっスかね」
「はい喜んで!」
そう言ってユキヤはキッチンへと歩いていった。
***
そして、藤田からとんでもないことを聞かされているすみれは・・・
「な、なんで・・・今更ユキヤを狙うんですか?!」
と思わず聞き返していた。
「涼香様と深く関わって、ただ一人壊れずにいた男性だからです。」
「えぇ!?」
「涼香様に言い寄る男性は、皆涼香様のストレスの捌け口となって、
心を壊されていきました。
しかし彼は心にかなりの傷を負っているはずなのに、
なぜか壊れずに済んでいる・・・」
「・・・・。」
「涼香様はその事で、彼の事を色々とお調べになりました。
そしてあなたの存在を知ることになったのです。」
「・・・・私の事をですか?!」
「要因に関しては、まだ学生で若く、立ち直る気力があったりなど、
さまざまな事が積み重なったものだと思いますが、
今彼が安定している一番の原因は貴女の存在である・・・
と涼香様は分析しました」
「わ、私ですか?!でもユキヤは出会った時からあんなでしたよ?!」
「はい、最初はともかく、今はもう彼の中で
あなたの存在はとても大きくなっている・・・
そう涼香様は考えています。」
そこで藤田は一息つくと
「そして再び、壊したくなったのですよ・・・彼を。」と続けた。
「そんな・・・」
「・・・とにかく、何があっても彼から離れないでください。
涼香様はまずあなたと茶木さんを引き裂くことから画策しています。」
藤田は冷静に言った。
「でも、いいんですか?主人である涼香さんの・・・
言い方悪いですけど邪魔をするような事をして?」
「・・・これは私からのあなた方に対するけじめです。
涼香様は関係ありません」
藤田は相変わらず無表情だ。
「もしかして・・・涼香さんに止まってほしいんですか?」
すみれが聞き返す。
「・・・私は彼女の従者であり、彼女のすることに
どうこう言うことは出来ません。」
「じゃあなんでそんなに悲しそうな顔をしてるんですか?」
・・・・!
藤田の口が止まる。表情が変わった。目を大きく見開きながらこちらを見つめる。
「・・・。いえ、なんでもありません」
藤田の顔には、何かを恐れるような不安感が現れたように見えた。
「心配なんですよね?涼香さんのことが?」
「も、申し訳ありませんが、その質問には答えることは出来ません!」
藤田の目に焦燥感のようなものが現れる。
「・・・すみませんでした。私こそ。失礼なことを言ってしまいました」
すみれは頭を下げる。
「お気になさらず。そろそろ時間ですので、私はこれで」
藤田はそそくさと部屋から出て行った。
「藤田さん・・・」
すみれはしばらくその場で考え込んでいた。
***
そして一方のユキヤ達は・・・
「はー・・・しかしとんでもない元カノっスねぇ」
浅葱と沙由美の二人はカウンターでモーニングセットを食べている。
(奢るとは言ったけど・・・今日のバイト代が全部飛びそう)
ユキヤは内心ひやひやしながら浅葱の食べっぷりを見守る。
「そしてすみれちゃんが求める『より強い何か』ねぇ・・・」と沙由美。
「・・・俺の意志が弱いのが原因です。さっきだって何もできなかったし」
ユキヤが自虐的に言う。
「さっちゃんさっきは蛇に睨まれた蛙状態だったっスからねぇ」
浅葱は相変わらずトーストを口に放り込んでいる。
(それにしても、本当にこの人食費いくらかかるんだ?)
今さらな疑問を抱きながらも、ユキヤはそれを言葉にしなかった。
「ふむ・・・」と浅葱は腕を組み考える。「それは確かに難しい問題っスよね」
「はい」ユキヤは小さくうなずく。
「正直俺は、自分がこんなに弱いなんて思わなかった・・・」
ユキヤの声音に暗いものが入る。
「より強い結びつきと言うと・・・そうだ浅葱ちゃん!」
沙由美が何か思いついたように浅葱に耳打ちする。「ああ!」と浅葱も声をあげる。
「?」ユキヤはきょとんとしている。
「ユキちゃん、良いことを教えてあげるっスよ」と言ってユキヤに耳打ちする。
「・・・・・!」それを聞いた途端、ユキヤはみるみる真っ赤になった。
「だ、ダメです!そ・・・そんなの無理ですって!」
慌ててユキヤは否定に入る。
「でもすみれちゃん、最近そっち方面で頑張ってるみたいっスから、
きっと受け入れてくれるっスよ!」
「いや・・・そんな事頼んだら俺が変態みたいじゃないですか?!」
ユキヤの顔がさらに紅潮していく。
「あ、あの、一体何を言ってるんですか?!二人とも!!」
ユキヤは明らかに動揺していた。
浅葱がにやりとした笑みを浮かべながらユキヤの肩を叩く。
「まぁさっちゃん次第っスね」
(これすみれちゃんへの根回しは私の役目かな・・・)
と沙由美は考えていた。
「いや、そもそもなんでそれを俺に教えるんですか!?」
ユキヤが慌てふためく。
「興味あるのかなって」
「ないですよ!!!」
ユキヤが即答する。
「あら、いいのかしら。そのままだとまたさっきの元カノが来た時に
怖くて動けなくなっちゃうんじゃないの?」
沙由美が挑発するようにユキヤに尋ねる。
「うぐぅ・・・」
「まぁ真面目な話、今度はすみれちゃんに害が及ぶ可能性があるっス」
「ぐぬぬ・・・」
理由は不明だが涼香がユキヤ達の仲を引き裂きたいのは事実だ。
「男は時として強い覚悟と決断をする時があるわよ」
「うう・・・」ユキヤはしばらく考え込んでから
「・・・って!あんたらさっきからもっともらしいこと言ってるけど、
この状況にかこつけて俺らにこういう事させたいだけでしょうが!」
ユキヤは半ばキレ気味に言った。
「バレたか」
沙由美は悪びれずに舌を出す。
「まあまあ」
浅葱は笑いながらユキヤの頭を撫でた。
「・・・」
「あの元カノとは出来なかったことをするってのは、
二人にはプラスになると思うっスよ。
すみれちゃんともよく話し合ってみるといいっス・・・」
「・・・これについてですかぁ」
ユキヤは頭を抱えていた。
****
その夜、沙由美からすみれのもとに電話が来る。
そこですみれは今日の顛末を知ることになった。
『ユキヤ君何も話してくれてなかった?』「・・・はい」
ユキヤはこの日「一人で考えたいことがある」
と自分のマンションに帰っていた。
なのですみれも藤田と話したことをまだ伝えられていなかった。
『あなたに心配かけさせまいとしてるんでしょうけどねぇ・・・』
「・・・そんな事があったんですね。」
『すみれちゃんさ、前に『より強い何か』が欲しいって言ってたよね?』
「はい」
『あなたたちはこれまで色んなことをしてきたけど、
今日の感じでは、ユキヤ君は元カノのトラウマを
克服しきれてないわ・・・』
「そうですか・・・」
すみれは少し暗い表情になった。
『だからね、もうこれしかないと思う。
でも使うのにはちょっと覚悟がいるけどね。』
「え?!」
『とりあえずアドレス送るけど、使うのはあなたたち次第よ。
彼ともよく相談して決めてね』
沙由美はそう言うと電話を切った。「沙由美さん・・・一体何を?」
ほどなくして沙由美からある商品のリンクアドレスが送られてくる・・・。
「こ・・・これは!?」すみれは目が点になった。
***
次の日。
すみれとユキヤは二人で部屋にいた。
すみれは昨日の藤田から聞いた涼香の話をした。
「・・・・確かに彼女も気の毒な部分があったのかもしれないが。」
ユキヤは腕組みをする。「しかしだな。」
「わかっているわ。私だって彼女のやったことは許せないし、
許しちゃいけないことだと思う。」
「うん。俺らが巻き込まれていい理由は一つもない。
俺はともかくすみれにもしものことがあったら・・・」
ユキヤは真剣な目つきになる。「俺には耐えられない」
「ユキヤ・・・」
すみれはユキヤを見つめた。
「大丈夫だよ。私はユキヤから離れないし、離れたくないもの」
「すみれ・・・」ユキヤはを見つめる。
「だからね、ちょっと相談したいことがある。」「俺もだ」
二人は向き合った。「じゃあ、一緒に使おう。」二人は同時に息を吸って
「私に貴方のすべてを下さい!」
「俺のすべてをお前に捧げたい!」
ほとんど同時に出た言葉だった・・・。
「えっと、まさか・・・?!」
「うん、多分同じこと考えてると・・・思う」
すみれは少し恥ずかしげに言った。二人ともみるみる真っ赤になる。
「まさかとは思うけど・・・」「これ・・・」
すみれはスマホを見せる。
昨晩沙由美から送られてきたアドレスの商品・・・
それは・・・ペニスバンドであった。
しかも、バイブやディルドなどの機能が付いたもの。
「あ、やっぱりそういう話かぁ~」
ユキヤは苦笑いする。「ま、そうだよね」
「どうしようかしら・・・」
二人は向かい合って大きなため息を吐いた・・・。
「んー、でもさ、沙由美さんの言う通り、ちゃんと話し合わないと」
「そうだけど、ユキヤは嫌じゃないの?」
「そりゃ、もちろん抵抗はあるし、正直恥ずかしいし怖いよ」
「じゃ、どうして」
「昨日分かったんだ・・・もうこれぐらい思い切らないと、
俺はあの人には勝てない・・・」
ユキヤは拳を握る。「それに、お前とより強く結ばれるのであれば・・・」
「ユキヤ・・・」
「だから、その、すみれさえ良ければ、使ってみようかなって」
ユキヤは俯いて目を逸らしたまま言う。
「ユキヤがそこまでいうなら、私もいいよ」「すみれ、ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「それで、ちょっとお願いがあるんだが・・・」
ユキヤは赤くなり、うつむいたまま言う。
「その・・・スマホのそれもいいんだけど・・・
その、俺にも選ばせてくれないか・・・」
「え・・・・?」
「だって、俺の・・・初めての相手になるわけだし・・・」
自分で言ってて顔どころか全身から火が噴き出しそうになる。
「ユキヤ・・・」
「ダメかな」
ユキヤは上目遣いですみれを見る。
「いいよ。一緒に選ぼう。」
すみれは微笑んで答えた。
ユキヤの顔がぱあっと輝く。
このあと二人はPCでネットショップを見まくった・・・。
「うーむ、迷うな・・・」
ユキヤは腕組みをして考える。
「どれにするか決まった?」
すみれは画面を見ながら尋ねる。
「いや、色々あり過ぎて迷う・・・」
「こんなに種類があるんだね。」
一口にペニバンといっても、そのサイズから用途まで様々であった。
「とりあえず、初心者向けって書いてあるやつを見てるけど・・・」
「そうなのね。」
「うん。」
「私としては、あまりハードなのはちょっと怖くて・・・」
「・・・でもこれだと俺しか気持ちよくなさそうだし」
「でも、初めてでいきなりエグイのもどうかと思うし・・・」
・・・二人はその夜遅くまで意見を交わしていた。
つづく
(くそ・・・何とか・・・何とかならないのか?!)
ユキヤは観念したのか目をぎゅっと瞑る・・・。
と、その時
店のドアが豪快に開いて、女性二人が入ってくる。
「店員さーんどこにいるっスかぁ!?」
「あらあらワンオペだからって油断したわね。」
入ってきたのは浅葱と沙由美だった・・・。
「い、いらっしゃいませ!今ご案内いたします!!」
涼香が二人の登場に驚いてユキヤから離れていく隙に、
ユキヤは服装を正して急いでカウンターの方に逃げていった。
「た、ただ今のお時間、モ、モーニングセットしかございませんが、
よ、よろしいでしょうか・・・?」
ユキヤは息を切らせながら言った。
「構わねっスよ。パンのお代わりは自由っスか?」
「あ、はい、お、お好きなだけお食べください・・・。」
ユキヤは全身から冷や汗を流しながら心底安堵した表情で言う。
沙由美はにっこり微笑んで言う。
「ふふっありがとう。」
「あ、お嬢さん、いくら誰もいないからって
店員さんの独り占めはよくないっスよ!」
浅葱が涼香に大声で言う。
「・・・・・。」
この騒がしい客たちに、形勢不利と感じたのか、
涼香は早々に会計を済ませて去っていった。
「フン、小娘が」
沙由美はボソッと言って席につく。
「お二人とも・・・ありがとうございました!」
ユキヤから心の叫びが出る。
「まぁあとから何か言われても、痴女が抵抗できない店員襲ってたって
二人で証言してやるから安心するっスよ。」
浅葱がにっこり笑って言う。
「しかしどうしてお二人ともここに?」
「私は学校が春休みだし、浅葱ちゃんは例の教授からお休み頂いてたんで、
二人して夜通し女子飲み会やってたらこんな時間になってて、
最後はここのモーニングセットで締めようってことになって・・・」
沙由美が眠そうに答えた
。
「いやぁ~教授を可愛がり過ぎたら、しばらく休めって言われたっス」
浅葱もニヤつきながら答える。
(この人、何をしたんだろう・・・?)
ユキヤはさっきとはまた別の恐怖にかられる。
「と、とにかく何でもおごりますよ!・・・
モーニングセットしかないけど」
「ふふ、じゃあ遠慮なく頂くわね」
「取り敢えずトーストを20枚ほどいただくっスかね」
「はい喜んで!」
そう言ってユキヤはキッチンへと歩いていった。
***
そして、藤田からとんでもないことを聞かされているすみれは・・・
「な、なんで・・・今更ユキヤを狙うんですか?!」
と思わず聞き返していた。
「涼香様と深く関わって、ただ一人壊れずにいた男性だからです。」
「えぇ!?」
「涼香様に言い寄る男性は、皆涼香様のストレスの捌け口となって、
心を壊されていきました。
しかし彼は心にかなりの傷を負っているはずなのに、
なぜか壊れずに済んでいる・・・」
「・・・・。」
「涼香様はその事で、彼の事を色々とお調べになりました。
そしてあなたの存在を知ることになったのです。」
「・・・・私の事をですか?!」
「要因に関しては、まだ学生で若く、立ち直る気力があったりなど、
さまざまな事が積み重なったものだと思いますが、
今彼が安定している一番の原因は貴女の存在である・・・
と涼香様は分析しました」
「わ、私ですか?!でもユキヤは出会った時からあんなでしたよ?!」
「はい、最初はともかく、今はもう彼の中で
あなたの存在はとても大きくなっている・・・
そう涼香様は考えています。」
そこで藤田は一息つくと
「そして再び、壊したくなったのですよ・・・彼を。」と続けた。
「そんな・・・」
「・・・とにかく、何があっても彼から離れないでください。
涼香様はまずあなたと茶木さんを引き裂くことから画策しています。」
藤田は冷静に言った。
「でも、いいんですか?主人である涼香さんの・・・
言い方悪いですけど邪魔をするような事をして?」
「・・・これは私からのあなた方に対するけじめです。
涼香様は関係ありません」
藤田は相変わらず無表情だ。
「もしかして・・・涼香さんに止まってほしいんですか?」
すみれが聞き返す。
「・・・私は彼女の従者であり、彼女のすることに
どうこう言うことは出来ません。」
「じゃあなんでそんなに悲しそうな顔をしてるんですか?」
・・・・!
藤田の口が止まる。表情が変わった。目を大きく見開きながらこちらを見つめる。
「・・・。いえ、なんでもありません」
藤田の顔には、何かを恐れるような不安感が現れたように見えた。
「心配なんですよね?涼香さんのことが?」
「も、申し訳ありませんが、その質問には答えることは出来ません!」
藤田の目に焦燥感のようなものが現れる。
「・・・すみませんでした。私こそ。失礼なことを言ってしまいました」
すみれは頭を下げる。
「お気になさらず。そろそろ時間ですので、私はこれで」
藤田はそそくさと部屋から出て行った。
「藤田さん・・・」
すみれはしばらくその場で考え込んでいた。
***
そして一方のユキヤ達は・・・
「はー・・・しかしとんでもない元カノっスねぇ」
浅葱と沙由美の二人はカウンターでモーニングセットを食べている。
(奢るとは言ったけど・・・今日のバイト代が全部飛びそう)
ユキヤは内心ひやひやしながら浅葱の食べっぷりを見守る。
「そしてすみれちゃんが求める『より強い何か』ねぇ・・・」と沙由美。
「・・・俺の意志が弱いのが原因です。さっきだって何もできなかったし」
ユキヤが自虐的に言う。
「さっちゃんさっきは蛇に睨まれた蛙状態だったっスからねぇ」
浅葱は相変わらずトーストを口に放り込んでいる。
(それにしても、本当にこの人食費いくらかかるんだ?)
今さらな疑問を抱きながらも、ユキヤはそれを言葉にしなかった。
「ふむ・・・」と浅葱は腕を組み考える。「それは確かに難しい問題っスよね」
「はい」ユキヤは小さくうなずく。
「正直俺は、自分がこんなに弱いなんて思わなかった・・・」
ユキヤの声音に暗いものが入る。
「より強い結びつきと言うと・・・そうだ浅葱ちゃん!」
沙由美が何か思いついたように浅葱に耳打ちする。「ああ!」と浅葱も声をあげる。
「?」ユキヤはきょとんとしている。
「ユキちゃん、良いことを教えてあげるっスよ」と言ってユキヤに耳打ちする。
「・・・・・!」それを聞いた途端、ユキヤはみるみる真っ赤になった。
「だ、ダメです!そ・・・そんなの無理ですって!」
慌ててユキヤは否定に入る。
「でもすみれちゃん、最近そっち方面で頑張ってるみたいっスから、
きっと受け入れてくれるっスよ!」
「いや・・・そんな事頼んだら俺が変態みたいじゃないですか?!」
ユキヤの顔がさらに紅潮していく。
「あ、あの、一体何を言ってるんですか?!二人とも!!」
ユキヤは明らかに動揺していた。
浅葱がにやりとした笑みを浮かべながらユキヤの肩を叩く。
「まぁさっちゃん次第っスね」
(これすみれちゃんへの根回しは私の役目かな・・・)
と沙由美は考えていた。
「いや、そもそもなんでそれを俺に教えるんですか!?」
ユキヤが慌てふためく。
「興味あるのかなって」
「ないですよ!!!」
ユキヤが即答する。
「あら、いいのかしら。そのままだとまたさっきの元カノが来た時に
怖くて動けなくなっちゃうんじゃないの?」
沙由美が挑発するようにユキヤに尋ねる。
「うぐぅ・・・」
「まぁ真面目な話、今度はすみれちゃんに害が及ぶ可能性があるっス」
「ぐぬぬ・・・」
理由は不明だが涼香がユキヤ達の仲を引き裂きたいのは事実だ。
「男は時として強い覚悟と決断をする時があるわよ」
「うう・・・」ユキヤはしばらく考え込んでから
「・・・って!あんたらさっきからもっともらしいこと言ってるけど、
この状況にかこつけて俺らにこういう事させたいだけでしょうが!」
ユキヤは半ばキレ気味に言った。
「バレたか」
沙由美は悪びれずに舌を出す。
「まあまあ」
浅葱は笑いながらユキヤの頭を撫でた。
「・・・」
「あの元カノとは出来なかったことをするってのは、
二人にはプラスになると思うっスよ。
すみれちゃんともよく話し合ってみるといいっス・・・」
「・・・これについてですかぁ」
ユキヤは頭を抱えていた。
****
その夜、沙由美からすみれのもとに電話が来る。
そこですみれは今日の顛末を知ることになった。
『ユキヤ君何も話してくれてなかった?』「・・・はい」
ユキヤはこの日「一人で考えたいことがある」
と自分のマンションに帰っていた。
なのですみれも藤田と話したことをまだ伝えられていなかった。
『あなたに心配かけさせまいとしてるんでしょうけどねぇ・・・』
「・・・そんな事があったんですね。」
『すみれちゃんさ、前に『より強い何か』が欲しいって言ってたよね?』
「はい」
『あなたたちはこれまで色んなことをしてきたけど、
今日の感じでは、ユキヤ君は元カノのトラウマを
克服しきれてないわ・・・』
「そうですか・・・」
すみれは少し暗い表情になった。
『だからね、もうこれしかないと思う。
でも使うのにはちょっと覚悟がいるけどね。』
「え?!」
『とりあえずアドレス送るけど、使うのはあなたたち次第よ。
彼ともよく相談して決めてね』
沙由美はそう言うと電話を切った。「沙由美さん・・・一体何を?」
ほどなくして沙由美からある商品のリンクアドレスが送られてくる・・・。
「こ・・・これは!?」すみれは目が点になった。
***
次の日。
すみれとユキヤは二人で部屋にいた。
すみれは昨日の藤田から聞いた涼香の話をした。
「・・・・確かに彼女も気の毒な部分があったのかもしれないが。」
ユキヤは腕組みをする。「しかしだな。」
「わかっているわ。私だって彼女のやったことは許せないし、
許しちゃいけないことだと思う。」
「うん。俺らが巻き込まれていい理由は一つもない。
俺はともかくすみれにもしものことがあったら・・・」
ユキヤは真剣な目つきになる。「俺には耐えられない」
「ユキヤ・・・」
すみれはユキヤを見つめた。
「大丈夫だよ。私はユキヤから離れないし、離れたくないもの」
「すみれ・・・」ユキヤはを見つめる。
「だからね、ちょっと相談したいことがある。」「俺もだ」
二人は向き合った。「じゃあ、一緒に使おう。」二人は同時に息を吸って
「私に貴方のすべてを下さい!」
「俺のすべてをお前に捧げたい!」
ほとんど同時に出た言葉だった・・・。
「えっと、まさか・・・?!」
「うん、多分同じこと考えてると・・・思う」
すみれは少し恥ずかしげに言った。二人ともみるみる真っ赤になる。
「まさかとは思うけど・・・」「これ・・・」
すみれはスマホを見せる。
昨晩沙由美から送られてきたアドレスの商品・・・
それは・・・ペニスバンドであった。
しかも、バイブやディルドなどの機能が付いたもの。
「あ、やっぱりそういう話かぁ~」
ユキヤは苦笑いする。「ま、そうだよね」
「どうしようかしら・・・」
二人は向かい合って大きなため息を吐いた・・・。
「んー、でもさ、沙由美さんの言う通り、ちゃんと話し合わないと」
「そうだけど、ユキヤは嫌じゃないの?」
「そりゃ、もちろん抵抗はあるし、正直恥ずかしいし怖いよ」
「じゃ、どうして」
「昨日分かったんだ・・・もうこれぐらい思い切らないと、
俺はあの人には勝てない・・・」
ユキヤは拳を握る。「それに、お前とより強く結ばれるのであれば・・・」
「ユキヤ・・・」
「だから、その、すみれさえ良ければ、使ってみようかなって」
ユキヤは俯いて目を逸らしたまま言う。
「ユキヤがそこまでいうなら、私もいいよ」「すみれ、ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「それで、ちょっとお願いがあるんだが・・・」
ユキヤは赤くなり、うつむいたまま言う。
「その・・・スマホのそれもいいんだけど・・・
その、俺にも選ばせてくれないか・・・」
「え・・・・?」
「だって、俺の・・・初めての相手になるわけだし・・・」
自分で言ってて顔どころか全身から火が噴き出しそうになる。
「ユキヤ・・・」
「ダメかな」
ユキヤは上目遣いですみれを見る。
「いいよ。一緒に選ぼう。」
すみれは微笑んで答えた。
ユキヤの顔がぱあっと輝く。
このあと二人はPCでネットショップを見まくった・・・。
「うーむ、迷うな・・・」
ユキヤは腕組みをして考える。
「どれにするか決まった?」
すみれは画面を見ながら尋ねる。
「いや、色々あり過ぎて迷う・・・」
「こんなに種類があるんだね。」
一口にペニバンといっても、そのサイズから用途まで様々であった。
「とりあえず、初心者向けって書いてあるやつを見てるけど・・・」
「そうなのね。」
「うん。」
「私としては、あまりハードなのはちょっと怖くて・・・」
「・・・でもこれだと俺しか気持ちよくなさそうだし」
「でも、初めてでいきなりエグイのもどうかと思うし・・・」
・・・二人はその夜遅くまで意見を交わしていた。
つづく
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