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第39話:昔の話
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今回は過去話ですが、以下の内容が含まれるので、苦手な方は注意してください。
・胸糞展開
・過度な束縛
・洗脳
・メインキャラが違う異性と行為に及ぶ。
****
生徒会長と生徒会長補佐。
見た目も成績も優秀な彼ら二人が付き合い始めるのに
そう時間はかからなかった。
「・・・茶木くん、狙ってたんだけどな」
「仕方ないよ・・・相手があの生徒会長じゃ。」
「まさにベストカップルって感じだもんね。」
「うん。お似合いすぎる。」
「羨ましいよね~。」
「ほんとほんと!」
そんな噂が校内に流れるほど二人は付き合っていた。
そして今日もいつものように学校生活が始まる。
「おはようございます。」
生徒会室に入るなりユキヤは挨拶をする。
まだ2年生ながら、会長補佐に抜擢されるのは異例のことだった。
しかし彼はそれを苦とも思わない。むしろその役職を誇らしく思っていた。
「おはよう、ユキヤ君。」
「茶木くん、おはよう・・・」
ユキヤより先に来ている二人に声をかけられる。一人は副会長。
もう一人は会長の緑山涼香。ともに3年生だ。
「おはようございます。」
そう言ってユキヤは自分の席に着く。
するとすぐに涼香がやってきて話しかけてくる。
「今日の放課後だけどさ、また私の家に来てくれる?」
ユキヤには断る権利はない。
「はい、分かりました。」
それだけ答えるとユキヤは再び机に向かう。
(涼香さん、生徒会の仕事だけでも大変なのに
俺にまで目をかけてくれて・・・)
ユキヤはその事に、とても感謝していた。
それと同時に申し訳なさも感じていた。
(もっとしっかりしないと・・・!)
放課後二人は涼香の家に向かう。
「おかえりなさいませ。お嬢様。」
出迎えてくれたメイドさんに軽く会釈し、家の中へ入っていく。
彼女の家はそう言ったお家柄だった。
(俺なんかますます不釣り合いなのに・・・)
「両親は仕事でいつもいないからくつろいでいいわよ」
そう言われてもユキヤは緊張してしまう。
何しろこの家に来るのは初めてなのだから。
「お茶でも入れましょうか?それとも何か食べる?」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「そっか・・・」
そんなユキヤを涼香はジロジロと見た。
「あの・・・俺に何か?」その途端、涼香の目が急に厳しくなる。
「『俺』じゃなくて『僕』でしょ!何度も言わせないで!」
「すっすいません!」
「もうっ・・・」
ため息をつく涼香だったがすぐに優しい顔に戻る。
「まあいいわ。許してあげる。」
「ほっ・・・」
思わず安堵するユキヤ。
「じゃあ、ちょっと服を脱いで見せて」「えぇ!?」
突然の発言に驚くユキヤ。
「脱げって言ったら服のことよ!」
「ああ、はい!」
恥ずかしがりながらもユキヤはシャツに手をかけ、ゆっくりとボタンを外す。
やがて上半身が露になる。
「次はズボンね」
「はい・・・」
躊躇いながらもベルトを外し、ズボンを下げる。
下半身が露出される。
「これでいいですか・・・?」
真っ赤になりながらユキヤが言うと、
涼香はその身体を品定めするように見回す。
「確かにバランスはいいけどちょっと細すぎるわね。
もう少し筋肉をつけた方がいいわ」
「はぁ・・・」
「これから定期的にジムに通いなさい。」
「ええ!?」
「私の恋人になるのよ。それ相応のルックスになってくれないと困るわ。」
「・・・」
反論の余地はなかった。
「返事は?」
「はい・・・」
「よろしい。」
満足そうな顔をする涼香を見て、ユキヤは何も言えなかった。
緑山涼香は、恋人・茶木ユキヤのすべてを管理。束縛していた。
彼の髪型から服装、果ては靴のサイズまで事細かく把握していた。
そしてそれを嬉々として受け入れている。
そんなユキヤの姿がそこにはあった。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?どうしたの?」
「どうしてそこまで俺のことを気にかけてくれるんですか」
「貴方に「私の理想」になってほしいからよ」「理想?」
「そう、私は完璧主義者だから、妥協はできないの」
「はあ・・・」
「その点、ユキヤ君は完璧なのよね。顔もスタイルも性格も。
まさに私が求めていた存在だわ」
「は、はあ・・・」
「ユキヤ君が私の彼氏になった以上、私好みの男になってもらわないと」
「そう、なんですね・・・」
「ま、別に無理強いはしないけどね。嫌なら断ってくれて構わないのよ?」
「いえ、やります!やらせてください!」
ユキヤが力強く宣言すると、涼香は少しだけ驚いた表情を見せる。
「ふーん・・・やる気あるのね。まあ、そういう男の方が好感持てるわ」
「ありがとうございます!」
こうして、ユキヤは涼香に気に入られるために、
彼女が言う通りの生活を開始した。
次の日から、ユキヤは朝早く起きてジョギングを始めた。
涼香はユキヤに食事制限も課そうとしたが・・・・
「あなた、本当に何食べても太らないのね・・・」
「昔っからそうなんですよね。不思議なことに。」
「・・・普通の人間よりエネルギーの代謝がいいのかもね。」
「はあ・・・」
「まあいいわ。とにかく、食べるものにはこだわらないでいいわ。」
「はい、わかりました。」
そんなこんなで、ユキヤは涼香に言われた通りに生活していく。
やがてユキヤの身体にも程よく筋肉がついていった。
「ふふっ見違えたわよ茶木くん。」
この日、例によって涼香の部屋で体をチェックされていた。
「ありがとうございます!」
「じゃあそろそろいいかしら」「え・・・?」
涼香はおもむろに服を脱ぎだす。
「ちょっちょっと待ってください!僕まだ心の準備が・・・」
「何を言っているの?私たちもう恋人同士じゃない。」
「それはそうですけど・・・」「もう、恥ずかしがり屋さんね。」
ユキヤをベッドに押し倒すと、その唇を奪う。
「う・・・」
「はふ・・・キスをする時は、歯を立てずに・・・
相手の舌を・・・優しく絡めるの」
涼香の吐息がユキヤの顔にかかる。
「こうですか・・・?」「ん・・・そう・・・上手・・・」
二人はそのまま体を重ねた。
「どうだった・・・?私の身体は・・・」「すごく綺麗でした・・」
ユキヤは赤くなってうつむく。
「茶木くん、初めてだったんでしょう?」「はい・・・」
「ふふ、可愛いわね。」「なんか情けないですね・・・」
「いいのよ、誰にだって初めてはあるんだから」
涼香も頬を赤らめて照れ笑いを浮かべる。
「でも、どうしていきなりこんなことを・・・」「ご褒美よ」「ご褒美?」
キョトンとするユキヤに涼香は言う。
「私のいう通りにできたご褒美」
「ああ、なるほど・・・」
「これからも期待してるわよ?私だけの王子様?」
涼香は妖艶に微笑みかける。その顔見て、
ユキヤは自分の全身が紅潮するのがわかった。
こうして、ユキヤは理想の女性である緑山涼香に認められたのであった。
それからというもの、ユキヤは常に涼香の「理想」であろうとした。
涼香の言うことはなんでも聞いたし、涼香の命令には絶対服従した。
勉強も運動も家事も、すべて涼香のために行った。
「ふふ、今日も頑張ってるわね。偉いわよ」
「ありがとうございます!」
セックスに関しても主導権こそ奪われなかったが、
実質涼香の指示通りに動いていた。
「んん・・・クリ〇リスはぁ・・・
上から下にそっと・・・舐めるの・・・あぅん!」
「こ、こうですか・・・?」
「そうそう、じょーず・・・次は乳首ね・・・
カリッと噛んでみて・・・んん!」
「はい、あーん」
「ああっ!もっと強く吸ってぇ!あああん!」
涼香はユキヤに自分の胸をいじらせる。
「おっぱいっ!おっぱい気持ちいいっ!」
「これが好きなんですね・・・」
「ええ、そうなのぉ・・・もっとしてもっとしてっ!!」
「はい、わかりました」
ユキヤは涼香の胸にしゃぶりつく。
「あふぅん!あああ・・・あぁぁん!!!」
涼香は快楽のあまり、ビクンッと大きく痙攣する。
「ん・・・涼香さん・・僕・・・もう我慢できません・・・」
ユキヤは股間を手で押さえながら、苦しそうな表情で訴える。
「ふふっ、ユキヤくんったら・・・いいわよ、来なさい」
ベッドの上で全裸になり、ユキヤを受け入れる体勢になる。
「それじゃあ・・・いきますよ・・・」
涼香に覆いかぶさると、ゆっくりと挿入していく。
「うっ!くっ!」「痛い?」「いえっ!大丈夫です!」
「無理しないの。私は大丈夫だから」
「はい・・・ううっ」「ほら、力を抜いて」
「はいっ・・・ふうっ・・・ふぅ~」「そうそう上手よ」
涼香のアドバイスに従い、少しずつ奥へと進んでいく。
やがてすべて入りきると、ユキヤは大きく息を吐いた。
「全部入ったわね」「はい・・・」「じゃあ動くわよ」「は、はい・・・」
涼香が腰を動かすと、ユキヤもそれに合わせて動き始める。
「んん・・・んんん・・・」「ふふ、ユキヤくん可愛いわ」
「そ、そんなことないですよ・・・」「そうかしら?ふふ」
「ううっ・・・うううっ・・・」「あら、どうしたの?」
「す、涼香さんの中、すごく熱くて・・・
それにすごく気持ちよくて・・・」
「ふふ、嬉しいわ。私もユキヤくんのおちん○ん、
すごく気持ちいいのよ?」
「本当ですか?」「ええ、本当よ」
「そ、そうですか・・・」「ユキヤくん可愛いわ」
「涼香さんだって可愛いじゃないですか」
「まあ、ユキヤくんたら」
「涼香さん、大好きです」
「私もよ。愛してるわ」
二人は見つめ合い、キスをする。
「んむ・・・ちゅぱっ・・・ぷはっ・・・」
「ねえ、ユキヤくん。もっと激しく動いてみて」
「はい、わかりました」
「あっ!あああああああっ!すごっ!激しいっ!ああん!」
涼香が喘ぐたびにユキヤのモノも締め付けられていく・・・
「涼香さんの中もすごい締め付けてきますよ」
「あああっ!イクッ!イッちゃう!」
「僕も限界が近いみたいだ・・・」
「一緒にイキましょう!」
「はいっ!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「うっ!出るっ!」
ユキヤと涼香はほぼ同時に絶頂を迎える。
「ふぅ・・・これで終わりね」「はぁはぁ・・・そう、ですね」
二人のセックスが終わると、涼香はユキヤに抱き着く。
「涼香さん?」「今日は・・・ずっとこうしてたい気分なの」
「いいですよ。僕も同じ気持ちですから」
ユキヤは優しく涼香を抱きしめた。
「1年の頃、図書室の隅で静かに本を読んでいた子が、
ここまでなるとは思わなかったわ。」
「あの時はすみませんでした。今思うと恥ずかしい限りです……」
「別に謝ることではないわよ。
でも、あなたがこんなに積極的になってくれるなんて、
本当に嬉しかったわ。」
「僕には涼香さんしか居ませんから……。」
「……ありがとう。ユキヤ君。」
しかしこの時出された涼香の指示がすべて
彼女を気持ちよくさせるためのものであるということを、
ユキヤはまだ気付いていなかった・・・。
生徒会長とその補佐。才色兼備で押しも押されぬ完璧な美男美女カップル。
学校のだれもがそう思っていた。もちろんユキヤ本人も。
****
それは涼香の生徒会任期が終わり近付いたある日。
ユキヤは生徒会準備室に呼ばれる。
「お疲れ様です。涼香先輩。何か御用でしょうか?」
「もう私の任期も終わるし、大学も決まってあとは卒業するだけになったわね」
「そうですね。僕も来年はあなたと同じ大学を受けて・・・」
「それなんだけどね、もう終わりにしようと思って」
「えっ!?ど、どういうことですか!?」
涼香からの突然の申し出にユキヤは狼狽する。
「貴方は私のいう通りにしてくれて、本当によく頑張ってくれたと思うわ。
でもね、もうおわりでいいわ。」
「そ、そんなどうして急に?」
「それはね・・・あなたの役目が終わったからよ。」
「僕の役目?」正直何を言われているのか分からない。
「ええ、私の恋人として役を終えたってことよ。」
「・・・えっ?恋人として?・・・わかりません!・・・」
「ふふふ、まだわからない?まあいいわ、教えてあげる。」
「あなたはね、私を守るための存在だったの」「ま、守る?」
「あなたのような絵にかいたような「理想」を傍に置くだけで、
変な男も寄ってこないし、私に悪いうわさも立たないわ。
だからそのために、あなたを徹底的に
「理想の彼氏」として作り上げたの。」
「そ、そんな・・・それじゃあ僕は・・・」
「ええ、その通りよ。あなたはただの道具に過ぎないわ。
まあ、そのおかげで私の評判も上がって、良い事づくしではあったけど。」
「・・・・・・」あまりの事にユキヤは何も言えずにいた。
確かに今の自分は涼香が作り上げたもので、
そこに彼自身の意思は殆ど介入していない。
「つまり、僕はあなたのスケープゴートだったと・・・?」
「あら、そこまで理解したなら話は早いじゃない。
私が言いたいのはそういうことだわ。」
さっきからユキヤは彼女の顔を見ることが出来なかった。
「・・・」
「・・・」
しばらく沈黙が流れる。
「・・・これまで僕はすべてにおいて
あなたのいう通りにしてきたのに・・・」
「でも、そのおかげであなたもいい目を見て来たんじゃない?」
「・・・っ!」
確かに「絵にかいたようなイケメン優等生」
それが今の学校でのユキヤへの評価だ。
「今まで本当にありがとう。私のお人形さん。」
涼香はユキヤに微笑みかける。しかし、その目は笑っていない。
「・・・そうですね。結局僕の気持ちはあなたに届いてなかった・・・」
「ええ、あなたは、あなた自身を空っぽにし過ぎたわ」
「・・・」(僕が・・・空っぽ?!)
「でも、私はあなたを嫌いにはなれないわ。だって、
あなたは本当に私の言うことを何でも聞いてくれたんだもの。」
「でも、もうあなたは用済みよ。さようなら。」
そう言って彼女は出ていく。
「・・・・」ユキヤは呆然と立ち尽くす。
「ほら、ここで私を押し倒す勇気もないくせに!」
涼香の声が廊下から聞こえてくる。
「・・・ああ、そうだね。」
ユキヤは静かに呟き、その場を後にする。
その顔は石膏像のように無表情だった。
ユキヤはこの後どうやって帰ったのかは覚えていない。
ただ一つ言えることは、
彼がこの日を境に完全に心を閉ざしてしまったという事である。
****
ここでもう少し純情な少年であれば、
泣いたり落ち込んだりもできるのだが、
生憎とそんな時期は過ぎてしまっている。
彼の心は乾いてしまっていたのだ。
(・・・これで、もう僕が彼女のために何かをする必要はない)
砂を噛むような日々が続く。それでも彼は学校に通い続けた。
二人が別れたというニュースはあっという間に学校中に流れた。
涼香は人気者だし、ユキヤも成績優秀で顔もそこそこいいので、
二人とも周りから好かれていたから、
それは当然と言えば当然だろう。
そんな二人の別れ話だ。話題にならないわけがない。
しかしそんなことはユキヤにとってはどうでもいい事だった。
(僕は・・・これからどうすればいいんだろうか)
結局生徒会に残ることも辞退してしまい、
既ににぬけがら状態のユキヤであったが、以外にも転機は早く訪れた。
きっかけとなったのはバレンタインだった。
「はい、これあげる。義理チョコよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、私からもあげるよ~!いつもありがとね!」
「え?いいの。」
「私もあげるよ!いつも勉強教えてくれてありがとうね!」
「うん、ありがとう・・・」
「はい、これ手作りなんだ!」
「え、えっと、これは?」
「ん?クッキーだよ?」
「・・・そ、そうなんだ。」
「うん、じゃあまた明日ねー!」
「・・・もてる男はつらいなおい!」
クラスメイトから背中を叩かれる。「やめろよ・・・」
「ははっ、悪い悪い。でもお前モテるなぁ。うらやましいわ。」
「・・・別に、そういうつもりはないんだけど。」
「うわ出た。その無自覚発言。」
「?」
(まさか俺・・・モテてた?!)
涼香と付き合うようになってからは
ルックスにもそれなりに気を遣うようになって、
そこそこ身綺麗になったという自覚はあったが、
女性から声を掛けられることは滅多になかったため、
そこまでモテているという自覚は意外にもなかったのだ。
・・・というよりこれは異性が近付かないように
常に涼香が目を光らせていたせいだが。
涼香と別れ、3年生も滅多に学校に来なくなった今、
その監視も緩んでいた。それにユキヤは元々イケメンなため、
女子からの人気はかなり高かった。
それがバレンタインというイベントで一気に花開いたという形だ。
「・・・」
ユキヤは困惑していた。こんなこと初めてだからだ。
結局この日貰った大量のチョコはユキヤを大いに驚かせた。
そして調子付かせるきっかけにもなった。
次の日からユキヤは積極的に行動するようになった。
今までの消極的な態度はどこへ行ったのかと思うほどに積極的になった。
まずは朝登校したら真っ先にクラスの女の子に挨拶に行くようになった。
「おはよう」
「え・・お、おはよう」
いきなりのことでその女子は戸惑っていたようだが、
とりあえず返事は返してくれた。
更に涼香から叩き込まれていた女性への立ち振る舞いも、
女子たちに人気となった。
涼香と別れた後も、彼の心は完全に壊れることはなかった。
(俺って意外と単純なのかもしれない・・・)
いつの間にか一人称も「俺」に戻っていた。
そう思いながらも、ユキヤはそれを悪いと話思っていなかった。
そんな生活を続けているうちに春休みになり、
高校3年生の新学期が始まった。
この時すでにモテることを自覚していたユキヤには、
女友達が大勢いた。
ただ、涼香の事があるので、相手にあまり深追いはしていなかった。
それでも何人かの女生徒と仲良くなり、連絡先を交換することができた。
(・・・これでいいんだ)
ユキヤは思う。これでいいのだと。
確かにまだ涼香のことが忘れられない。しかしそれとは別に、
今のユキヤは充実感を感じていたのだ。
「茶木先輩は髪伸ばさないんですか。」
ある時後輩の子からこんなことを言われる。
「あ、ああ。まぁね。」
「なんでですか?」
「まぁ校則もあるし」「別にいいじゃないですか~!」
「卒業してから考えてみるよ」「絶対伸ばした方がいいですよ!絶対にです!!」
「お、おう。」
「約束しましたからね!」
「う、うん。」
「やった!」
このころになると、ユキヤのイメージは
「クールで真面目なイケメン」キャラから
「気さくで話しやすいイケメン」となっていた。
なので男子生徒からの嫉妬を買うことはなくなった。
もっとも、以前のキャラは涼香によって作り上げられていたので、
もともとのキャラに戻ったというべきなのかもしれないが。
ともかく、涼香との一件以来、ユキヤの生活は一変した。
こうして、ユキヤは新しい一歩を踏み出したのだった。
****
高校卒業後、ユキヤは大学に進学した。
2年の頃の実績のお陰で割と推薦が早くとれたので、
彼自身としてはちょっと複雑だ。
このころになると以前言っていたように髪を伸ばし、
脱色も始めていたので高校のころの面影が殆どなかった。
(俺ってこんなにイケメンだったのか?)
と自分の顔を見て驚くこともしばしばあった。
そのおかげもあってか、大学ではそれなりにモテた。
告白されることも多かった。
おかげでますます調子に乗った。
・・・こうして、たった2年足らずで真面目な生徒会長補佐は
立派なチャラ男へと変貌していた。
だが本人は気にしていないどころか、むしろ喜んでいるようであった。
(俺は・・・俺のままなんだ)
そう思えたからだろう。
そんなある日、ユキヤは講義の席で隣になった子にふと目をやる。
ぱっと見、少女から女性へと変わる途中な印象を与えた。
(なんかネジが緩そうな子だけど、胸はでかいな・・・)
と失礼なことを考えるユキヤ。
暫く見ているとその子は急にあたふたとし始める。
どうやら何か忘れ物をしたようだ。
「・・・何か忘れたの?」ユキヤは声をかける。
「え!?あ、はい・・・。でも大丈夫です・・・」
「何を忘れたか言ってごらん。」
「あ、あの・・・」
「ほら。」
「・・・消しゴムを・・・」
「それぐらいなら俺の貸すけど?」
「いえ・・・お借りするのは申し訳ないので・・・」
「いいよ別に。はいこれ。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「・・・・・」
「あ、あのさ!」
「はい・・・?」
「俺、茶木っていうんだけど、君はなんて名前なの?」
「・・・」
「あれ、聞こえてない?俺、茶木って言うんだけど君の名前は?」
「・・・知ってます。そういうのナンパっていうんですよね?」
その子はちょっとむっとした顔をする。
(あれ?思ったより鋭い・・・?)
と下心を見透かされたのをごまかすように笑顔を作り
「い、いや、これを機会にお友達になれたらなって・・・」
と取り繕って見せた。
「・・・笑うと八重歯が出るんですね?」
「へっ?」
予想外の返しだったので素の声が出てしまう。
ユキヤは慌てて口を押えた。
「その顔、可愛いですね。」
と彼女は微笑む。
「そ、そうかな。ありがと。」
ユキヤも照れながら返す。
「私、白石って言います。よろしくお願いします。」
「あ、ああ。こちらこそ。」
これが二人の出会いであった。
しかしこの出会いが、この後の二人の運命を
大きく変えてしまうことになるとは、
まだ知る由もなかった・・・。
おわり
・胸糞展開
・過度な束縛
・洗脳
・メインキャラが違う異性と行為に及ぶ。
****
生徒会長と生徒会長補佐。
見た目も成績も優秀な彼ら二人が付き合い始めるのに
そう時間はかからなかった。
「・・・茶木くん、狙ってたんだけどな」
「仕方ないよ・・・相手があの生徒会長じゃ。」
「まさにベストカップルって感じだもんね。」
「うん。お似合いすぎる。」
「羨ましいよね~。」
「ほんとほんと!」
そんな噂が校内に流れるほど二人は付き合っていた。
そして今日もいつものように学校生活が始まる。
「おはようございます。」
生徒会室に入るなりユキヤは挨拶をする。
まだ2年生ながら、会長補佐に抜擢されるのは異例のことだった。
しかし彼はそれを苦とも思わない。むしろその役職を誇らしく思っていた。
「おはよう、ユキヤ君。」
「茶木くん、おはよう・・・」
ユキヤより先に来ている二人に声をかけられる。一人は副会長。
もう一人は会長の緑山涼香。ともに3年生だ。
「おはようございます。」
そう言ってユキヤは自分の席に着く。
するとすぐに涼香がやってきて話しかけてくる。
「今日の放課後だけどさ、また私の家に来てくれる?」
ユキヤには断る権利はない。
「はい、分かりました。」
それだけ答えるとユキヤは再び机に向かう。
(涼香さん、生徒会の仕事だけでも大変なのに
俺にまで目をかけてくれて・・・)
ユキヤはその事に、とても感謝していた。
それと同時に申し訳なさも感じていた。
(もっとしっかりしないと・・・!)
放課後二人は涼香の家に向かう。
「おかえりなさいませ。お嬢様。」
出迎えてくれたメイドさんに軽く会釈し、家の中へ入っていく。
彼女の家はそう言ったお家柄だった。
(俺なんかますます不釣り合いなのに・・・)
「両親は仕事でいつもいないからくつろいでいいわよ」
そう言われてもユキヤは緊張してしまう。
何しろこの家に来るのは初めてなのだから。
「お茶でも入れましょうか?それとも何か食べる?」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「そっか・・・」
そんなユキヤを涼香はジロジロと見た。
「あの・・・俺に何か?」その途端、涼香の目が急に厳しくなる。
「『俺』じゃなくて『僕』でしょ!何度も言わせないで!」
「すっすいません!」
「もうっ・・・」
ため息をつく涼香だったがすぐに優しい顔に戻る。
「まあいいわ。許してあげる。」
「ほっ・・・」
思わず安堵するユキヤ。
「じゃあ、ちょっと服を脱いで見せて」「えぇ!?」
突然の発言に驚くユキヤ。
「脱げって言ったら服のことよ!」
「ああ、はい!」
恥ずかしがりながらもユキヤはシャツに手をかけ、ゆっくりとボタンを外す。
やがて上半身が露になる。
「次はズボンね」
「はい・・・」
躊躇いながらもベルトを外し、ズボンを下げる。
下半身が露出される。
「これでいいですか・・・?」
真っ赤になりながらユキヤが言うと、
涼香はその身体を品定めするように見回す。
「確かにバランスはいいけどちょっと細すぎるわね。
もう少し筋肉をつけた方がいいわ」
「はぁ・・・」
「これから定期的にジムに通いなさい。」
「ええ!?」
「私の恋人になるのよ。それ相応のルックスになってくれないと困るわ。」
「・・・」
反論の余地はなかった。
「返事は?」
「はい・・・」
「よろしい。」
満足そうな顔をする涼香を見て、ユキヤは何も言えなかった。
緑山涼香は、恋人・茶木ユキヤのすべてを管理。束縛していた。
彼の髪型から服装、果ては靴のサイズまで事細かく把握していた。
そしてそれを嬉々として受け入れている。
そんなユキヤの姿がそこにはあった。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?どうしたの?」
「どうしてそこまで俺のことを気にかけてくれるんですか」
「貴方に「私の理想」になってほしいからよ」「理想?」
「そう、私は完璧主義者だから、妥協はできないの」
「はあ・・・」
「その点、ユキヤ君は完璧なのよね。顔もスタイルも性格も。
まさに私が求めていた存在だわ」
「は、はあ・・・」
「ユキヤ君が私の彼氏になった以上、私好みの男になってもらわないと」
「そう、なんですね・・・」
「ま、別に無理強いはしないけどね。嫌なら断ってくれて構わないのよ?」
「いえ、やります!やらせてください!」
ユキヤが力強く宣言すると、涼香は少しだけ驚いた表情を見せる。
「ふーん・・・やる気あるのね。まあ、そういう男の方が好感持てるわ」
「ありがとうございます!」
こうして、ユキヤは涼香に気に入られるために、
彼女が言う通りの生活を開始した。
次の日から、ユキヤは朝早く起きてジョギングを始めた。
涼香はユキヤに食事制限も課そうとしたが・・・・
「あなた、本当に何食べても太らないのね・・・」
「昔っからそうなんですよね。不思議なことに。」
「・・・普通の人間よりエネルギーの代謝がいいのかもね。」
「はあ・・・」
「まあいいわ。とにかく、食べるものにはこだわらないでいいわ。」
「はい、わかりました。」
そんなこんなで、ユキヤは涼香に言われた通りに生活していく。
やがてユキヤの身体にも程よく筋肉がついていった。
「ふふっ見違えたわよ茶木くん。」
この日、例によって涼香の部屋で体をチェックされていた。
「ありがとうございます!」
「じゃあそろそろいいかしら」「え・・・?」
涼香はおもむろに服を脱ぎだす。
「ちょっちょっと待ってください!僕まだ心の準備が・・・」
「何を言っているの?私たちもう恋人同士じゃない。」
「それはそうですけど・・・」「もう、恥ずかしがり屋さんね。」
ユキヤをベッドに押し倒すと、その唇を奪う。
「う・・・」
「はふ・・・キスをする時は、歯を立てずに・・・
相手の舌を・・・優しく絡めるの」
涼香の吐息がユキヤの顔にかかる。
「こうですか・・・?」「ん・・・そう・・・上手・・・」
二人はそのまま体を重ねた。
「どうだった・・・?私の身体は・・・」「すごく綺麗でした・・」
ユキヤは赤くなってうつむく。
「茶木くん、初めてだったんでしょう?」「はい・・・」
「ふふ、可愛いわね。」「なんか情けないですね・・・」
「いいのよ、誰にだって初めてはあるんだから」
涼香も頬を赤らめて照れ笑いを浮かべる。
「でも、どうしていきなりこんなことを・・・」「ご褒美よ」「ご褒美?」
キョトンとするユキヤに涼香は言う。
「私のいう通りにできたご褒美」
「ああ、なるほど・・・」
「これからも期待してるわよ?私だけの王子様?」
涼香は妖艶に微笑みかける。その顔見て、
ユキヤは自分の全身が紅潮するのがわかった。
こうして、ユキヤは理想の女性である緑山涼香に認められたのであった。
それからというもの、ユキヤは常に涼香の「理想」であろうとした。
涼香の言うことはなんでも聞いたし、涼香の命令には絶対服従した。
勉強も運動も家事も、すべて涼香のために行った。
「ふふ、今日も頑張ってるわね。偉いわよ」
「ありがとうございます!」
セックスに関しても主導権こそ奪われなかったが、
実質涼香の指示通りに動いていた。
「んん・・・クリ〇リスはぁ・・・
上から下にそっと・・・舐めるの・・・あぅん!」
「こ、こうですか・・・?」
「そうそう、じょーず・・・次は乳首ね・・・
カリッと噛んでみて・・・んん!」
「はい、あーん」
「ああっ!もっと強く吸ってぇ!あああん!」
涼香はユキヤに自分の胸をいじらせる。
「おっぱいっ!おっぱい気持ちいいっ!」
「これが好きなんですね・・・」
「ええ、そうなのぉ・・・もっとしてもっとしてっ!!」
「はい、わかりました」
ユキヤは涼香の胸にしゃぶりつく。
「あふぅん!あああ・・・あぁぁん!!!」
涼香は快楽のあまり、ビクンッと大きく痙攣する。
「ん・・・涼香さん・・僕・・・もう我慢できません・・・」
ユキヤは股間を手で押さえながら、苦しそうな表情で訴える。
「ふふっ、ユキヤくんったら・・・いいわよ、来なさい」
ベッドの上で全裸になり、ユキヤを受け入れる体勢になる。
「それじゃあ・・・いきますよ・・・」
涼香に覆いかぶさると、ゆっくりと挿入していく。
「うっ!くっ!」「痛い?」「いえっ!大丈夫です!」
「無理しないの。私は大丈夫だから」
「はい・・・ううっ」「ほら、力を抜いて」
「はいっ・・・ふうっ・・・ふぅ~」「そうそう上手よ」
涼香のアドバイスに従い、少しずつ奥へと進んでいく。
やがてすべて入りきると、ユキヤは大きく息を吐いた。
「全部入ったわね」「はい・・・」「じゃあ動くわよ」「は、はい・・・」
涼香が腰を動かすと、ユキヤもそれに合わせて動き始める。
「んん・・・んんん・・・」「ふふ、ユキヤくん可愛いわ」
「そ、そんなことないですよ・・・」「そうかしら?ふふ」
「ううっ・・・うううっ・・・」「あら、どうしたの?」
「す、涼香さんの中、すごく熱くて・・・
それにすごく気持ちよくて・・・」
「ふふ、嬉しいわ。私もユキヤくんのおちん○ん、
すごく気持ちいいのよ?」
「本当ですか?」「ええ、本当よ」
「そ、そうですか・・・」「ユキヤくん可愛いわ」
「涼香さんだって可愛いじゃないですか」
「まあ、ユキヤくんたら」
「涼香さん、大好きです」
「私もよ。愛してるわ」
二人は見つめ合い、キスをする。
「んむ・・・ちゅぱっ・・・ぷはっ・・・」
「ねえ、ユキヤくん。もっと激しく動いてみて」
「はい、わかりました」
「あっ!あああああああっ!すごっ!激しいっ!ああん!」
涼香が喘ぐたびにユキヤのモノも締め付けられていく・・・
「涼香さんの中もすごい締め付けてきますよ」
「あああっ!イクッ!イッちゃう!」
「僕も限界が近いみたいだ・・・」
「一緒にイキましょう!」
「はいっ!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「うっ!出るっ!」
ユキヤと涼香はほぼ同時に絶頂を迎える。
「ふぅ・・・これで終わりね」「はぁはぁ・・・そう、ですね」
二人のセックスが終わると、涼香はユキヤに抱き着く。
「涼香さん?」「今日は・・・ずっとこうしてたい気分なの」
「いいですよ。僕も同じ気持ちですから」
ユキヤは優しく涼香を抱きしめた。
「1年の頃、図書室の隅で静かに本を読んでいた子が、
ここまでなるとは思わなかったわ。」
「あの時はすみませんでした。今思うと恥ずかしい限りです……」
「別に謝ることではないわよ。
でも、あなたがこんなに積極的になってくれるなんて、
本当に嬉しかったわ。」
「僕には涼香さんしか居ませんから……。」
「……ありがとう。ユキヤ君。」
しかしこの時出された涼香の指示がすべて
彼女を気持ちよくさせるためのものであるということを、
ユキヤはまだ気付いていなかった・・・。
生徒会長とその補佐。才色兼備で押しも押されぬ完璧な美男美女カップル。
学校のだれもがそう思っていた。もちろんユキヤ本人も。
****
それは涼香の生徒会任期が終わり近付いたある日。
ユキヤは生徒会準備室に呼ばれる。
「お疲れ様です。涼香先輩。何か御用でしょうか?」
「もう私の任期も終わるし、大学も決まってあとは卒業するだけになったわね」
「そうですね。僕も来年はあなたと同じ大学を受けて・・・」
「それなんだけどね、もう終わりにしようと思って」
「えっ!?ど、どういうことですか!?」
涼香からの突然の申し出にユキヤは狼狽する。
「貴方は私のいう通りにしてくれて、本当によく頑張ってくれたと思うわ。
でもね、もうおわりでいいわ。」
「そ、そんなどうして急に?」
「それはね・・・あなたの役目が終わったからよ。」
「僕の役目?」正直何を言われているのか分からない。
「ええ、私の恋人として役を終えたってことよ。」
「・・・えっ?恋人として?・・・わかりません!・・・」
「ふふふ、まだわからない?まあいいわ、教えてあげる。」
「あなたはね、私を守るための存在だったの」「ま、守る?」
「あなたのような絵にかいたような「理想」を傍に置くだけで、
変な男も寄ってこないし、私に悪いうわさも立たないわ。
だからそのために、あなたを徹底的に
「理想の彼氏」として作り上げたの。」
「そ、そんな・・・それじゃあ僕は・・・」
「ええ、その通りよ。あなたはただの道具に過ぎないわ。
まあ、そのおかげで私の評判も上がって、良い事づくしではあったけど。」
「・・・・・・」あまりの事にユキヤは何も言えずにいた。
確かに今の自分は涼香が作り上げたもので、
そこに彼自身の意思は殆ど介入していない。
「つまり、僕はあなたのスケープゴートだったと・・・?」
「あら、そこまで理解したなら話は早いじゃない。
私が言いたいのはそういうことだわ。」
さっきからユキヤは彼女の顔を見ることが出来なかった。
「・・・」
「・・・」
しばらく沈黙が流れる。
「・・・これまで僕はすべてにおいて
あなたのいう通りにしてきたのに・・・」
「でも、そのおかげであなたもいい目を見て来たんじゃない?」
「・・・っ!」
確かに「絵にかいたようなイケメン優等生」
それが今の学校でのユキヤへの評価だ。
「今まで本当にありがとう。私のお人形さん。」
涼香はユキヤに微笑みかける。しかし、その目は笑っていない。
「・・・そうですね。結局僕の気持ちはあなたに届いてなかった・・・」
「ええ、あなたは、あなた自身を空っぽにし過ぎたわ」
「・・・」(僕が・・・空っぽ?!)
「でも、私はあなたを嫌いにはなれないわ。だって、
あなたは本当に私の言うことを何でも聞いてくれたんだもの。」
「でも、もうあなたは用済みよ。さようなら。」
そう言って彼女は出ていく。
「・・・・」ユキヤは呆然と立ち尽くす。
「ほら、ここで私を押し倒す勇気もないくせに!」
涼香の声が廊下から聞こえてくる。
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ユキヤは静かに呟き、その場を後にする。
その顔は石膏像のように無表情だった。
ユキヤはこの後どうやって帰ったのかは覚えていない。
ただ一つ言えることは、
彼がこの日を境に完全に心を閉ざしてしまったという事である。
****
ここでもう少し純情な少年であれば、
泣いたり落ち込んだりもできるのだが、
生憎とそんな時期は過ぎてしまっている。
彼の心は乾いてしまっていたのだ。
(・・・これで、もう僕が彼女のために何かをする必要はない)
砂を噛むような日々が続く。それでも彼は学校に通い続けた。
二人が別れたというニュースはあっという間に学校中に流れた。
涼香は人気者だし、ユキヤも成績優秀で顔もそこそこいいので、
二人とも周りから好かれていたから、
それは当然と言えば当然だろう。
そんな二人の別れ話だ。話題にならないわけがない。
しかしそんなことはユキヤにとってはどうでもいい事だった。
(僕は・・・これからどうすればいいんだろうか)
結局生徒会に残ることも辞退してしまい、
既ににぬけがら状態のユキヤであったが、以外にも転機は早く訪れた。
きっかけとなったのはバレンタインだった。
「はい、これあげる。義理チョコよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、私からもあげるよ~!いつもありがとね!」
「え?いいの。」
「私もあげるよ!いつも勉強教えてくれてありがとうね!」
「うん、ありがとう・・・」
「はい、これ手作りなんだ!」
「え、えっと、これは?」
「ん?クッキーだよ?」
「・・・そ、そうなんだ。」
「うん、じゃあまた明日ねー!」
「・・・もてる男はつらいなおい!」
クラスメイトから背中を叩かれる。「やめろよ・・・」
「ははっ、悪い悪い。でもお前モテるなぁ。うらやましいわ。」
「・・・別に、そういうつもりはないんだけど。」
「うわ出た。その無自覚発言。」
「?」
(まさか俺・・・モテてた?!)
涼香と付き合うようになってからは
ルックスにもそれなりに気を遣うようになって、
そこそこ身綺麗になったという自覚はあったが、
女性から声を掛けられることは滅多になかったため、
そこまでモテているという自覚は意外にもなかったのだ。
・・・というよりこれは異性が近付かないように
常に涼香が目を光らせていたせいだが。
涼香と別れ、3年生も滅多に学校に来なくなった今、
その監視も緩んでいた。それにユキヤは元々イケメンなため、
女子からの人気はかなり高かった。
それがバレンタインというイベントで一気に花開いたという形だ。
「・・・」
ユキヤは困惑していた。こんなこと初めてだからだ。
結局この日貰った大量のチョコはユキヤを大いに驚かせた。
そして調子付かせるきっかけにもなった。
次の日からユキヤは積極的に行動するようになった。
今までの消極的な態度はどこへ行ったのかと思うほどに積極的になった。
まずは朝登校したら真っ先にクラスの女の子に挨拶に行くようになった。
「おはよう」
「え・・お、おはよう」
いきなりのことでその女子は戸惑っていたようだが、
とりあえず返事は返してくれた。
更に涼香から叩き込まれていた女性への立ち振る舞いも、
女子たちに人気となった。
涼香と別れた後も、彼の心は完全に壊れることはなかった。
(俺って意外と単純なのかもしれない・・・)
いつの間にか一人称も「俺」に戻っていた。
そう思いながらも、ユキヤはそれを悪いと話思っていなかった。
そんな生活を続けているうちに春休みになり、
高校3年生の新学期が始まった。
この時すでにモテることを自覚していたユキヤには、
女友達が大勢いた。
ただ、涼香の事があるので、相手にあまり深追いはしていなかった。
それでも何人かの女生徒と仲良くなり、連絡先を交換することができた。
(・・・これでいいんだ)
ユキヤは思う。これでいいのだと。
確かにまだ涼香のことが忘れられない。しかしそれとは別に、
今のユキヤは充実感を感じていたのだ。
「茶木先輩は髪伸ばさないんですか。」
ある時後輩の子からこんなことを言われる。
「あ、ああ。まぁね。」
「なんでですか?」
「まぁ校則もあるし」「別にいいじゃないですか~!」
「卒業してから考えてみるよ」「絶対伸ばした方がいいですよ!絶対にです!!」
「お、おう。」
「約束しましたからね!」
「う、うん。」
「やった!」
このころになると、ユキヤのイメージは
「クールで真面目なイケメン」キャラから
「気さくで話しやすいイケメン」となっていた。
なので男子生徒からの嫉妬を買うことはなくなった。
もっとも、以前のキャラは涼香によって作り上げられていたので、
もともとのキャラに戻ったというべきなのかもしれないが。
ともかく、涼香との一件以来、ユキヤの生活は一変した。
こうして、ユキヤは新しい一歩を踏み出したのだった。
****
高校卒業後、ユキヤは大学に進学した。
2年の頃の実績のお陰で割と推薦が早くとれたので、
彼自身としてはちょっと複雑だ。
このころになると以前言っていたように髪を伸ばし、
脱色も始めていたので高校のころの面影が殆どなかった。
(俺ってこんなにイケメンだったのか?)
と自分の顔を見て驚くこともしばしばあった。
そのおかげもあってか、大学ではそれなりにモテた。
告白されることも多かった。
おかげでますます調子に乗った。
・・・こうして、たった2年足らずで真面目な生徒会長補佐は
立派なチャラ男へと変貌していた。
だが本人は気にしていないどころか、むしろ喜んでいるようであった。
(俺は・・・俺のままなんだ)
そう思えたからだろう。
そんなある日、ユキヤは講義の席で隣になった子にふと目をやる。
ぱっと見、少女から女性へと変わる途中な印象を与えた。
(なんかネジが緩そうな子だけど、胸はでかいな・・・)
と失礼なことを考えるユキヤ。
暫く見ているとその子は急にあたふたとし始める。
どうやら何か忘れ物をしたようだ。
「・・・何か忘れたの?」ユキヤは声をかける。
「え!?あ、はい・・・。でも大丈夫です・・・」
「何を忘れたか言ってごらん。」
「あ、あの・・・」
「ほら。」
「・・・消しゴムを・・・」
「それぐらいなら俺の貸すけど?」
「いえ・・・お借りするのは申し訳ないので・・・」
「いいよ別に。はいこれ。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「・・・・・」
「あ、あのさ!」
「はい・・・?」
「俺、茶木っていうんだけど、君はなんて名前なの?」
「・・・」
「あれ、聞こえてない?俺、茶木って言うんだけど君の名前は?」
「・・・知ってます。そういうのナンパっていうんですよね?」
その子はちょっとむっとした顔をする。
(あれ?思ったより鋭い・・・?)
と下心を見透かされたのをごまかすように笑顔を作り
「い、いや、これを機会にお友達になれたらなって・・・」
と取り繕って見せた。
「・・・笑うと八重歯が出るんですね?」
「へっ?」
予想外の返しだったので素の声が出てしまう。
ユキヤは慌てて口を押えた。
「その顔、可愛いですね。」
と彼女は微笑む。
「そ、そうかな。ありがと。」
ユキヤも照れながら返す。
「私、白石って言います。よろしくお願いします。」
「あ、ああ。こちらこそ。」
これが二人の出会いであった。
しかしこの出会いが、この後の二人の運命を
大きく変えてしまうことになるとは、
まだ知る由もなかった・・・。
おわり
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