【完結】今夜も彼氏を鳴かせたい~そして俺は彼女に抱かれる~

桃ノ木ネネコ

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第33話:旅行編その4~最後の夜にメスイキする?!~

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夕食後。
このホテルの各部屋にはユニットバスがあるのだが、
温泉があるため使用頻度は低い。
どちらかと言えばトイレの方を使う人間が多いだろう。

今、このユニットバスのバスタブのカーテンロッドに
手錠を引っかけられて立ったままバスタブに裸で拘束されている男がいる。
彼の名前は茶木ユキヤといった・・・。

「・・・・・・。」
ユキヤは何も言わずに呆然とただ天井を見つめている。
すみれはそんなユキヤの様子をニヤニヤしながら見ている。
勿論こちらも全裸だ。

「ここならちょっと汚しても大丈夫かなって」
すみれがニコニコ笑いながら話す。
「まさか昼間買ったものって・・・」
ユキヤが恐る恐る聞く。
「んー、何のことかなぁ?」すみれがしらを切る。
その手には昼間アダルトショップで買った卵のようなものがあった。

「それは・・・一体・・・」ユキヤが怯える。
「ふっふっふ、これはねぇ・・・」
すみれが説明を始める。
「男の人が気持ち良くなるための道具だって。」
タマゴ状のケースから中身を取り出すと、もちもちとした物体が出てきた。
「これをこうかぶせて・・・」
すみれが手際よくユキヤの股間に装着する。

「そして、こうやって・・・」
そのもちもちしたものでペニスを覆うように
激しく上下にスライドさせた。
見かけによらずよく伸びて、長い時はペニスの根元まで覆うことが出来る。
「うあ!ああぁぁ!」ユキヤが激しく悶える。
どうやら内側に凹凸があり、それがペニスを刺激しているようだ。
「おお、すごい反応だね」
すみれが面白がってさらに激しく動かした。

「ああ!はぁん・・・ああぁん!」
ユキヤは激しい快感に思わず声を上げてしまう。
あまりの快感に立っているのもやっとの状態になっていた。
「お手頃価格だと思ったんだけど、結構いい感じかな?」
すみれがユキヤの顔を覗き込む。

「うう、くっそぉ・・・やめろ・・・」
ユキヤが顔を真っ赤にし、苦しげに言う。
ユキヤは何とか逃げようとするが、
手錠がガチャガチャと音を立てるだけだった。
「だめだよ。これからが本番なんだから」
すみれがユキヤの背後に回る。
「さっきまでのは前座でしかないんだよね」
ユキヤのお尻に何かを押し当てた。

「え?ちょっと待って・・・まさかそれって・・・」
ユキヤの顔色がみるみると青ざめる。
「これも買ったやつ。どっちも使い捨てだから、今使わないと」
個包装のキャンディに見えるそれは、指用のスキンだった。
「いやぁ・・・それだけは勘弁してよ・・・」
「ちゃんとローションも塗ってあるからあんまり痛くないよ」
そう言いながらすみれはスキンを指にはめていく。

「・・・そう言う問題じゃなくて・・・」
ユキヤが情けない声で懇願するが、すみれは全く意に介さない。
「じゃあいくわよ」
すみれはそれを指にはめると、ユキヤの中に挿入した。
「ひぃっ」
突然の異物感にユキヤが悲鳴を上げる。

「はい、入った」すみれは満足そうな表情を浮かべる。
(なんかいつもと感じが違う・・・)
それもその筈で、この指用スキンには先にボール状の凹凸があり、
中の刺激をさらに強めていた。

「あっ・・・ぐぅ・・・」
ユキヤは歯を食いしばって耐える。
「あれ、思ったより余裕そうだね」
すみれがさらに奥へと押し込んだ。
「うわぁぁぁ!!!」
今までに経験したことのないような感覚がユキヤを襲う。

「まだ大丈夫みたいだし、もう一本追加しようか」
すみれがもう1本の指にもスキンを被せる。
「やめてぇ・・・」
涙目で訴えるユキヤだが、当然すみれは無視して挿入した。
「うぎゃああああ!!!」
2倍になった圧迫感にユキヤが絶叫する。

「あらら、流石にこれはきついかな」
すみれは少し心配になる。
「お願い・・・もう・・やめて」
ユキヤの言葉が既に懇願になってきた。
苦しいのは勿論だったが、何より苦しさよりも
気持ちよさが勝ちそうな自分が怖かった。

「う・・・ううぅぅ」
ユキヤが悔しさと快感の入り混じった顔で悶える。
「どう?きつくて動けないかしら?」
すみれがユキヤの耳元で囁いた。
ユキヤは何も答えず、ただ黙っていた。
「仕方がない。私が手伝ってあげる」
すみれがユキヤの乳首を摘まんだ。
「あひっ!」
突然のことにユキヤは声を上げてしまう。

「ふーん、やっぱりこっちの方が感じるのか」
すみれは執拗にユキヤの胸を攻める。
「ほれ、ここがいいんでしょ」
ユキヤの身体がビクンと跳ねた。
「やだっ!そこだめっ」
ユキヤの息遣いが激しくなる。
「へえ、ユキちゃんって意外と敏感なんだね」
すみれが楽しそうに笑う。

「に、2か所同時なんてぇ・・・」
ユキヤは顔を真っ赤にして俯く。
「ねえ、そろそろいいんじゃない?ユキちゃんだって限界でしょ」
すみれはユキヤの中の指を動かしはじめた。
「ひぃっ」
中をかき回される度に、脳天まで痺れるような快楽がユキヤを襲った。
しかし、同時にそれはユキヤにとって地獄でもあった。

「やめ・・・もう無理・・・」
ユキヤは弱々しく首を振る。
「本当に?もっとして欲しいんじゃないの?」
すみれがユキヤの耳に舌を這わせた。
「あぁ・・・あぁぁぁああ!」
ユキヤの全身が痙攣したように震える。

「あれ、もしかしてイっちゃったの?」
「はぁ・・・はぁ・・・」ユキヤは力が抜けたようにうなだれる。
今のユキヤの頭の中は真っ白だった。
しかしすみれがユキヤの股間を見ると、 射精はしていない・・・。

「まさか、射精せずにイったの?」
ユキヤは恥ずかしさのあまり何も言えなかった。
快感が身体からまだ消えず、震えていた。
自分でもどうしていいのか分からない。

いつもの射精とともに来る絶頂なら、ストンと気持ちが落ち着いていくのに、
この感覚は、時間をかけてゆっくりと降りているような感じだった。
「すごいじゃん。女の子みたい」
すみれが嬉々として言う。

(どうしよう・・・物凄くめちゃくちゃにしたい!)
すみれの中でこれまでにない衝動が生まれてきた。
自分でも信じられない感覚だった。
こんなにも興奮したことは一度もなかった。

(もしめちゃくちゃにしちゃったらユキちゃんはどうなるんだろう・・・)
すみれは自分が抑えられなくなりそうになっていた。

ユキヤの顔を見つめる。その表情は蕩けきっていて、
目は虚ろで焦点があっていない。
口の端からは唾液が垂れていて、半開きになった口からは
荒い呼吸音が聞こえてくる。

「ユキちゃん、可愛いよ・・・」
すみれはユキヤを抱きしめる。
「ごめんね、我慢できない・・・」
そう思いかけた時だった。

『そっちの開発はじっくりゆっくり時間をかけて
優しくやっていくのがコツっスよ・・・』

どこかで誰かから聞いた言葉が脳裏に浮かんだ。
誰から聞いたのかは思い出せない。

『そうそう、あまり急ぎ過ぎると壊れちゃう危険があるし』
(壊れ・・ちゃう・・・?!)

『焦らずゆっくりと愛を育むようにすれば大丈夫だから』
これらの言葉を思い出したとき、すみれの手は緩んだ。

それと同時に冷静さが戻ってくる。
そうだ、自分と圭太は恋人同士なのだ。
自分の欲求を満たすためだけにユキヤを傷つけてはいけない。
自分は何をしようとしていたのだ。

「ごめんなさい、私どうかしてた」
すみれはユキヤに謝った。
「ふぇ・・?あぁ、うん」
何が起こったか理解できていないようだったが、
それでもすみれの言葉に反応して返事をした。
「本当にごめんね」

すみれはもう一度謝罪する。そして手錠も外した。
「今日はもう・・・やめるね」

ユキヤは解放された。しかし、すみれが離れた途端、
「待って!」ユキヤはすみれの手を取る。

「え?ユキちゃん?」
「もう・・・しないの?」「え?え?」
ユキヤは必死ですみれに抱きつく。
「だって今日・・・俺まだ一度も普通にイってない・・・」
ユキヤはすみれを抱きしめながら寂しそうに言う。

「でも・・・」「いいから!」
ユキヤは懇願するように言う。
「いいの?」「いいって言ってるだろ!」
「・・・分かった」

すみれは再び拘束し、ユキヤをベッドに押し倒した。「んぅ・・・」
唇を重ねる。

「じゃあ始めるよ」
すみれはユキヤの上に覆いかぶさりながら言った。
「ユキちゃんが気持ちよくなれるように頑張るから」
すみれはユキヤにキスをする。舌を絡めると、
ユキヤは積極的にそれに応えてきた。

「ちゅぷっ・・・れろっ・・・」
すみれはユキヤにキスをしながら彼の身体に触れる。
まずは耳の裏あたりを指先で撫でる。
すると彼はビクッと反応して声を出した。
「あっ・・・そこダメ・・」
次に首筋に軽く触れる。また同じように身体が跳ねた。

「あんっ・・・」
そのまま鎖骨まで手を滑らせる。
「ひゃうっ・・・」
「ここ弱いの?」
「うん・・・」
「ユキちゃん相変わらず弱点多いねぇ・・・」
弱点を増やしている張本人が言う。「そんなこと言わなくても・・・」
すみれは笑いながら再び首元に手を伸ばす。

「ほら、こんな感じでどう?」
今度は首全体を掌で包み込むようにして撫で上げる。
「あはぁっ・・・くすぐったい・・・けど、きもちぃ・・・」
「よかった」
「もっと触ってほしい・・・」
「どこを?」
「うう・・・」ユキヤは恥ずかしさで口ごもる。

「仕方ないわね」
すみれはユキヤを横向きに寝かせ、
背中を指先でツツツっ・・・となぞってみる。
「ひっ!!」ユキヤは悲鳴を上げる。
「どうしたの?嫌ならやめようか?」
すみれは意地悪そうに言う。「いや、続けて・・・」
ユキヤは消え入りそうな声で答えた。

「こう?」
すみれはユキヤの背骨に沿って人差し指を上下させる。
「あぁっ・・・きもちい・・・あぁぁ・・・」
「こっちの方が好き?」
すみれは両手でユキヤの脇腹を掴む。
そして親指で肋骨の辺りをカリカリと引っ掻いた。
「あぁっ!それだめぇっ!」
ユキヤは悶える。
「ふーん、じゃあやめるね」
すみれが手を止めようとすると、ユキヤは慌てて止めた。
「や・・・やめなくて・・・いいから」
「そんなこと言うと・・・まためちゃくちゃにしたくなっちゃうよ。」
すみれはユキヤの耳に息を吹きかけるように囁く。

「んんっ!・・・してもいいから・・・」「ふふ、ありがと」
すみれは再びユキヤの首筋に手を伸ばした。
「あぁっ・・・」
「ここも感じるんだよね?」
すみれはユキヤのうなじから後頭部にかけて優しく撫でた。

「ふぁぁぁっ!」
「ユキちゃん可愛い」
「やぁっ!あぁぁぁぁっ!」
ユキヤはビクビクと痙攣している。
「今日は随分敏感になってるね」
「分からない・・・さっきの変なイきかたしてから・・・
ずっと、こんなだ・・・」
ユキヤは途切れ途切れに言う。

「そういえば、さっき変なこと言ってたね。」
「俺、まだイってないって・・・なんか、体がもやもやしてる」
「・・・ユキちゃん、それ女の子のイき方と同じだよ」
「え?」
「だから、射精せずにイクってこと」「ええ!?」
ユキヤは呆然とする。

「男の子は、出しちゃえばスッキリだけど・・・女の子は余韻が残るの。」
「余韻・・・」
「気持ちよかったんでしょ?」
「まあ、それは・・・」
気持ちよかったのは事実だが、男としてはかなり複雑な気持ちになる。
「なら良かったじゃん」
「いや、良くないだろ!」
「どうして?」
「だって、どうせなら男としてお前を・・・」
と言いかけるユキヤにすみれはキスをした。

「私は、ユキちゃんとこうしているの好きだよ」
「でも、俺は・・・」「分かってるって」
「私だってユキちゃんを満足させてあげたいし、
それにユキちゃんが気持ちよくなってる顔を見るのが好きなんだ」
「すみれ・・・」
「それに、ユキちゃんの男の子の部分は、
ずっと『出したい』っていってるもの」
すみれはユキヤの股間に手を伸ばす。

「ほら」「あっ・・・」
ずっともどかしい気分を抱えている間にそれは、
はち切れんばかりになっていた・・・
「どうしてほしい?」「触ってほしい・・・」
ユキヤが答えると、すみれはユキヤのペニスを握った。

「うっ・・・」
「熱い・・・もうこんなになってる」
「ごめん・・・」
「謝らなくていいんだよ。ほら、こんな感じでどう?」
すみれはユキヤをベッドに押し倒し、彼の上に馬乗りになる。
「ちょっ、いきなりっ・・・!」
「こういうの好きでしょう?」
「そりゃあ、嫌いじゃないけどさぁ・・・」
すみれはユキヤのモノを自分の秘所にあてがい、
ゆっくりと腰を落としていく。

「んんっ!入ってるぅ・・・」
「はぁっ・・・すみれの中、あったかいよぉ・・・」
すみれの膣内は熱く潤っていて、ユキヤのものを柔らかく包み込んだ。
「んっ!奥まで届いてるっ!」
すみれはユキヤの上で跳ねるように動いた。
「うわっ!あぁ待っ、・・・これ激しい・・・っ!」
「ああ・・凄い・・・凄いよぉ・・・!」
すみれは上下運動を繰り返しながら、両手でユキヤの乳首を弄ぶ。

「ひぃっ!やめっ!それダメっ!」
いきなりの刺激にユキヤは戸惑った。
「やっぱりここが・・・一番弱いん・・・だ!」
「あぁっ!出るっ!出ちゃうっ!」
「いいよ・・・出して!」
「あぁぁぁっ!!」
ユキヤは白濁液を吐き出した。「はぁ・・・はぁ・・・」
抱き合いながら二人とも肩で息をしていた。

「はぁ、はぁ・・・いっぱい出たね。気持ちよかった?」
すみれが微笑みかける。
「うん・・・すごく良かったよ」
「よかった・・・あの時めちゃくちゃにしなくて・・・」
「ん?何か言った?」「ううん、なんでもない」
すみれはユキヤの胸元に顔を埋めた。

「すみれのおっぱい、柔らかい・・・」
二人はそのまましばらく抱きしめ合っていた。
(私はね、可愛く鳴くユキちゃんも好きだけど、
そのままのユキちゃんが好きなんだ・・・)

****

翌朝。
「どうやら昨夜はお楽しみだったようっスね!」
朝の食堂で顔を合わせるなり、浅葱がこんなあいさつをしてくる。
「・・・・・」ユキヤはスルーを決め込む。
「あ、浅葱さんおはようございます!」すみれは挨拶する。

「おはようっス。」浅葱はいつものように笑顔だ。
そしてトレーに大量の食事を乗せる。
(相変わらずの健啖家だなぁ・・・)
ユキヤはそんな事を考える。
彼女は大食いだ。しかし太っているわけではない。
むしろ痩せ型と言って良いくらいである。
ちなみに彼女の体型は、モデルのような細さではなく、 
いわゆるアスリート体形に近い。
身長も女性にしては高く、165cmはあるだろう。

「で、教授はどうしたんです?姿が見えないけど。」
ユキヤはこれ以上の言及を避けるため露骨に話題を変えた。
「あー教授ならまだ部屋にいるっスよ。
低血圧で朝が苦手なんでルームサービスにするって。」
(嘘つけ!・・・じゃあなんで根岸もいないんだよ?!)
そう言いたいところをグッとこらえて
ユキヤは黙々と朝食を食べ始めた。

「あれ?今日はなんか静かっスね?」浅葱は首を傾げる。
「そ、そうだっけ?」正直今はあまり絡まれたくない。
「・・・・・」露骨にスルーを決め込むユキヤに対し、
浅葱はおもむろに耳に息を吹きかけた。
「ひっ!!」
突然の刺激にユキヤは耳を押さえて机に突っ伏した。
「ふふん、やっぱり大分敏感になってるっスね!」
「うぐぅ~~~」ユキヤは恨めしそうな目で睨む。
すみれはその様子を見て笑いをこらえていた。

「ま、あんまりやりすぎるとまた怒られるんで
この辺で勘弁してあげるっス」
「う~~~」ユキヤは悔しそうにしている。
「弱点見抜かれちゃってるね・・・」
すみれはニヤつきながら言う。「うるさいよっ!」
実は先日のガールズトークで酔った勢いで
すみれが教えた弱点だが、本人は覚えていない。

ユキヤは顔を真っ赤にしながら抗議した。
「いやぁ、君らは本当に面白いっスね。」
浅葱は楽しげに笑った。

****
二人が荷物をまとめてチェックアウトのためにフロントに向かうと、
沙由美と・・・圭太がいた。
もっとも、二人が圭太に気が付いたのは近くに寄ってからなのだが。

「圭太君・・・なの?!」
白いサマードレスに身を包んだ美少女・・・よく見たら圭太だった。
すみれが驚きの声を上げる。
「う、ううぅぅ・・・」
圭太は真っ赤になっている。「あらら、これは予想外だわ」
すみれは苦笑いした。
「圭太君、すごく綺麗だよ」
「・・・そんな褒められ方しても、嬉しくないよ。」
圭太は恥ずかしそうに答えた。

「お前なんでそんな格好してるんだよ・・・」
「それは僕が一番聞きたいよぉ・・・」
圭太は泣き出しそうになる。
「大丈夫だってば。可愛いから自信持ちなって」
「全然フォローになってないし。むしろ傷つくんだけど」
圭太は涙目になりながらすみれに抗議する。

「ふふふ、圭ちゃんにはその格好で学校まで帰ってもらうわよ。」
先にチェックアウトを終えた沙由美は愉快げに笑う。
「えぇー!無理ですよ!!絶対バレますって」
「大丈夫。メイクもウィッグもバッチリなんだから別人に見えるわよ」
「それなら僕じゃなくてもいいじゃないですか!」
「何言ってるの!圭ちゃんだからいいんじゃない!」
「うぅ~」
圭太は観念したのか、沙由美にトボトボとついていった。

「あいつも大変だな・・・」
「でも沙由美さん、結構楽しんでたよね」
「まあね」
二人は顔を見合わせて笑った。
「でもさ、浅葱さんもだけど帰る前に沙由美さんに挨拶できてよかった。」
すみれがしみじみと言った。「何?その二人に何かあったの?」
「うん・・・なんかあの二人にはお礼言っておいた方がいい気がして。」
「ふぅん、そっか」
すみれの言葉を聞いて、ユキヤは少しだけ妙な気持ちになった。
ユキヤ本人は、結果的にその二人の言葉に救われたという事には
気付いていない。

ただ、直感的に助けられたと思うのであった。
「さ、早くいかないと私たちもバス間に合わないよ」
チェックアウトを済ませたすみれは、ユキヤの手を引いて走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌ててすみれを追いかけるユキヤだった。

***
帰りの電車の中。
すみれは疲れが出たのか座席で寝息を立てている。
ユキヤはその隣で、昨日買った本の続きを読んでいる。

『何もかも失った私は、名前を変え、素性を偽り、
見知らぬ土地で静かに暮らしている。
おそらくは私は一生自分でない他人として過ごしていくのだろう。
私から何もかも絡めとって奪い去っていった彼女とは、あれ以来会っていない。
生きているのか死んでいるのかさえ分からない。
あるいはまた男を食い物にしているのか。

だがそんな状態になっても私は雑踏を歩いていると
彼女の姿を探してしまう。
私からすべてを奪った彼女を私はまだ愛しているのだろう。
蜘蛛の糸にからめとられた昆虫のように身動きできないまま
私の心は浸食されていく。そしてきっとこれからも・・・』

ユキヤが本を閉じて窓の外を見ると、ちょうど夕焼け空が広がっていた。
綺麗だなと思いつつユキヤは再び本を開いた。

「ユキヤ、着いたよ」
いつの間にか眠っていたユキヤをすみれが揺り起こした。
「あぁ、ごめん。すっかり寝ちゃってた」
「ふふ、いいよ。今日は一日楽しかったもんね」
そう言いながらすみれは微笑んだ。
「その本そんなに面白かったの?」
「ああ、これね。なんかすごく読みやすくてスラスラ読めた」
「へぇ、今度貸してよ」
「いや・・・これはちょっとお前には無理というか・・・」
「えーなんでよぉ」
「いや、その・・・」
「むぅ」
すみれは少し膨れた顔をした。

「お前にはもう少しハッピーエンドな奴を勧めるよ」
ユキヤはすみれの頭をポンっと叩いた。
「もう!子供扱いしないでよね!」
すみれが抗議の声を上げる。

しかしあの本の主人公と自分はちょっと重なる部分があるかな・・・
とユキヤは考える。
(俺の前からもし彼女が突然いなくなったら・・・俺はどうするかな)
想像してみるが、うまくイメージが湧かない。

「ねぇ、どうかした?」
黙っているユキヤを見てすみれは首を傾げた。
「いや、なんでもないよ」
そう言うと、ユキヤはすみれの手を握って歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!?」
「ほら、帰るぞ。」
(・・・信じるんだ。彼女を)
すみれは少しだけ頬を赤らめて、その手を握り返した。

おわり
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