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第22話:二人でいない日~ユキヤの場合~(前編)
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「実はこういうプレイを私よりも楽しみにしている」
これはすみれから何気なく言われたセリフだがユキヤの中でなぜかずっと引っかかっていた。
たしかに彼女との行為が、苦痛でしかないと言えば嘘になる。
しかしそれをよりによってすみれに指摘されるのはさすがにいただけないとも思うのだ。
(でもすみれのいう事って結構的確だったりすることあるからな・・・)
そんなことを思いつつユキヤは今日もまた彼女の家で彼女に縛られながらその愛撫を受けていた。
両手首を手錠で拘束され、両足もそれぞれベッドの端と端で固定されて身動きが取れない状態だ。
そして服はすべて脱がされていて、一糸まとわぬ姿になっている。
「ふーん。やっぱりこうやって縛られるの好きなんだ?」
「そ、そういうわけじゃ……」「ふーん、でもここは元気になってきてるよ?」
口ではそう言いつつも体は正直に反応してしまう。
先程まで散々焦らされたせいか乳首はすでにビンビンに立ち上がっているし、
股間の方も痛いくらいに勃起している。
「こっちの方はまだ触っていないのに大きくなってるね~。
もしかして期待していたのかな?ねぇ、ユキちゃん?」
彼女は意地の悪い笑みを浮かべながらユキヤのペニスを握ってくる。そのままゆっくりと上下にしごかれる。
「あぁっ……だめぇえ!」
「ダメじゃないでしょう?ほらここだってこんなに固くなってるよ?」
そう言って今度は亀頭を指先でぐりっと押される。
「あああっ!!」
あまりの快感に思わず声が出てしまった。
「ほんとうに可愛いよね君は……。もっといじめたくなっちゃう」
耳元でささやかれ背筋がゾクッとする。次の瞬間、突然強烈な刺激に襲われた。
「ひぃいいいっ!?」
見ると彼女がユキヤのモノを口に含んでいた。生暖かい感覚に包まれると同時に、舌先がカリ裏を刺激してくる。
「あああっ!そんなとこ・・・いじられたらぁ・・・あぁぁぁん」
あまりに強烈すぎる快楽に耐え切れずユキヤは絶叫する。
「うふふ、すごい声でちゃったね。気持ちよかった?でもまだ終わらないよ?」
そういうとすみれはユキヤの根元を手で掴んで激しく動かしてきた。
「あああっ!!・・・そんな・・・そんなことされたら・・・!」
「もうイキそうなの?早いなぁ。我慢しないと駄目だよユキちゃん♪」
楽しげな口調とは裏腹にすみれの顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
「ああ・・・そんなぁ・・・」
ユキヤは涙を流しながら懇願するがすみれの手の動きはさらに早くなっていく。
「あっ・・・だめぇ!で、出るぅ・・・」「はいストップ」
「ああっ!!!」
絶頂に達しそうになったところで急に手を止められてしまう。
ユキヤはガクガクと体を震わせている。
「ユキちゃん、男の子なんだから我慢しなきゃ!
それとも男の子だから我慢できないのかな?」
すみれはニヤリと笑いながらユキヤの耳に息を吹きかけてきた。
「ひゃうん!」
「あらかわいい反応。ふーん、ユキちゃんは弱点がいっぱいあるよね」
「ち、違う・・・今のは・・・」「違わないでしょ?こんなに感じてるくせに」
「お願い・・・もう許して」
「ダーメ。まだまだこれからだよ?」
そう言うとすみれは再びユキヤのモノを握りしめ、激しくしごき始めた。
「ああっ!また出ちゃいます!」「いいよ、出して。ほら、イッちゃえ!」
「ああっ!イクゥウウッ!!!」
再び訪れた限界に抗えず、ユキヤは盛大に射精した。
精液がベッドの上に敷かれた大型犬用のペットシーツへ大量に落ちていく。
「いっぱい出たね~」
「はぁはぁ・・・」恍惚とした表情のユキヤの目には少し涙が浮かぶ。
(今日もまた泣くまで責められてしまった・・・)
すみれはあらゆる手を使ってユキヤを気持ちよくさせてくる。
そして最後には決まって泣いて懇願するまで許してくれなかった。「はぁはぁ・・・」
激しい行為の後で疲れ果てたユキヤはそのまま眠りに落ちていった。
****
「・・・え?実家に帰る?!」
「うん、ひいおじいちゃんの三回忌。だから今度の連休は実家に帰る。」
「土日含めると5日間かぁ・・・」「ごめんね。せっかくのお休みなのに。」
「気にすんなよ。」
ユキヤはすみれの頭を撫でてやる。すると彼女は嬉しそうな顔になった。
「私がいなくてもも大丈夫?」「平気だって。俺を誰だと思ってんだよ?」
「ふふっ、そうだよね。」ユキヤの言葉にすみれは安心して微笑んだ。
「じゃあ行ってくるね。お土産買って来るから。」
「おう、行ってらっしゃい。」
ユキヤはすみれを見送った後、一人部屋の中でぼんやりとしていた。
付き合いだしてから、こんなに合わなくなるのは初めてかもしれない。
いつもなら一緒にいるはずの人がいないだけで、こうも寂しく感じるものなのか?
部屋だっていつもより広く感じる。今まではすみれがいてくれたからこそ、
この部屋に一人でいても特に気にならなかった。
しかし今はどうだろう。
ユキヤの心にぽっかりと大きな穴が開いていた。
****
「それで連休中にずっとバイトを入れてるっスか?」
連休中も浅葱はユキヤのバイト先の喫茶店に来ている。ただ休日なのでスーツではないが。
「ああ。すみれが帰ってくるまでにお金貯めとかないといけないんでね。」
ユキヤはこの分は夏休みでリベンジすると誓っていた。
そのために金をためることにしたのだ。
「若いからタフっすねぇ?」
「まあバイトは楽しいし、それに給料もいいですからね。」
「・・・でも帰ったら暇と。」
「そうですね。」
ユキヤはちょっと寂しそうに言う。
「それなら、ネギのやつと遊ぶのはどうっス?あいつも暇らしいんで。」
「いいんですかねぇ。」
「別に構わないと思うっスけど。」
「でも大事な教授のお相手しなくていいんですか?」
ユキヤは心配になって聞いてみた。
「大丈夫っス。教授は今、連休中の射精管理真っ最中なんで」
浅葱はさらっととんでもない事を言った。
「・・・そんな事してるんですか?あの人?」
ユキヤはドン引きする。
「してますよ。『管理開けは天国が待ってる』と張り切ってたっス」
「・・・・・」ユキヤにはちょっと理解できなかった。(あの変態紳士は・・・)
「それともあたしと遊ぶっスか?」浅葱がからかうように言う。「いや遠慮します。」
ユキヤは真顔で即答した。「なんでネギの時よりも拒絶の意思が強いっスか?!」
「何されるか分からないからです!」
ユキヤは必死だった。
なんたってあの性癖デパートの蘇芳教授の性生活を管理してる人間だ。
本当に何をされるか分かったものではない。
「酷いっス!さっちゃんがあんまりにも寂しそうだから、ちょっと遊ぼうと思っただけなのにぃ。」
浅葱はわざとらしく泣き真似をする。
「嘘つけぇ!!」
ユキヤは叫んだ。
***
「・・・それでなんでボクと会うことになったんですか?」
根岸は相変わらずのジト目でユキヤを見る。
「ゴメン、俺にもよくわからん」
ユキヤは困惑していた。
(浅葱さんが勝手に決めたんだよなぁ。俺、こいつとはあんまり話したことないんだけどな。)
ユキヤはため息をつく。
(とはいえど、こいつとすみれは仲がいいんだよな)
ユキヤは少し不思議だった。改めて根岸を見ると、やはり女性のように華奢な身体つきだ。
髪型もボブでこちらもやはり性別を判断しにくい。しかし顔立ちは中性的だが整っていて綺麗である。
声はややハスキーだが、それもまた男性らしさを感じさせない要因になっているだろう。
服装は男物なのだが、その格好で女っぽいを使うのだから、違和感がある。
(圭太は少なくとも女装してないと小柄ではあるけど男子に見えるからな・・・)
ユキヤはそんなことを考えていた。
「・・・あの、人の事何をジロジロ見てるんですか?」
ユキヤが見ているのに気付いたのか、根岸はユキヤの方を見て言った。
「いや、なんでもねぇよ」
ユキヤは慌てて目をそらす。
「そうですか?なら良いですけど」
「あー。えっと、お前って男だよな?」
「はい。一応生物学的には男性ですね。」
「そっか」
「・・・何聞いてるんだろうこの人」
根岸は呆れたように言う。
(特に用もないのに野郎二人きりってのは・・・どうにも)
ユキヤは思う。
「・・・メシでも行くか?」
「おごりですか?行きます!」
ユキヤの言葉に反応して、根岸はすぐに食いついた。
「おう。まぁ今日は俺のおごりでいいぜ」
「ありがとうございます!じゃあお言葉にあまえて。どこいきましょうかねぇ。」
「言っとくがそんな高いもんは無理だからな」
「分かっていますよ。」
二人は食事に出かけたのだった。
***
場所は変わってレストラン。
そこで食事をしていると。
「そういや君は、まだ1年なのにあのヘンタ・・・いや教授とどうして知り合ったの?」
本当は『なんで気に入られてるの?』と聞きたかったが、あまりに露骨なので内容を変える。
「あの人・・・いえ教授は、勉強しか取り柄のないボクに目をかけてくれて・・・」
と嬉しそうに語る根岸は心なしか顔が赤い。
「へぇ。そりゃ良かったな」
深入りは危険と考えたユキヤは適当に相槌を打つ。
「はい。最初はちょっと怖かったんですけれど、今は尊敬しています。それにとても優しいんです。」
「ふぅん。そうなのかい」
根岸の言葉が次第に熱を帯びてくるのに反比例するようにユキヤは素っ気なく返事をする。
「はい。優しくて紳士的で。もうボクは教授の虜ですよ。」
「それはよかったね」
ユキヤは若干引き気味に答える。
(うわぁ。なんか語りだしたぞこいつ。早く終わらないかなこれ。)
「はい。それでですね・・・」
その後も延々と続く根岸の話にうんざりするユキヤであった。
しかしここでユキヤはちょっと意地の悪い質問をする。
「でも教授は今浅葱さんが絶賛管理中なんだろ?」
「え?あ、はい。」
「それってさ、君的にはどういう気持ちなのかな?」
「え?」
「ほら、例えば自分の好きな人が他の人に取られちゃったとか、そういう感じ?」
「はい・・・悔しいですがボクだけではあの人の性癖を満足させることが出来ません」
根岸はうつむいて言う。
「そうだよね。普通はそう思うよな」
「はい。」
「で、実際どう思ってるわけ?浅葱さんのこと」
「彼女と教授はしょせんビジネスライクな関係にすぎません」
「ほう?」
「雇い主と従業員ってことです。いわばお金の関係です。」
根岸は力強く断言する。「なるほど。まぁ確かにそんなところだろうな。」
「はい。だから、その、つまり・・・ボクは教授にとって一番でありたいんです。
お金も何も関係ない強い絆を・・・ボクは持ちたいんです。」
(う・・・お、重い)
ユキヤは少しひるんだ。
「そ、そうか」
「はい。そうです。」
(すでについて行けない筈なのに、この底知れない感じは何だ?)
ユキヤは少し恐怖を感じた。
「あなただって、同じです・・・」
「は?何がだい?」
「あなたも白石さんに愛されたくてすべてを受け入れてますよね。」
「・・・!」(こいつ・・・俺とすみれの関係を・・・知ってる?!)
「そしてあなたは、彼女にすべてを捧げて尽くして・・・」
「違う!」
ユキヤは思わず声を上げる。
「愛されたいってのは確かだけど・・・オレはそれ以上にすみれを愛してる!」
(そうだよ俺は男としてすみれの事を愛してるんだよ!)
ユキヤは自分の本心をさらけ出す。
「・・・・・・」
突然大声を出したせいか、根岸は呆然としてこちらを見ている。
(あ・・・嫌われたかなこれは・・・)ユキヤはちょっとしまったなと思った。
根岸はその様子を見て、プルプルと肩を震わせ・・・
「・・・・す・・・素敵です!」
予想外の反応にユキヤはずっこける。「は?え?今なんて言った?」
「あなたのその情熱に感動しました。正直に言いましょう。尊敬します。」
「は、はぁ?ありがとうございます?」
ユキヤは戸惑っていた。
「そう!愛されたいならその前に、自分が愛さなきゃダメですよね!」
根岸は興奮気味に身を乗り出して言う。
ユキヤはその勢いに押される。「あのね・・・根岸君、まずは落ち着いて、ね。」
「すみません興奮してしまって。」根岸は姿勢を正して座りなおした。
「でも、本当にすごいと思います。そこまで想える人がいるのは。」
「そ、そうなのかい?普通だと思うけど。」
「いえ。だからこそ白石さんもあなたを離すまいとしてるんです!」
根岸は力強く断言する。
「すみれが・・・俺を?」
「はい。」根岸はうなずく。
「彼女はきっと、あなたとの関係を大事にしてるんだと思います。
だからこそ、色々と知りたがるんです」
「なるほど。」ユキヤは納得したようにつぶやく。
確かにすみれがやたらと自分の事を知ろうとするのには気づいていた。
「だからもっと知りたいと思うのは当然だと思ってました。」
「それはまあ・・・うん。」
・・・とここまで言いかけたユキヤはある事に気付く。
つづく
これはすみれから何気なく言われたセリフだがユキヤの中でなぜかずっと引っかかっていた。
たしかに彼女との行為が、苦痛でしかないと言えば嘘になる。
しかしそれをよりによってすみれに指摘されるのはさすがにいただけないとも思うのだ。
(でもすみれのいう事って結構的確だったりすることあるからな・・・)
そんなことを思いつつユキヤは今日もまた彼女の家で彼女に縛られながらその愛撫を受けていた。
両手首を手錠で拘束され、両足もそれぞれベッドの端と端で固定されて身動きが取れない状態だ。
そして服はすべて脱がされていて、一糸まとわぬ姿になっている。
「ふーん。やっぱりこうやって縛られるの好きなんだ?」
「そ、そういうわけじゃ……」「ふーん、でもここは元気になってきてるよ?」
口ではそう言いつつも体は正直に反応してしまう。
先程まで散々焦らされたせいか乳首はすでにビンビンに立ち上がっているし、
股間の方も痛いくらいに勃起している。
「こっちの方はまだ触っていないのに大きくなってるね~。
もしかして期待していたのかな?ねぇ、ユキちゃん?」
彼女は意地の悪い笑みを浮かべながらユキヤのペニスを握ってくる。そのままゆっくりと上下にしごかれる。
「あぁっ……だめぇえ!」
「ダメじゃないでしょう?ほらここだってこんなに固くなってるよ?」
そう言って今度は亀頭を指先でぐりっと押される。
「あああっ!!」
あまりの快感に思わず声が出てしまった。
「ほんとうに可愛いよね君は……。もっといじめたくなっちゃう」
耳元でささやかれ背筋がゾクッとする。次の瞬間、突然強烈な刺激に襲われた。
「ひぃいいいっ!?」
見ると彼女がユキヤのモノを口に含んでいた。生暖かい感覚に包まれると同時に、舌先がカリ裏を刺激してくる。
「あああっ!そんなとこ・・・いじられたらぁ・・・あぁぁぁん」
あまりに強烈すぎる快楽に耐え切れずユキヤは絶叫する。
「うふふ、すごい声でちゃったね。気持ちよかった?でもまだ終わらないよ?」
そういうとすみれはユキヤの根元を手で掴んで激しく動かしてきた。
「あああっ!!・・・そんな・・・そんなことされたら・・・!」
「もうイキそうなの?早いなぁ。我慢しないと駄目だよユキちゃん♪」
楽しげな口調とは裏腹にすみれの顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
「ああ・・・そんなぁ・・・」
ユキヤは涙を流しながら懇願するがすみれの手の動きはさらに早くなっていく。
「あっ・・・だめぇ!で、出るぅ・・・」「はいストップ」
「ああっ!!!」
絶頂に達しそうになったところで急に手を止められてしまう。
ユキヤはガクガクと体を震わせている。
「ユキちゃん、男の子なんだから我慢しなきゃ!
それとも男の子だから我慢できないのかな?」
すみれはニヤリと笑いながらユキヤの耳に息を吹きかけてきた。
「ひゃうん!」
「あらかわいい反応。ふーん、ユキちゃんは弱点がいっぱいあるよね」
「ち、違う・・・今のは・・・」「違わないでしょ?こんなに感じてるくせに」
「お願い・・・もう許して」
「ダーメ。まだまだこれからだよ?」
そう言うとすみれは再びユキヤのモノを握りしめ、激しくしごき始めた。
「ああっ!また出ちゃいます!」「いいよ、出して。ほら、イッちゃえ!」
「ああっ!イクゥウウッ!!!」
再び訪れた限界に抗えず、ユキヤは盛大に射精した。
精液がベッドの上に敷かれた大型犬用のペットシーツへ大量に落ちていく。
「いっぱい出たね~」
「はぁはぁ・・・」恍惚とした表情のユキヤの目には少し涙が浮かぶ。
(今日もまた泣くまで責められてしまった・・・)
すみれはあらゆる手を使ってユキヤを気持ちよくさせてくる。
そして最後には決まって泣いて懇願するまで許してくれなかった。「はぁはぁ・・・」
激しい行為の後で疲れ果てたユキヤはそのまま眠りに落ちていった。
****
「・・・え?実家に帰る?!」
「うん、ひいおじいちゃんの三回忌。だから今度の連休は実家に帰る。」
「土日含めると5日間かぁ・・・」「ごめんね。せっかくのお休みなのに。」
「気にすんなよ。」
ユキヤはすみれの頭を撫でてやる。すると彼女は嬉しそうな顔になった。
「私がいなくてもも大丈夫?」「平気だって。俺を誰だと思ってんだよ?」
「ふふっ、そうだよね。」ユキヤの言葉にすみれは安心して微笑んだ。
「じゃあ行ってくるね。お土産買って来るから。」
「おう、行ってらっしゃい。」
ユキヤはすみれを見送った後、一人部屋の中でぼんやりとしていた。
付き合いだしてから、こんなに合わなくなるのは初めてかもしれない。
いつもなら一緒にいるはずの人がいないだけで、こうも寂しく感じるものなのか?
部屋だっていつもより広く感じる。今まではすみれがいてくれたからこそ、
この部屋に一人でいても特に気にならなかった。
しかし今はどうだろう。
ユキヤの心にぽっかりと大きな穴が開いていた。
****
「それで連休中にずっとバイトを入れてるっスか?」
連休中も浅葱はユキヤのバイト先の喫茶店に来ている。ただ休日なのでスーツではないが。
「ああ。すみれが帰ってくるまでにお金貯めとかないといけないんでね。」
ユキヤはこの分は夏休みでリベンジすると誓っていた。
そのために金をためることにしたのだ。
「若いからタフっすねぇ?」
「まあバイトは楽しいし、それに給料もいいですからね。」
「・・・でも帰ったら暇と。」
「そうですね。」
ユキヤはちょっと寂しそうに言う。
「それなら、ネギのやつと遊ぶのはどうっス?あいつも暇らしいんで。」
「いいんですかねぇ。」
「別に構わないと思うっスけど。」
「でも大事な教授のお相手しなくていいんですか?」
ユキヤは心配になって聞いてみた。
「大丈夫っス。教授は今、連休中の射精管理真っ最中なんで」
浅葱はさらっととんでもない事を言った。
「・・・そんな事してるんですか?あの人?」
ユキヤはドン引きする。
「してますよ。『管理開けは天国が待ってる』と張り切ってたっス」
「・・・・・」ユキヤにはちょっと理解できなかった。(あの変態紳士は・・・)
「それともあたしと遊ぶっスか?」浅葱がからかうように言う。「いや遠慮します。」
ユキヤは真顔で即答した。「なんでネギの時よりも拒絶の意思が強いっスか?!」
「何されるか分からないからです!」
ユキヤは必死だった。
なんたってあの性癖デパートの蘇芳教授の性生活を管理してる人間だ。
本当に何をされるか分かったものではない。
「酷いっス!さっちゃんがあんまりにも寂しそうだから、ちょっと遊ぼうと思っただけなのにぃ。」
浅葱はわざとらしく泣き真似をする。
「嘘つけぇ!!」
ユキヤは叫んだ。
***
「・・・それでなんでボクと会うことになったんですか?」
根岸は相変わらずのジト目でユキヤを見る。
「ゴメン、俺にもよくわからん」
ユキヤは困惑していた。
(浅葱さんが勝手に決めたんだよなぁ。俺、こいつとはあんまり話したことないんだけどな。)
ユキヤはため息をつく。
(とはいえど、こいつとすみれは仲がいいんだよな)
ユキヤは少し不思議だった。改めて根岸を見ると、やはり女性のように華奢な身体つきだ。
髪型もボブでこちらもやはり性別を判断しにくい。しかし顔立ちは中性的だが整っていて綺麗である。
声はややハスキーだが、それもまた男性らしさを感じさせない要因になっているだろう。
服装は男物なのだが、その格好で女っぽいを使うのだから、違和感がある。
(圭太は少なくとも女装してないと小柄ではあるけど男子に見えるからな・・・)
ユキヤはそんなことを考えていた。
「・・・あの、人の事何をジロジロ見てるんですか?」
ユキヤが見ているのに気付いたのか、根岸はユキヤの方を見て言った。
「いや、なんでもねぇよ」
ユキヤは慌てて目をそらす。
「そうですか?なら良いですけど」
「あー。えっと、お前って男だよな?」
「はい。一応生物学的には男性ですね。」
「そっか」
「・・・何聞いてるんだろうこの人」
根岸は呆れたように言う。
(特に用もないのに野郎二人きりってのは・・・どうにも)
ユキヤは思う。
「・・・メシでも行くか?」
「おごりですか?行きます!」
ユキヤの言葉に反応して、根岸はすぐに食いついた。
「おう。まぁ今日は俺のおごりでいいぜ」
「ありがとうございます!じゃあお言葉にあまえて。どこいきましょうかねぇ。」
「言っとくがそんな高いもんは無理だからな」
「分かっていますよ。」
二人は食事に出かけたのだった。
***
場所は変わってレストラン。
そこで食事をしていると。
「そういや君は、まだ1年なのにあのヘンタ・・・いや教授とどうして知り合ったの?」
本当は『なんで気に入られてるの?』と聞きたかったが、あまりに露骨なので内容を変える。
「あの人・・・いえ教授は、勉強しか取り柄のないボクに目をかけてくれて・・・」
と嬉しそうに語る根岸は心なしか顔が赤い。
「へぇ。そりゃ良かったな」
深入りは危険と考えたユキヤは適当に相槌を打つ。
「はい。最初はちょっと怖かったんですけれど、今は尊敬しています。それにとても優しいんです。」
「ふぅん。そうなのかい」
根岸の言葉が次第に熱を帯びてくるのに反比例するようにユキヤは素っ気なく返事をする。
「はい。優しくて紳士的で。もうボクは教授の虜ですよ。」
「それはよかったね」
ユキヤは若干引き気味に答える。
(うわぁ。なんか語りだしたぞこいつ。早く終わらないかなこれ。)
「はい。それでですね・・・」
その後も延々と続く根岸の話にうんざりするユキヤであった。
しかしここでユキヤはちょっと意地の悪い質問をする。
「でも教授は今浅葱さんが絶賛管理中なんだろ?」
「え?あ、はい。」
「それってさ、君的にはどういう気持ちなのかな?」
「え?」
「ほら、例えば自分の好きな人が他の人に取られちゃったとか、そういう感じ?」
「はい・・・悔しいですがボクだけではあの人の性癖を満足させることが出来ません」
根岸はうつむいて言う。
「そうだよね。普通はそう思うよな」
「はい。」
「で、実際どう思ってるわけ?浅葱さんのこと」
「彼女と教授はしょせんビジネスライクな関係にすぎません」
「ほう?」
「雇い主と従業員ってことです。いわばお金の関係です。」
根岸は力強く断言する。「なるほど。まぁ確かにそんなところだろうな。」
「はい。だから、その、つまり・・・ボクは教授にとって一番でありたいんです。
お金も何も関係ない強い絆を・・・ボクは持ちたいんです。」
(う・・・お、重い)
ユキヤは少しひるんだ。
「そ、そうか」
「はい。そうです。」
(すでについて行けない筈なのに、この底知れない感じは何だ?)
ユキヤは少し恐怖を感じた。
「あなただって、同じです・・・」
「は?何がだい?」
「あなたも白石さんに愛されたくてすべてを受け入れてますよね。」
「・・・!」(こいつ・・・俺とすみれの関係を・・・知ってる?!)
「そしてあなたは、彼女にすべてを捧げて尽くして・・・」
「違う!」
ユキヤは思わず声を上げる。
「愛されたいってのは確かだけど・・・オレはそれ以上にすみれを愛してる!」
(そうだよ俺は男としてすみれの事を愛してるんだよ!)
ユキヤは自分の本心をさらけ出す。
「・・・・・・」
突然大声を出したせいか、根岸は呆然としてこちらを見ている。
(あ・・・嫌われたかなこれは・・・)ユキヤはちょっとしまったなと思った。
根岸はその様子を見て、プルプルと肩を震わせ・・・
「・・・・す・・・素敵です!」
予想外の反応にユキヤはずっこける。「は?え?今なんて言った?」
「あなたのその情熱に感動しました。正直に言いましょう。尊敬します。」
「は、はぁ?ありがとうございます?」
ユキヤは戸惑っていた。
「そう!愛されたいならその前に、自分が愛さなきゃダメですよね!」
根岸は興奮気味に身を乗り出して言う。
ユキヤはその勢いに押される。「あのね・・・根岸君、まずは落ち着いて、ね。」
「すみません興奮してしまって。」根岸は姿勢を正して座りなおした。
「でも、本当にすごいと思います。そこまで想える人がいるのは。」
「そ、そうなのかい?普通だと思うけど。」
「いえ。だからこそ白石さんもあなたを離すまいとしてるんです!」
根岸は力強く断言する。
「すみれが・・・俺を?」
「はい。」根岸はうなずく。
「彼女はきっと、あなたとの関係を大事にしてるんだと思います。
だからこそ、色々と知りたがるんです」
「なるほど。」ユキヤは納得したようにつぶやく。
確かにすみれがやたらと自分の事を知ろうとするのには気づいていた。
「だからもっと知りたいと思うのは当然だと思ってました。」
「それはまあ・・・うん。」
・・・とここまで言いかけたユキヤはある事に気付く。
つづく
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キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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