【完結】今夜も彼氏を鳴かせたい~そして俺は彼女に抱かれる~

桃ノ木ネネコ

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第17話:教授たちの憂鬱(前編)

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その日、すみれとユキヤは食堂で一緒に食事をとっていた。
基本的に昼食はそれぞれの友人ととることが多いので、
こうして二人でテーブルに着くのは珍しい。
「ねぇ、ユキヤってさぁ……」
「んー?」
「最近何か変わったことない?」
「うーん、特にないかも」
「そうかぁ……」
「どったの?」
「いや、別になんでもないよ」
「ふぅん」
そんな会話をする二人に話しかける人物がいた。「相席よろしいかな?」
その年齢は30代ぐらいか、その態度は物腰柔らかい紳士のそれだった。
しかし、よく見るとどこか怪しげな雰囲気もある。
「えぇどうぞ」
二人は断る理由もなく快諾する。
「失礼しますね」
男は椅子を引きゆっくりと座る。
そして優雅な手つきで紅茶を飲む。
「他のテーブルが満席でね。助かりましたよ」「いえいえ」
「皆さんとは学部が違うと思いますが、私はこの学校で教授を務めております。」
「あ、そうなんですか。じゃあ私たちの先輩なんですね」
「はい、まぁまだ駆け出しですが……お嬢さん方のような若い方に学んでもらえるなら嬉しいですよ」
「へぇ~教授なんだ。なんかすごい人じゃん!」
「いやいや、自己紹介が遅れましたね。私、蘇芳忠すおうただしと申します。以後お見知りおきを」
恭しく頭を下げる男。
蘇芳忠と名乗る男を見て、すみれは思うところがあった。
(あれ?あの人どこかで見たような……。誰だっけ?)
「えっと、 白石しらいしすみれといいます。よろしくお願いします」
「あ、俺は 茶木さきユキヤっていいます」二人も自己紹介する。
「はい、よろしくお願いします。ところでお二人は付き合ってるのですか?」
「え?あぁはい。そうですけど」
すみれはあっさり肯定する。
「ほぉそれは素晴らしい!仲睦まじくて羨ましいかぎりですよ」
蘇芳は心底嬉しそうに言った。
「それと私、心理学部の教授として教鞭をとる傍ら、
この大学の学生心理カウンセラーも兼ねておりますので、
もし何かお悩みでもございましたら、気軽に声をおかけください。」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、失礼いたしますね。お二人の恋路に幸多からんことを祈っておりますよ」
そう言い残して、彼は去っていった。
「なんか感じの良い人だったね。ユキヤの知り合いじゃないよね?」
「うん全然知らない人だよ。俺にあんなオジサンの友達はいないよ」
「そっかぁ」
「すみれこそ、誰かに似てると思ったんだけど、どこの誰だか思い出せないとかある?」
「うーん、あんまり思い出せないんだよね。でもなんか引っ掛かるんだよねぇ」
「ふぅん、まあいいや。それより早く食べようぜ。冷めちまう」
「そうだね」
二人は食事を再開した。

蘇芳が食堂の外に出るとスーツ姿の女性が立っている。
格好と雰囲気からして学生ではないのは明らかだ。
「で、浅葱あさぎくん。あの二人、間違いないのですか?」
「あたしが見た感じ間違いないっスね。男の方はかなり調教されてると思うっス。」
「ほう、それは興味深いですね。確かに先ほど見た感じでは、
時折彼女に対して怯えた目をしてましたからね。
これはいいデータが取れそうですよ・・・」
「それにしても、すみれちゃん可愛かったっスね。ちょっと欲しいっス」
「まあまあ、落ち着いて下さい。彼女はあくまで私の研究対象です。横取りは許しませんよ」
「わかってるっスよ。ちょっと言ってみただけっス。」
「それじゃ、私は戻りますね。引き続き監視を頼みますよ。くれぐれも慎重に。」
「ところで教授、今のご気分はいかがっスか?」「・・・快適ですよ、とても。」
「ならもう少しパワーあげておくっスね。」そう言うと
彼女はおもむろにリモコンを取り出しメモリをいじる。
途端に彼の体がビクンッと跳ね上がる。そして全身に汗を浮かべて悶絶した表情を見せる。
「ぐぅあああっ!つっつつぅうう!!ぎぃいいっ!!」
「ほらほら教授、頑張ってくださいっス!」
「ひいっ!ひっ!ぎゃああぁぁぁぁ!!!」
「まったくしょうがないっスね、この性癖のデパートのおっさんは・・・」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・。もう大丈夫です。」
「了解っス。また何かあったら呼んでくださいっス」
「はい、ありがとうございます。では、失礼します」
彼はよろめきながら廊下の奥へと消えていった。
「ふう、疲れた。さすがにあれはキツすぎるっス。でも、これも全部教授のためっスからね」

***
それからしばらく経ったある日の朝、ここは蘇芳の自宅。

根岸ねぎし君、よく頑張りましたね。素敵でしたよ。」
「あ、ありがとうございます・・・樹は幸せ者です・・・」
寝室で服装を整える蘇芳と、ベッドでは根岸と呼ばれた人物が裸でうつ伏せに横たわっている。
その背中には鞭で打たれたような痣と、噛みあとがある。「今日も気持ちよかったですか?」
「はい、教授のおかげで毎日幸せな日々を過ごしております・・・」
「それは何よりです。君は本当に優秀な助手ですね。これからもこの調子でお願いしますね。」
「はい、お任せ下さい。・・・精一杯この身を尽くさせていただきます。」
そう言うと彼はゆっくりと立ち上がり、服を着始めた。
それはとても男性とは思えないほど華奢な体つきだった。
そんな時寝室に誰かが入ってくる。
「教授そろそろ支度しないと朝の会議に遅れるっスよ」
秘書の浅葱だった。

「わかりました。今行きましょう。」そういう言って手早く身支度を整えると蘇芳は部屋から出ていった。
残された浅葱は根岸を見て「あんたも大変っスね。」と見下すような声をかける。
「・・・うるさいな、お前に同情なんかされたくない・・・」と根岸は浅葱をにらみつける。
「はいはい、じゃああたしは先に研究室行ってるっスから」
「勝手に行けばいいだろ、クソ女め」
「は?なんすかそれ、こっちだって好きでこんなことやってんじゃないんスけど。
まあいいっス。じゃあお先っス。」そういうと浅葱は蘇芳のあと追って出ていった。
その様子を見送りながら根岸は「ボクが・・・教授の一番なんだから」とつぶやいた。

***

蘇芳は浅葱の運転する車の中で、「・・・彼らとの接触は出来そうですか」と聞く。
「えっと、まだ確証はないんスけど、多分いけると思っス。」
「そうですか。うまくいくといいのですが・・・」
「・・・あたしは大丈夫っスが、ネギの方はどうですかねぇ・・・」
「彼も君に負けず劣らず優秀な助手です。」「まあ、確かにあの子は優秀っスよね。」
根岸樹は大学1年生だが、蘇芳の助手として様々な研究をこなしている。
「ただ、教授の期待には応えられなさそうな感じっスかね。」
「・・・どういうことでしょうか」
「ネギは結構真面目っスからね。実験にも手を抜かないし、
レポートもしっかりやってるっス。
ただちょっと根詰めすぎというか、思いつめ過ぎてる感はあるっスね。」
「・・・そうですか。」
「・・・あのヤンデレコミュ障に研究対象への接触なんて
荷が重すぎじゃないっスか?」
「私は彼の能力を信じていますよ。それに、いざとなったら私がフォローします。」
「まぁ、そうっスね。」浅葱はそう言うとアクセルを踏んだ。

****
その日、ユキヤがバイトに入るとマスターが珍しいものを作っていた。
「ほれ、伝説の50㎝タワーパフェだ」
「へぇ~俺実物見るの初めてですよ・・・」
メニューが存在するのは知っていたが、ユキヤがバイトに入ってから
見るのは初めてだった。
その名の通り高さは50cmくらいだろうか? 大きなガラス製の容器の中に
クリーム、アイス、フルーツ、ウエハースとふんだんに盛られている。
そして頂点部分にはチョコレートで出来た小さな城があり、
チョコペンで『I love you』と書かれている。
「すごいっすね・・・これ食べ切れる人いるんですか?」
「・・・今来てるよ。しかもこれはおかわりだ。ちょっと持ってってあげてくれ」
「うわーマジすか。どんだけ食うんだろうこの人」
ユキヤがパフェをトレーに乗せて席に向かうと、
そこにはスーツにショートカットの女性がいる。
前髪で片目が隠れているて表情がわかりにくい。
「はい、お待たせしました。当店名物の巨大パフェでございます」
「ありがとうございます。美味しそうですね」
女性は笑顔で答える。
「当店自慢の一品ですからね。どうぞご堪能ください。」と
ユキヤは営業スマイルで返す。
女性がスプーンを手に取り、巨大なパフェを食べ始める。
その姿はどこか優雅で気品があった。
「んふぅ・・・」と思わず声が出てしまうほどおいしいようだ。
「うまっ!これめっちゃうまいっス!」と思わず口に出してしまう。
「あの、お客様?」「あ、すいません、あまりにおいしかったものでつい。」
「いえ、喜んで頂けて何よりです。」とユキヤは頭を下げた。
「こんなにおいしいのは久しぶりに食べました。」と女性は微笑む。
「そう言ってもらえると作り甲斐があるってもんですよ。」
ユキヤもうれしそうに答える。
「仕事の合間に甘いもんは最高っスね!」「はい?」
「いえいえ、とってもおいしゅうございますわ。」そう言いつつみるみる完食する。
(いやどこに入っていくんだよ・・・こんな量)
流石のユキヤも若干引いている。「ごちそうさまでした。とても満足いたしました。」
「それは良かった。またのご来店をお待ちしております。」

こうして、このインパクトのあり過ぎる出会いのせいで、
浅葱とユキヤが打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
もっとも、浅葱の正体は明かしていないが。

一方、浅葱の心配通り、根岸の方は苦戦していた。
(教授のためとはいえ・・・ボクが見知らぬ女の子と話すなんて・・・)
蘇芳から根岸への頼みは、すみれと接触する事だった。
人と話すことが得意ではない根岸にとっては、ハードルが高い使命だった。
しかし、一度引き受けてしまった以上、今更断わる訳にもいかないし、 
何よりも蘇芳に失望されたくない一心で彼は頑張っていた。

(ここはひとつ、教授がやったように満席を装って相席する方法を・・・)
そう思いながら、学食に行った根岸だったが、相席を頼もうとした瞬間、足を滑らせて
すみれの目の前で思い切り転倒する。「大丈夫ですか!?」すみれは慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫です。ちょっと足を引っ掛けて転んだだけですので・・・」
と恥ずかしさのあまり顔を赤らめ、立ち上がる根岸。
(どうしよう。変な人だって思われちゃったかも・・・)
そんな事を考えているうちに、彼女は手を差し伸べてきた。
「本当に大丈夫ですか?ほっぺたをすりむいてるみたいですよ?」
彼女の白く細い指が自分の頬に触れる感触に根岸はどぎまぎしてしまう。
「え?あ、本当ですね。ありがとうございます。」
「ちょっと待ってくださいね、私絆創膏持ってるんで・・・」
すみれはカバンの中をごそごそとして絆創膏を探す。
(教授が言っていたとおりだ。この人は優しい。)
「あ、あった!ちょっと隣の席に座ってもらえますか?」
そして、すみれの白い手が自分の顔に近づいてくる。
(うわぁ。すごく綺麗な手。それにいい匂いがする・・・)
「あの、動かないで下さいね。」
根岸の傷口にすみれは絆創膏を貼ってくれた。「これでよしっと!」彼女はニコリと微笑みかけてくれた。
その笑顔にドキリとする根岸。
「あの・・・ありがとうございますボク・・・1年の根岸っていいます!」
根岸は思い切って声をかけた。
「あ・・・君男の子だったんだ・・・」
『ボク』という一人称を聞いて、すみれが申し訳なさそうな表情をする。
てっきり女の子だと思っていたようだ。
「はい。よく間違えられるんですけど、一応男です。」
「私は2年生の白石と言います。よろしくお願いしますね、根岸さん。」
「よ、宜しくおねがいしましゅ。あっ噛んじゃいました。」
すみれの差し出した手に自分の手を重ね合わせ、握手をしながら自己紹介をした。
緊張のせいもあって舌を思いっきり噛んでしまった。
すみれはクスッと笑っている。
(・・・一応これ結果オーライってやつなのかな。)
根岸は心の中でホッとした。

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