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第14話 地球最後の日?
しおりを挟む翌朝の土曜日。
いつも通り目覚めた僕は、珍しくスマートフォンにメッセージの通知がきていることに気づいた。
不審に思いつつも、とりあえずアプリを開いて確認する。
「あ、昨日の……!」
どうやら、月城さんから連絡があったようだ。僕はメッセージの履歴を見た。
【いつき君、おっはよ~! キミくらいの歳の男の子とやりとりしたことなんてないから、お姉さん緊張しちゃうナ…(汗)いつき君もアルバイトは今までしたことないみたいだから、もしかして緊張しちゃってるのカナ?! 気になることがあったら、何でもお姉さんに聞いていいからね! よろしくネ!】
一度履歴を閉じて何も見なかったことにする。
「…………???」
あれ、月城さんってこんな人だったっけ……? 昨日の夜に話をした時と比べてだいぶテンションが違う気が……。
念のために名前を確認すると「つっきー☆」と表示されていた。この人、本当に月城さんだよね? 昨日連絡先を交換したときにちゃんと確認しておけばよかったな。
友達登録のやり方を忘れていたので、代わりに全部やってもらった弊害が早くも出てきてしまった。
「え、えっと……」
僕は動揺しつつも、とりあえず当たり障りのない返信だけしておく。
【よろしくお願いします】
すると、送信した瞬間に既読がついた。ものすごく早くてびっくりしていると、すぐに返信がくる。
【突然だケド、今日のお昼に二人だけで会えるカナ??? 会えるよね? お姉さん、キミといろいろお話したいな~! いつき君のコト、もっと教えてネ!】
そこそこの長さの文章だけど、今の短時間で打ったのかな。
【今日は休みの日なので大丈夫です】
僕はそんなことを考えつつ、しばらく悩んだ後でそう送った。本当は休みの日に外なんか出たくないけど、これから妖魔退治のアルバイトをするのにそんなことは言っていられない。勇気を出して一歩踏み出す時がきたのだろう。
【『大丈夫』って、どっちか分からないよ~(涙)若い子の言葉は難しいナ……。今から電話するネ!】
ごめんなさい。そう入力しようとすると、宣言通りすぐに電話がかかってきた。僕は慌てて通話ボタンを押す。
「も、もしもし……」
「もしもし、一樹君だな」
「は、はい……」
電話にでると、昨日と同じ落ち着いた感じの月城さんの声が聞こえてきた。今までやり取りしていた人と同一人物だとは思えない。人間って怖いな……。
「仕事をするにあたって、キミに教えておかなければいけないことが色々とある。今日の十二時、凪江《なぎえ》駅まで来れるかい? 私としては、そこまで来てもらえると都合がいいんだが……」
「えっと……」
凪江駅は学校の最寄駅だ。いつも行っているから問題はない。そもそも、僕はいつでも予定が空いているけど。
「は、はい。行けます……」
「分かった。それじゃあ十二時に待っているぞ」
「あ、あの……」
「どうした?」
「い、いえ、何でもないです……」
メッセージの文体について聞こうと思ったけど、もしかしたら傷つけてしまうかもしれないので止めておくことにした。
きっと、文章を書くときだけテンションが高くなる人なのだろう……。
僕は心の中だけ若干テンションが高めだし、そういう人も結構いるんだ。
「分かった。では切るぞ」
月城さんはそう言って、すぐに通話を終了させた。その後、今度はアプリの方に再びメッセージが来る。
【そういえば、いつき君もつっきー☆だね! お姉さんとお揃いだ~! それにしても、年下の男の子とデートなんて…お姉さんドキドキだナ…! しかも十代(笑) 楽しみにしてるネ…。】
セクハラだ……。
僕は履歴を閉じて何も見なかったことにした。
でもこれが届いたということは、つっきー☆と月城さんが同一人物であると考えて間違いないだろう。
「……とにかく、準備しないと」
十二時から月城さんと会って妖魔退治の話をすることが決まった以上、休みの日だからって遅くまで寝ているわけにもいかない。僕はベッドから起き上がり、一階のリビングへと下りた。
休みの日は、作り置きの朝ご飯が冷蔵庫の中に入っているはずだ。最近、湊に触発されて料理に凝り始めた父が作ったものである。今のうちに食べておこう。
「あれ、お兄ちゃんおはよう」
「お兄ちゃんが……起きてきただと……!」
リビングには、湊と渚の姿があった。二人とも今日は昼過ぎまで部活の練習があるので、おそろいのジャージ姿で朝食のピザトーストを食べている。……同じ中学に通ってるんだからお揃いなのは当たり前だけど。
「え……今日が地球最後の日?」
湊はそう問いかけてくる。僕が朝早くに起きて来ただけでそこまで驚かなくていいのに。
「まさか。地球が今日終わるくらいのことで、お兄ちゃんが早起きするはずない!」
渚は僕のことを一体なんだと思っているのだろうか?
「いや、地球最後の日だったら僕だって早起きくらいするよ渚。たぶん。…………今日は別にそんなんじゃないけど」
「えー? じゃあなんで?」
「ちょ、ちょっとした用事」
「用事ってなに? 危ないことじゃない? 悪い人に脅されてるならちゃんと相談するんだお兄ちゃん!」
妹にすごい心配されてる。不甲斐ないお兄ちゃんでごめんなさい。
「別にそんな危ないことじゃないよ」
ちょっと危ないことだし、これから危ない感じの人と会うけど。
「それで、用事って何があるの? 言えないことならボクも止めるけど……」
その時、見かねた湊が問いかけてきた。
「――はっ! もしかして、怖い人に絡まれてお金を持ってこいって言われてるとか!?」
「違うよ」
「かっ、体のほう!?」
「もっと違うよ」
弟からもとても心配されている。
……でも、月城さんから口止めされているので詳細なことは話せない。僕は、話せる部分だけどうにか説明することにした。
「えっと、その……お兄ちゃん、アルバイト始めるから……あの……」
「えええええええええええええっ!?」
「うそだああああああああああっ!」
全部言い終わる前に、大げさに驚く湊と渚。
「お、お兄ちゃんがアルバイト!? あの、お兄ちゃんが……?!」
「いつも面接で落とされるのに……頑張ったんだぁ……ぐすっ!」
「泣かないでよ渚……ボクまで、涙が……っ、うえええええんっ!」
「うわああああんっ! 今日はお祝いして貰わないと……っ!」
「夜ご飯は……ご馳走決定だね……っ! ひっぐ!」
絶対にそこまで泣くほどのことじゃない。
「お、大げさだよ二人とも……」
「ぐすっ、でも……何のアルバイトするの……?」
涙を拭いながら、僕の目を見る渚。
「せ、清掃のアルバイトだよ」
月城さんから家族にはそう説明しろと言われている。「嘘ではない。ただし、清掃するのは妖魔どもだがな」と笑っていた。
笑い事ではないと思う。
「なるほど~、確かにそれならあんまり話さなくてよさそう! でもちゃんと挨拶するんだよ!」
「考えたなお兄ちゃん! いつの間にっ……立派に成長して……このぉっ!」
「う、うん……」
ここまで大喜びされるなんて……。僕、これからはもうちょっと心配されないように生きた方がいいかもしれない。
そう思うのだった。
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