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第3話 危険な超能力
しおりを挟む僕が超能力に目覚めたのは、ひと月ほど前のこと。五月の初め頃である。
授業中、床に落とした消しゴムが浮かび上がり、僕の手元に戻って来たのだ。最初は白昼夢を見ているのかとも考えた。
だけど、何度試しても消しゴムは浮かび上がる。自分が超能力に目覚めたのだと認めざるを得なかった。
……孤独を極めすぎておかしな幻覚が見えるようになったのだとは思いたくなかったから。
面白いので他の人にも見てもらおうかとも考えたが、話しかける勇気なんて僕にはない。とりあえず、何事もなかったかのように授業を受けることにした。
ちなみに、消しゴムを浮かせていた時は机の上に教科書を立てていたので、周りにバレていないはずだ。言い出すタイミングがなくて家族にも話していないので、超能力の存在を知っているのは僕だけである。
放課後、家に帰ってすぐ、僕は超能力についてインターネットで調べた。
「ええと、超能力の種類、何がある……っと」
ちなみに学校でスマートフォンを使わなかった理由は、友達がいないせいでほとんど使わないため、うっかり家に忘れてきてしまったからだ。勿論スマホの連絡先には家族の名前しか登録されていない。
「…………あった」
超能力について書かれた記事がヒットした。我ながら素晴らしい検索スキル……!
「ええと……」
物体を浮遊させたり動かしたりするような力は、念力――サイコキネシスと呼ばれているらしい。情報が錯綜していたり怪しかったりで、詳しくは分からなかったけど、場合によっては自分の身体を浮かび上がらせることも可能なのだそうだ。
「えー、嘘だー。いくら何でも、自分が浮かぶなんてこと……」
試したらあっさりと出来た。僕の体は宙に浮くらしい。
「す、すごい……!」
この力があれば、全世界を支配して体育の時間に二人組を作らせることを法律で禁止に出来るかもしれない!
僕は馬鹿みたいなことを考えながら、一人でニヤニヤしていた。正直、自分に他の人とは違う特別な力があることが分かって、浮かれていたんだと思う。浮かれてるっていうか、実際に浮いてるんだけど。
……でも、楽しかったのはその日だけだ。ぼくの念力は思っていた以上に――ともすれば、本当に世界征服ができてしまうくらい強力で危険な代物なのだと、後日思い知らされることになる。
何があったのか一言で言ってしまうと、僕のせいで遠い国の山が消し飛んで、ちょっとだけ世界地図が書き変わった。
思ったよりスピードを出して空を飛べることに気付いたので、調子に乗って遠くまで行ったらこの有り様である。
それほど強く念力を使ったつもりはない。消しゴムを浮かせるのに使う力が息を吹きかける程度、自分を浮かせるのに使う力が小指を動かす程度だとすれば、山を吹き飛ばす時に使った力はぎゅっと手を握るくらいのものだ。
ネットニュースで確認した所、幸い怪我人や死者は出なかったみたいだけど、一歩間違えば人殺しになっていた。
そこでようやく、僕は思っていたよりも遥かに凶悪かつ危険な超能力者になってしまったことに気づいたのだ。
――そんなわけで、怖くなった僕は超能力を封印し、これまで通り普通のぼっちとして生きていくことに決めたのである。こんな力、どう考えても持て余すし、人に知られてもろくなことにならないだろうから。
……だというのに、話しかけてきた不審者を爆発四散させてしまった。僕のしたことは紛れもなく殺人だ。警察に自首をして罪を償おうにも、何一つとして証拠が残っていない。意図せず完全犯罪を成立させてしまったのである。
「ご、ごごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」
ベッドの中で目を閉じているというのに、まったく眠れない。色々なことが起こりすぎて疲れきった頭で、僕はふと思った。
「……いや、でも……あれはどう見ても化け物だったでしょ!」
そう、最初は確かに人の姿をしていたけど、その後に変身したあれはどう見ても鬼だ。人に化けていた鬼が、獲物である僕を前にしてその正体を表したのである。
「………………!」
その時、僕は理解した。
「ふふふふ……! そういうことか……!」
つまりこの世界には、さっきみたいな化け物が実は沢山蔓延っているのだ。そして僕は、そいつらを討伐する戦士として選ばれ、超能力に目覚めたのである。
「世界の平和を守るために選ばれし者……それが僕!」
そんな風に考えていたら、いつの間にか寝落ちして朝になっていた。化け物なんているはずないし、きっと深夜に散歩へ出たところから夢だったのだろう。
寝る前にする妄想って恥ずかしいね。えへへ。
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