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第38話 観光客、冒険者達から避けられる
しおりを挟む「なんだか……いやらしい視線を感じますぅ……」
「そうか。よかったな」
「あうぅ……私はマシロ様のものなのにぃ……!」
「違うぞ」
ギルドの内装は、水の都のものとさほど変わりがなかった。
違っているところといえば、壁際にしっかりした造りの暖炉が設置されているという点くらいだろうか。それによって、外と比べてだいぶ暖かくなっているのだ。
他には、ここに居る冒険者の雰囲気も水の都の時とは違った異質なものを感じる。
ルーノスが雪原を越えた雪山にあるからなのか、数が少ない。しかしその分、一人一人がしっかりとした装備をしていて、強者のオーラを放っていた。
観光客である俺が正面から戦いを挑めば、あっという間に粉砕されてしまうだろう。恐ろしい限りだな。
「見ろ、弱そうな奴が来たぜ。ありゃカモだな」
そんな危ない冒険者のうちの一人が、俺の方を見てとんでもないことを言い始める。
「新入りか? 実力を勘違いしちまったガキなら追い返してやらねぇとなァ?」
やれやれ。あまり長居すると厄介なのに絡まれそうだな。
そんなことを考えていたその時――
「……兄ちゃん達、やめときな。あの男、魚人みてぇな姿の化身を連れてる。つまり、精霊と契約したイカレ野郎だってことだ」
冒険者たちのまとめ役と思しき強面の男が、血気盛んな二人を制止した。
「俺は色々な精霊使いと会ってきたが、ヤツらは……全員もれなくヤバかった……。下手に関わらねぇのが身のためだぜ」
「お、おう……」
「アンタがそう言うなら……仕方ねェ」
よく分からないが、ディーネを連れていたお陰で難を逃れたらしい。
「やっとマシロ様のお役に立てたみたいですねぇ……務めを果たせて良かったですぅ……」
「ああ……」
ディーネを押し付けられただけの俺が、冒険者どもから異常者扱いされていることに関しては納得できないがな。
「ところでぇ……今日は一体、どのような依頼を受けるのですかぁ……?」
何とも言えない気分になっていたその時、ディーネがそんなことを聞いてきた。
「ファイアドレイクの討伐依頼だ」
「ふぇ……?」
俺は掲示板まで歩いていき、お目当ての依頼が書かれた用紙を引きはがす。
「これだ。内容を知りたいのならしっかりと読んでおけ」
そして、ディーネへと手渡した。
※※※※※※※※※※
*B級クエスト――ファイアドレイクの討伐*
町の近くにある岩窟にファイアドレイクが住み着いて困っています。
今のところ、ヤツはダンジョンの奥で大人しくしているみたいですが……町の近くに住み着いた危険な魔物の噂が外にまで広まってしまったお陰で、客足が遠のいてまるで商売になりません。どうか、ヤツが暴れ出して町を襲う前に討伐してください。
討伐に成功した証としてファイアドレイクの首を持ち帰れば、20000¥$をお支払いします。今なら温泉饅頭もお付けします。
腕に覚えのある冒険者の方はどうか依頼を引き受けてくださいませ。
ルーノス温泉組合より
※※※※※※※※※※
「おんせんくみあい…………」
「町の皆さんも大変だな」
もっとも、俺の目当てはファイアドレイクが落とす『転移の指輪』だが。
その指輪を装備すると「トラベル」という魔法が使用可能になり、一度訪れたことのある町やダンジョンへ一瞬で転移することが出来るようになるのだ。
職業名的に考えて、観光客は真っ先にこの魔法を覚えるべきだと思うのだが……残念ながらレベル100にならなければ習得できない。
だからこうしてファイアドレイク狩りをしなければならないのである。
「やれやれ……」
「あのぉ……ベル様とリース様が居ませんが……これを私達だけで……?」
「ああ。その方が色々と都合が良い」
ファイアドレイクが吐く火炎のブレスは、ただの火炎耐性だけでは貫通してしまう。
だから、ディーネの持つ「聖水の加護」というスキルと「ウォーターバリア」という魔法を重ねることで三重の火炎耐性を獲得させ、「庇う」でひたすら受けきってもらうのである。
俺一人であれば確定で庇えるので、この編成が一番被害を抑えられるのだ。
「喜べ、ディーネ。なるべくお前だけが痛めつけられるような作戦を考えてやったぞ」
「あぁっ! そんなぁ……ひどいですよマシロ様ぁ……っ! はぁ、はぁ……!」
――かくして、俺たちはギルドの受付で討伐依頼を受注するのだった。
「……見ろ。やっぱりアイツはヤバいだろ?」
「ああ、そうだな。精霊の化身をあんな風に扱うなんて、恐れを知らなすぎるぜ! かわいそうに……」
「マシロ、か……。名前は覚えておこう」
というか、冒険者たちからものすごく誤解されている気がするんだが?
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