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第35話 観光客、混浴の湯で女神を降臨させてしまう
しおりを挟む宿屋へと到着し諸々の手続きを済ませた俺たちは、主人の勧めで食事の前に温泉に入っていた。
この宿の温泉は雪景色を一望できる露天風呂になっていて、夜と朝で違った景色を楽しむことができる。
加えて、湯に浸かっているだけでHPが回復し全能力値に上昇補正がかかるようになっているのだ。
至れり尽くせりといった感じだな。
「はぁ~……すごくあったかいですご主人様~……」
ベルは顔を真っ赤にしてそんなことを言いながら、ふらりと俺にもたれ掛かってくる。
入浴中なのでもちろん服は着ていない。丸裸だ。
「のぼせないように気を付けるんだぞ」
「はい~」
見ての通り、この温泉は混浴なのである。今のところ、俺たちの他に客はいないようだが。
「あぁ~~~っ! ごくらくぅ~~~っ!」
「とろけてしまいそうですぅ……」
リースとディーネは先ほどまで向こう側で水をかけあって遊んでいたが、温泉の癒し効果に負けて骨抜きにされてしまったらしい。
「実に平和だな。魔王仕事してないだろ」
あまりにも気の抜けた光景を目の当たりにして、思わずそんなことを呟いたその時、
(良いご身分ですね、マシロ……)
突如として脳内に聞き覚えのある声が響いてきた。
(お前は……女神!)
俺は思わず眉をひそめる。女神め……魔王以上に仕事をする奴だ。
(何なのですかその嫌そうな顔は……! まったく、嫌なのは私の方ですよ。せっかく温泉に浸かって疲れを癒していたのに……)
温泉に浸かる? どこにも見当たらないが……何を言っているんだこいつは。
「……もしかして……あれがそうなのか……?」
そこでようやく、俺は温泉の中心に設置されている石像が女神像であることに気づくのだった。
(私は各地の像と感覚を共有することができるのです。理解したらさっさと消えてください……あなたは目の毒ですので……)
「ふむ……」
原作ではこの町のどこにも女神像は登場しないはずなのだが、まさか温泉に隠されていたとはな。
(しかし、広場じゃなくてこんな場所に女神像が設置されているなんて……大して敬われていないんだな)
(そんなこと関係ないでしょう! あなたはいちいち一言余計なのですよ……!)
そう言われても、俺は本当のことを言っているだけだからな。
やれやれ、この女神と会話をするのは本当に疲れる。温泉の効能と打ち消しあってプラマイゼロになってしまうぞ。
(分かっていないようなのでお伝えしますが、それも聞こえていますからね……! 私はあなた方が言うところの上位存在ですから……!)
やれやれ、俺の入浴シーンでは飽き足らず心の中まで覗き見るとは、とんだ変態女神だな。
(本当に腹立たしい人ですね……! 何がプラマイゼロですかっ! あなたの存在は温泉の効能があってもマイナスですよ!)
(俺も同意見だ。いい加減うるさいので静かにしてくれ)
(ぐぬぬ……こ、こうなったら……実力行使です!)
何をまた訳の分からんことを――と思ったその時。
天から女神像に向かって真っ白な雷が降り注いだ。
「………………っ!」
「て、敵襲ですかご主人様っ?!」
「分かない……気をつけるんだベル」
あまりの眩しさに、思わず目を細める俺。
「マシロ……許しません!」
やがて目が慣れてくると、女神像の前に一人の女が立っていることに気づいた。
金色に輝く長髪に、翠色の瞳。真っ白な肌。そして、何故か発光している全身。
神々しい雰囲気を放っているつもりなのかもしれないが、服を着ていないので全裸で発光する痴女になってしまっている。
もっとも、温泉なのだから服を着ていないのは当然だが。
「しかし、目のやり場に困るぞ」
「すごい……なんて大きいの……! 豊満すぎるわ……!」
女神の神聖な姿を目の当たりにしたリースは、自分の平らな胸を触りながら呟く。
「えっと、ご主人様、あの人は一体……」
対して、ベルはただひたすら困惑している様子だった。
「おそらく女神だ。俺が怒りを買ったことによって降臨してしまったらしい」
「な、何をしたらそんなことに?!」
俺は普通に話していただけなんだがな。
「――ディーネ。あなたはウンディーネの生み出した化身なのですから……マシロではなく私の味方をする義務があります。分かっていますよね?」
「いえ……私はマシロ様に従うように言われているので、お断りしますぅ……」
ディーネを仲間に引き入れようとし、あっさり失敗する女神。色々と残念な感じだな。
「もういいです。…………マシロ! あなたに神の裁きを下しますっ! 覚悟しなさいっ!」
後に引けなくなったのか、女神は俺を指さしてそう言い放ってくるだった。
……やれやれ、まさか温泉で神と戦う羽目になるとはな。浸かっている間はHPが回復するから一生決着がつかないと思うんだが……。
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