上 下
17 / 46

第17話 観光客、水の都をのんびり観光する

しおりを挟む

 リースを仲間《ペット》にし、日々を快適に過ごせる生活魔法を習得した俺は、そのまま王都に――――は立ち寄らず、そこから更に北西へ進み、大陸沿岸部の離島に存在する水の都『クレイン』までやって来ていた。

 潮風が実に心地良い。

「ますたー。これあげる!」
「さっき二人で拾ったんです!」

 海上に架かった長い橋を渡って町中へ足を踏み入れると、早速リースとベルが白くて丸い石を二つ手渡してくる。どうやら、また【アイテム拾い】の効果が発動したらしい。

「売ってお金にするんでしょ? ベルから聞いたわ!」
「……欲しければリースが持っていても良いんだぞ」
「どうして? 中に身が入ってないから、あたしが持っててもお腹いっぱいにならないわ!」

 やれやれ、リースもベルも食べることしか考えていないようだ。

 もしすると、俺が仲間《ペット》にする前はこうやって食べ物を探していたのかもしれない。【アイテム拾い】というスキルは実に闇が深いな……俺が勝手に見出しているだけだが。

「……分かった。ありがたく貰っておこう、でかしたぞ」

 俺はそう言って石を受け取り、二人の頭をなでてやった。

「ふふふ……!」
「えへへぇ……!」

 羽をパタパタさせるリースと、尻尾を振りながら獣耳を動かすベル。

 魔物であるリースを人目に晒して大丈夫なのかという考えがここに来てよぎったが、周囲の通行人が俺たちのことを気にしている様子はない。

 悪魔の羽が生えているとはいえ、リースはほとんど人に近い姿をしているため、余程のことがない限り魔物だとは見抜かれないのだろう。

 俺も原作の知識がなければ、ベルと同じ亜人の少女だとしか思わなかっただろうからな。

「では行くぞ。俺から離れるな」
「分かってるわよ、ますたー!」
「ご主人様に一生添い遂げます!」

 かくして、俺は新たな町の観光を開始したのだった。

 安全な生活が確保された状態でリアルなゲームの世界を巡る体験なんて、本来はできるものではないからな。存分に楽しませてもらうぞ。

 魔王は気が向いたら倒す。今のところレベルも足りていないしな。

 *

 そんなこんなで、まずは商店街へ向かいながら貰った貝殻を【鑑定】したところ、2000¥$相当の真珠であることが判明した。

 二人のレベルが上がれば上がるほど、拾ってくるアイテムの価値は高くなるのである。【アイテム拾い】は地味だが優秀なスキルなのだ。

「……という訳でこれを買い取ってくれ雑貨屋のおっさん」

 商店街へ到着して真っ先に雑貨屋を訪れた俺は、店主のおっさんに向かって言った。

「あ? なんだお前……妙に馴れ馴れしいな……」
「初めて会った気がしないんだ」
「俺はお前と初めて会った気しかしないんだが……?」

 そして二つの真珠を売り捌いた結果、所持金の合計は10100¥$となった。これだけあれば、少しくらいは使ってしまっても問題ないだろう。

「ありがとう、おっさん」
「おい待て! そもそも俺はおっさんじゃねぇぞ! 聞こえてんのか!」

 ちなみに、店主のキャラクターグラフィックは店ごとに使いまわされているので「雑貨屋のおっさん」はどこの町へ行っても「雑貨屋のおっさん」の姿をしている。原作通りだな。

「ご主人様……あの人、どうしてこの町にも居るんでしょうか……?」
「他人の空似というやつだ。気にするなベル」
 
 俺は不思議そうに首を傾げるベルに対してそう答えた。

「そう、なんでしょうか……? 納得できません……!」
「どしたのベル? なんのはなしー?」
「ううん。何でもないよリース」
「んー……?」

 リースは『モルド』の雑貨屋を見ていないからな。分からないのも無理はない。やれやれといった感じだな。

「……ところでますたー。次はどこに行くのかしら?」

 俺が二人のやり取りを眺めていると、リースがいきなりこちらを向いて聞いてきた。

 ――『クレイン』に来た目的はいくつか存在するが、まずはからだな。

「女神像のある広場だ」

 俺はそう返事をする。

「めがみぞー?」

 あまり分かっていない様子のリース。

 ちなみに、この世界の女神は中立的な存在であるため、人と魔物のどちらか一方に肩入れすることはない。

 ただ、魔物にはあまり知られておらず、女神を信仰している勢力の大半が人間であるため結果的に人の味方をしているように見えるだけらしい。加えて、女神がもたらす神聖な力に対して大半の魔物が忌避感を抱いてしまうことも、人類にとって大きく幸いしている。

 とはいえ、誰の味方にもなり得る適当な神を信仰しているとは……実に恐ろしい設定である。

「えっと、その場所に行って何をするのよ?」
「……リースとベルにも職業《ジョブ》を授けてもらうつもりだ」

 俺はそう答えて、広場へと向かうゴンドラに乗り込むのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...