上 下
81 / 83

第73話 デルフォスの帰還

しおりを挟む

 窓を突き破り、外へ投げ出されるスティング。

「良い眺めだ」

 デルフォスは、それを優雅に見送っていた。

「………………さて、これで俺の命を狙う邪魔者は始末できたな」
「やったでゲスね旦那!」
「後はお前だけだ」
「だだだっだだ旦那ぁ?!」

 下に敷いていたガスを蹴り転がし、額に手を当てて魔法の詠唱を始めるデルフォス。

「俺の命を狙っておいて無事で済むとは思うなよ」
「お、落ち着くでゲス! そ、そんなにがっつり詠唱したらこの部屋ごと吹き飛んじゃうでゲスぅぅっ!」
「黙れ。情報を聞き出したお前はもう用済みだ」
「げすぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 ガスが怯えながら目をつぶった次の瞬間。

「……まったく、いきなり吹き飛ばしてくるだなんて酷いじゃあないかデルフォス君」

 書斎の扉を開けて血まみれのスティングが入って来た。

「死んでいない……だと……?」
「君の攻撃には人を殺すことに対する『迷い』がある。そんなんじゃあ私は殺せないよ」
「迷い……? 冗談でゲしょう……? このイカレ頭にそんものあるわけ――」

 刹那、デルフォスの魔法が発動しガスの顔が爆発した。衝撃で書斎の本がいくつか床へ落ちる。

「痛いでゲスぅ……! このオニ! アクマッ! 親の七光り属性!」
「それはもう聞いた」

 デルフォスは再び魔法でガスを攻撃する。しかし、それでもガスは生きていた。

「――なるほど。確かにそのようだ。今回は本気でこのカスを攻撃したが、殺しきれていない。……フッ、俺も甘いな。優秀な貴族特有の慈悲深さがこんな所で発揮されてしまうとは」
「いやぁ、今のは単純に彼の耐久力が異常なだけだねぇ…………」
「う、うぅ……やっぱり血も涙もないでゲスぅ……」

 ガスは涙目になりながら、チリチリになった自分の頭を触った。

「……迷いというよりは『保身』か。人を殺せば、君は罪人になるからねぇ」
「どうでもいい。そしてもう一度死ね。ヴァレイユ家に盾突く逆賊が」
「まったく……実に血気盛んな若者だ。少し待ちたまえよ」

 スティングはそう言いながらハンカチで額の血を拭い、近くに置いてあった椅子へと腰掛ける。

「ところで……君はそっち側で良いのかなカス君?」「ガスでゲス」
「私がその気になれば、君のお馬ちゃんたちを完全に消滅させる事も出来るんだよ?」
「これを使えば。だろ?」

 デルフォスは、ボロボロに破壊された首輪をスティングの前へ投げ捨てた。

「…………ほう」
「コイツから話は聞いている。貴様はカスの魔獣を馬質にとっていたそうだな。だが、その手はもう通用しない」

 そう言いながら、デルフォスは何度も首輪を踏みにじる。

「まったく……残念だよ、ダークエルフの流れ者カスくん。君の能力は高く評価していたのに」
「お馬ちゃんを人質にとっておいて、ふざけたこと言うんじゃないでゲス!」

 ガスはデルフォスの背後に隠れながら言った。

「…………と、言う訳だ。こんなカスに俺を殺させようとしたのが運の尽きだったな」
「ガス君。私はスケアクロウと協力してここの三姉妹をさらって来いと命令したんだけどねぇ……? 彼には手出し無用だ」

 その言葉を聞いたデルフォスは、振り返ってガスの顔を見る。

「そうでゲしたっけ?」

 沈黙が辺りを支配した。

「……やはり、まずはこいつから殺すか」
「まままま待つでゲスよ旦那ぁ! そ、そんなことしたら一対一であの卑怯者と戦うことになるでゲス! なんにも良いことないでゲスよ!」
「……………………まあいい」

 そう言って、デルフォスは座っているスティングと対峙した。

「とにかく貴様は殺す」
「だから待ちたまえと言っているだろう? 私は君と戦うつもりなんてないよ。……せっかくこうして会えたんだ。取り引きをしようじゃあないか」
「時間稼ぎのつもりか?」
「違う。私は君の能力を高く買っているのだよデルフォス君。この国の国王は君のような人間がなるべきだと思うねぇ…………」
「そんなことを言っていいのか?」
「おっといけない。つい本心が出てしまったよ」
「…………なるほど……では少しだけ話す時間をやろう」

 そう言って引き下がるデルフォス。その姿を見たガスは「マジでちょろいでゲスね旦那ぁ!」と思った。

「賢明で助かるよデルフォス君。私の娘とは大違いだ。――では、単刀直入に言ってしまおう」
「そうだ早く言え。勿体《もったい》ぶるな」
「…………父親と妹と弟――要するに君の家族の命を私に差し出してくれないかい?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん
ファンタジー
魔法の国ペンタグラムの貴族として生まれた少年 ラグウェル・アルタイル この国では10歳になると魔力の源である魔素を測定する。 天才魔道士と天才錬金術の間に生まれた彼は、大いに期待されていた。 しかし、彼の魔素は0。 つまり魔法は一切使えない。 しかも、ペンタグラムには魔法がつかえないものは国に仇なすものとされ、処刑される運命である。彼の父は彼に一振りの剣を与え、生き延びろといい彼を救うため、世界の果てに転移魔法を使用し転移させるのであった。 彼が転移した先は広大な白い砂のみが延々と広がる砂漠。 そこで彼は一人の老騎士と出会う。 老騎士の名はアルファルド。彼は19代目の剣聖にまで上り詰めた男であったが、とある目的のために世界の果てといわれるこの場所を旅していた。 ラグウェルはアルファルドに助けられ彼から剣を学び5年の月日が流れる。 そしてラグウェルはアルファルドの故郷である十王国へ渡り、騎士学校へ編入をする、そこで無敵の強さを誇り、十王国最強の騎士と言われるようになり20代目剣聖との死闘の果てに彼が21代目剣聖となる。そして待ち受けるペンタグラムとの戦争、彼はその運命に翻弄されていく。 ※小説家になろうでも投稿しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...