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第60話 美少女メイド

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 そこに立っていたのは、メイベルとソフィアだった。

「ぶひ、おはようございます。ソフィア様、メイベル様」
「おはよう、ドレースさん」
「ふわぁ……おやすみなさい……」

 ソフィアは無理やり起こされて連れて来られたらしく、立ったまま眠っている。いつものことなので、大した驚きはない。

「さっきお兄ちゃんとエリーがこの部屋に入ってくのを見たんだけど……エリーしか居ないわね」

 一方、メイベルは部屋の中をぐるりと見回しながら言った。

「目の前に居るじゃん!」とエリー。

「……? あんた何言ってんの?」
「だからぁ、おにーちゃんなら目の前に居るでしょ!」
「え…………?」

 困惑した様子で僕の方を見るメイベル。どうやら、何かに気付いたらしい。

「もしかして…………お兄ちゃんなの……?」
「ひ、人違いではないでしょうか。ぼ――わたしは通りすがりのメイドさんなので……」

 僕は注目される恥ずかしさに耐えきれず、他人を装った。無駄な足掻きであることは、僕自身が一番理解している。

「……お兄ちゃんなのね?」
「………………」
「答えて」
「はい……お兄ちゃんです……」

 案の定、すぐにバレた。

「……………………」

 メイベルは何も言わずに、僕のことを隅々まで眺め回す。

 一体、僕は何をされているのだろうか。

「あ、あの、メイベル……?」
「…………かわいい」

 やがて、メイベルは絶望した表情で呟いた。

「だ、大丈夫……?」
「こんなの卑怯よ、お兄ちゃん!」
「…………?」
「わたしという可愛い妹が居るのに、わたしより可愛くなっちゃダメじゃないっ! もっと慎みなさい!」
「……そうかな? メイベルの方が可愛いと思うけど」
「ば、ばかっ! 変なこと言わないでよねっ!」
「褒められると急に弱々しくなるところとか」
「そっ、それ以上何か言ったら、しばらく口聞いてあげないんだからっ!」

 怒ってるのに全然怖くないところとか。

 そう言おうと思ったけど、しばらく口を聞いてくれないのは嫌なのでやめておいた。

「ごめん。そんなに怒らないでよメイベル」
「ふん! だいたい何よこの胸っ! わたしよりあるじゃないっ!」

 すると、メイベルは怒りながら僕の胸を両手で鷲掴みしてくる。

「ちょ、ちょっと! やめて……っ! 詰めてるだけだから……っ!」
「お兄ちゃんのヘンタイっ!」
「あっ、そこはだめっ、まってっ!」
「ほら、ここが良いのかしら? ほらっ、ほらっ!」
「取れちゃう!」

 僕の偽物の胸は、メイベルに弄ばれる。

「どう見ても変態はメイベルの方だよ……」

 エリーは眉をひそめながら言った。僕もそう思う。

「ふわぁ……騒がしいわね……何をしてるの……?」

 そうこうしているうちに、ソフィアが目を覚ました。

「見なさい! 一大事よソフィア! お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃったの!」
「メイベル! あまりソフィアをからかっちゃ駄目だよ……!」

 僕は悪ふざけするメイベルのことを叱りつける。

「おにーさまの言う通りよ……おにーさまがおねーさまになるなんて、あるはず…………」

 目覚めたソフィアと視線が合った。

 メイド服を着た僕の姿を見て、眠たそうにしていたソフィアの目がみるみるうちに大きく見開かれていく。

「お、おお、おにーさま……?!」
「……おはよう、ソフィア。その、これは……」
「あぁ…………」

 僕が事情を説明しようとしたその瞬間、よろめきながらその場に座り込むソフィア。

「ソフィア! しっかりして!」

 僕は慌てて近くへ駆け寄り、そう呼びかける。

「酷いわ……おにーさま……。大好きなのに……おねーさまになってしまうなんて……」
「そ、そうだよねソフィア! 男なのにこんなおかしな格好をした僕なんて嫌だよね!」

 初めて理解者に出会えた気がした僕は、つい嬉しくなってそう言った。

「おねーさまになっても……おにーさまは美しすぎるわ……これ以上私の心をぐちゃぐちゃにしないで……!」
「………………………………」

 そして一瞬で裏切られた。ソフィアもそっち側だったのである。

「やっぱり……すき……。おにーさまの性別なんて……関係ないわ。女の子になっても……おにーさまを愛してる……!」
「……念の為に言っておくけど、僕は女の子になったわけじゃないからね?」
「どこまで……私の心をぐちゃぐちゃにすれば気が済むの……おにーさま……!」

 そう言い残し、静かに目を閉じるソフィア。

「ぶひ、アニ様を綺麗にしすぎたせいで、ソフィア様の新しい扉を開いてしまったようですわ……」
「可哀想に……あのご様子だと、ソフィア様はもう二度と普通の男の子では満足することができないでしょうね……」
「ここは、アニ様に責任を取っていただくしかありませんわ……」
「僕が何をしたっていうのっ?!」

 ――それから僕は、もう二度とこんな格好はしないと心に誓った。
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