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第19話 デルフォスの想い1
しおりを挟む鳥のさえずりを聞きながら、俺は目覚める。
実に清々しい朝だ。こんなに気分がいいのは、あのゴミが追放されたからだろう。
俺はとうとう、今までの苦痛に満ちた日々から解放されたのだ。
あのゴミが俺のことを「兄さん」と呼び、ヘラヘラ笑いながら近づいてくる姿を思い出しただけで虫唾が走る。
……だが、最後の絶望しきった表情はなかなか傑作だったな。
大好きな大好きなお兄ちゃんに裏切られ、文字通り足蹴にされてもなお俺のことを信じようとする姿は滑稽の極みだった。
思い返すだけで愉快な気分になる。
「クククッ、フハハハハ!」
俺は高笑いしながら部屋の窓を開けた。
「良い朝だ!」
その時、部屋の扉がノックされる。
「……オリヴィアか? 入れ」
俺はそう呼びかけたが、中に入ってきたのはオリヴィアではなくハウラだった。
ついこの間まで、あいつの教育係を任されていたメイドだ。
「はい。先日からオリヴィアが行方をくらましてしまったので、私が代わりにデルフォス様のお世話をすることになりました」
「そうか。肝心な時に使えんメイドだ。それに比べて、お前は優秀だな! 今まであのゴミに仕えていたのがもったいないぜ!」
「ありがたき幸せ」
「……と、そんなことより、今日は可愛い可愛い俺の妹達が魔法を授かる日だ。そして、俺は父さんからその付き添いを命じられている。――出かけるから早く着替えを用意しろ」
「かしこまりました」
*
ヴァレイユ家の次期当主として相応しい装いに着替えた俺は、屋敷の外に停められた馬車の前で妹達を待つ。
メイベル、ソフィア、エリー。たまに生意気で不愉快な気分にさせられるが、基本的に従順な良い妹達だ。
誰がどの名前だったかはすぐに思い出せないがな。
――しかし、それと同時に俺の障害となりうる存在でもある。
今日、これから奴らが授かる魔法次第では俺にとっての脅威的度がさらに増すが、その時は俺が直々に教育してやればいい。
誰が次期当主として相応しいか、嫌というほど思い知らせてやるのだ。
そんなことを考えて心を躍らせていると、屋敷から出て来た妹達が小走りでこちらへやって来た。
「来たか……遅いぞお前ら。何をしているんだ」
「ご、ごめんなさい。準備に時間がかかっちゃって……」
そう答えたのは……確かエリーだったな。
「それにしても……揃いも揃って、随分と大荷物だな?」
「…………魔法を授かれなくて……追放された時のための備え……」
今度は…………ソフィアだ。
となると、残った愛想のない奴がメイベルか。
完璧に思い出したぞ!
「フハハハハ、安心しろ。女には幾らでも使い道がある。もしそうなっても、俺が父さんに言って適当なところへ嫁がせてやるさ!」
俺はこいつらを安心させてやる為にそう答える。我ながら身内に甘い人間だぜ。
「死んじゃえばいいのに」
無能だった場合でも助けてやると言っているんだからな!
「…………何か言ったかメイベル?」
「いいえ、とにかく早く行きましょう」
「待て」
俺は、ぶすくれた表情で馬車に乗り込もうとしたメイベルのことを引き止めた。
「な、何よ。デルフォス……さま」
「デルフォスさまだなんて、水くさいじゃないか。俺のことはお兄様と呼べと言っただろう?」
「………………」
「それに、俺に対する挨拶はどうした? まだ『おはようございます、お兄様』という挨拶を聞いていないぞ」
まったく、言ってやらないと挨拶もできないだなんて、馬鹿な妹達だぜ。
やはり、長いことあのゴミに毒され過ぎたせいで、甘えた我が儘な性格になってしまったようだな。
俺がしっかり矯正してやらないといけない。
――父さんからもそう言われていることだし。
「ほら、どうした? 早く言え」
俺がそう言うと、妹達は互いに顔を見合わせ、それから小さな声で「おはようございます、お兄様」と言った。
「いいだろう、褒めてやる!」
俺は三人の頭を順番に撫でてやる。
メイベルは歓喜に震え、ソフィアは恥ずかしそうに目を伏せ、エリーはぎゅっと目をつぶって嬉しそうに受け入れた。
これでこいつらの機嫌も良くなるだろう。
「……それじゃあ行くぞ。早く馬車に乗れ」
こうして俺達は馬車に乗り込み、神殿へ向けて出発したのだった。
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