20 / 83
第18話 賞金首、捕まえてた
しおりを挟む……やっぱりそうだ。こいつ、どう見ても昨日の男だ……!
「……さっきからぼーっとしてどうしたんじゃ?」
僕が手配書に釘付けになっていると、てんこに顔を覗き込まれる。
「ななななな何でもないよ!」
「ははん…………もしかしてお主、こやつが怖いのか?」
「えっと、その、あの……」
――どうしよう?
どう説明したらいいんだろう?
「僕が捕まえました」とか言って変に目立ったら色々と詮索されるだろうし、僕が闇魔法の使い手であることがばれてしまう可能性だってある。
それに、信じてもらう為には一度実物をこの場で見せないといけないし……。
ともかく、どうにかして一度この場から離れないといけない。なるべく自然な感じで。
「仕方のない奴じゃ。ほら、わらわが頭をなでてやる。よしよし、怖くない怖くない」
てんこは、やや強引に僕のことを抱き寄せて頭をなで始めた。
「や、やめてよてんこ。別に怖いわけじゃ……」
僕はそう言ったが、てんこはまるで聞く耳を持ってくれない。
「まったく、強がりな奴じゃ」
「違うよ! いいから離して……!」
「ほうら、口ではそう言っても、身体の方はこんなに震えておるぞ」
「――いや、震えてるのはてんこだよ?」
僕が指摘すると、てんこは驚いた様子で動きを止める。
「なっ、なんじゃと……?!」
「もしかして怖いの?」
「まっ、まさか、わらわとあろうものがそのようなこと……!」
そうは言っているが、明らかに震えている。
「てんこ……大丈夫でありんすか?」
ぎんこさんが問いかけた次の瞬間、
「ぐすっ……うえええん、むりじゃあ……こんな不気味な奴と戦いとうない……うええええええん」
てんこは堰《せき》を切ったように泣き出した。
どうやら、強がっていたのはてんこだったらしい……。
「やはり、てんこには負担が大きいでありんしたか。ここはわっち一人でどうにか対処する他ないでありんすね」
「だ、だめじゃ……姉上を一人にするわけには……ひっぐ! わらわは……姉上を守ると決めたんじゃっ」
「てんこ……!」
「姉上ぇ……!」
互いに抱きしめ合う二人。
どうしよう、ぎんこさんとてんこが二人だけの世界に入ってしまった。
一人蚊帳の外になってしまった僕は、助けを求めて受付嬢さんの方を見る。
「ぐすん……なんて美しい姉妹愛なんでしょう……!」
だけど、こっちも完全に二人に感化されていた。
それどころか……
「Sランク冒険者だって、人間なんだな……オレ、誤解してたぜ……!」
「てんこちゃんとぎんこちゃんにばかり辛い思いはさせられねぇ。俺たちでスケアクロウをぶっ飛ばすぞ!」
「ギルドのみんなで町を守りましょう!」
「「「「おう!!!!!」」」」
「極悪非道な賞金首をとっ捕まえるぞ!」
「「「「おう!!!!!」」」」
「オレにかかればスケアクロウなんざイチコロだぜ!」
「「「「……………………」」」」
「ぜ、全員で協力するぞ!」
「「「「おう!!!!!」」」」
何だかギルド全体が凄く盛り上がってる。
ますます言い出し辛い状況になってしまった……。
「……し、しつれいしまーす」
いたたまれなくなった僕は、こっそりとギルドを抜け出すのだった。
*
ギルドの脇にある人気のない路地裏へと逃げ込んだ僕は、魔法を発動して賞金首の男――スケアクロウを解放することにした。
昼間の路地裏が一瞬だけ真っ暗になり、捉えていた男が出現する。
「あ……ひぃ……ひひ、ひひひっ」
……といっても、完全に憔悴しきっていて、手配書とは似ても似つかないが。
これ、ちゃんとスケアクロウだって分かってもらえるだろうか……?
「どうだった、初めて闇属性の魔法をくらった感想は?」
「いひひ、ひひひひひひっ!」
「返事もできないか」
僕の魔法をくらって、正気でいられる者は存在しない。
おそらく、こいつはこのまま死ぬまでずっとこの調子だろう。
「……一応聞いておく。僕の本当の父さんや母さんを殺したのはお前か?」
「いひひひひひひっ」
「他に仲間は?」
「ひっひっひっ」
「誰がお前を手引きした?」
「ひひひひひひっ!」
「妹達を――ヴァレイユを狙っているのも同じ人間か?」
「ひいいいいいいいっ!」
僕は男を一発ぶん殴った。
「…………うるさい」
――とにかく、早いところこいつをギルドに連れて行こう。
こいつを入り口から放り込んで、僕は裏口から何食わぬ顔でギルドに侵入すれば大丈夫だろう。たぶん。
「さっさと行くぞ、スケアクロウ」
僕がそいつの名を呼んだその時。
「俺がやらなくても……あいつがやるさ……」
突然、男がそう口走った。
「……どういう意味だ?」
「いひっ、いひひっいひひひっ!」
「答えろ!」
「ひいいいいいッ!」
改めて問い正すと、男は頭を抱えてうずくまる。
……こいつと話していたら、僕まで頭がおかしくなってしまいそうだ。
僕はこいつから情報を聞き出すことを諦め、このままギルドへ引きずって連れていくことにする。
――どうにかなると思っていた僕の考えが甘く、この後ギルドどころか町じゅうで大騒ぎになったことは、言うまでもない。
0
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる