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第12話 アニ、力を解放する

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「おいおいどうした?    もしかして、怒っちゃったのかなぁ?」
「…………………………」
「あ、そうだぁ。せっかくだからお前の目の前で全員ヤってやるよぉ。三人揃って『助けてぇ、お兄ちゃぁん』って言うのかなぁ?    楽しみだなぁ」
「……お前は僕が消す」

 どうやら、こいつに手心なんか加えてやる必要はないみたいだ。

 それに、妹達の命が危ないのであれば躊躇している場合でもない。

 例えどんなに嫌われていようと、僕にとってはメイベルもソフィアもエリーも大切な妹だ。

「いきなり怖いなぁ。さっきまでの礼儀正しさはどこに行っちゃったのかなぁ?    そっちがテメェの本性かこのクソガキがよぉ!」
「……頼んでもいないのによく喋る」

 ――僕は自らの力を解放した。

 刹那、僕を押さえつけていたゴブリン達は闇に呑まれ、体が捻じ曲がって潰れる。

「………………へぁ?」

 あまりにも突然すぎて驚いたのか、間抜けな声を出しながら腰を抜かす男。

「な、何なんだよ今のぉ……おっ、俺のゴブリンに何をしたぁッ!」
「殺した」
「あぁ?!」
「残っているのはお前だけだ」

 僕がそう告げると、男は血相を変えてその場から逃げ出そうとする

「ひ、ひぃぃぃっ?!」
「逃げるな」

 僕は男に対して再び魔法を発動した。

 男は暗闇に足を取られ、無様に転ぶ。

 いい気味だ。僕を怒らせるからそうなる。

「さっきまでの威勢はどうした?    僕を嬲り殺しにするんだろう?」
「はっ、話が違うぞっ!    テメェは魔法を使えねぇはずだろォッ!」
「魔法を使えない?    ……違う、神から魔法を授かれなかっただけだ」
「な、何を言ってやがる……意味が分からねぇんだよぉッ!」
「――闇属性の魔法だよ。存在くらいは聞いたことがあるだろう」
「闇……だとォ……?」
「ああ。唯一、神の理から外れた力……相手を深淵へと引きずり込み、恐怖心を増大させ、具現化した恐怖によって殺す禁術。――僕は闇魔法《それ》の使い手なんだ」

 この国では、闇魔法を使える術者は災厄をもたらすとされ、忌み嫌われている。

 術者であることが誰かにバレてしまえば、良くて国外追放、最悪拷問の末に打ち首だ。

 おまけに、この魔法を使うと僕自身の精神にまで干渉してきて、感情が不安定になる。

 まるで僕が僕じゃないみたいで、最悪な気分だ。

 ……そして極めつけは、対価の存在。

 制約ばかりで、魔法を使う度に僕は精神を蝕まれていく。

 ――だから、なるべくなら使いたくなかったのだ。

「とにかく、この力を見せた以上、お前は確実に消さないといけない。悪く思うな」
「や、やめろぉ……俺に近寄るなこの化け物がぁッ!」

 僕は、恐怖で目を見開いている男に対してを伸ばす。

「ひ」
「安心しろ、お前は殺さない。……死んだ方がましだと思う事になるかもしれないが」
「や、やめ――」

 僕が再び魔法を発動すると、男は闇に飲まれていく。

「何だ……これ、やめろ……俺の中に入ってくるな……ぁ……やめろぉ…………っ!」

 虚ろな目で、うわ言のように呟く男。

 飲まれた人間がどのような感覚を味わっているのかは、僕にも分からない。

「こんな……ヴァレイユの……落ちこぼれなんかにぃ……」
「一つだけ言っておく。僕はもうヴァレイユの人間じゃない。僕の名はアニ・レスターだ。最後に覚えておけ…………どうせ全て忘れるだろうが」
「レス……ター……。レスターか……ケケケ、あれは大仕事だったなぁ……」

 ――その時、男がうわ言のようにそう呟いた。

「……どういうことだ?」
「…………そうか。だからあいつ、今度はヴァレイユを……ケケケケケッ――――があああああッ!」

 発言の意味を聞き出す前に、男は闇に飲まれて跡形もなく消え去ってしまったのだった。

 *

「う……ん……?」

 突然、オリヴィアは目を覚まして僕の顔を見る。

「ど、どうかしたの?」
「いえ…………」

 僕の問いかけに対し、眠そうな目をしながらそう返事をするオリヴィア。

 どうやら、寝ぼけているらしい。

「ただ……アニ様が居なくなってしまう夢を見て……ちゃんと隣で寝ているか心配になったんです」
「…………大丈夫、僕はどこにも行かないよ」
「そう……ですね……」

 一瞬、宿屋を抜け出した事がバレてしまったのかと思ったが、どうやらそういうわけでもなさそうだ。

 僕はほっと一息つく。

「アニ様」
「は、はいっ!」
「先ほどは……失礼な態度をとってしまい申しわけありませんでした。私は……お姉ちゃんとしてもメイドとしても中途半端ですね……」
「そんなことないよ。僕は……オリヴィアが付いてきてくれたから頑張れるんだ」

 そう言うと、オリヴィアは僕のことを抱きしめてくれた。

「私は……何があってもアニ様のお側に居ます……っ!」
「ありがとう、オリヴィア。……それなら一つだけお願いしてもいいかな?」
「……はい、何でも言ってください」

 僕はこれから、この厄介な魔法を押し付けてきた張本人に、対価を支払わなければいけない。

「朝までこうしていて……酷い夢を見そうなんだ……」
「お安いご用です。どんな夢を見ても、私がお側にいることを忘れないでくださいね」
「うん。……おやすみなさい、オリヴィア」
「おやすみなさい、アニ様」

 こうして、僕はゆっくりと目を閉じ、眠りについたのだった。
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