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第7話 オリヴィアはかく語りき1

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「あなたの本当のお父様とお母様は、とても優しい人達でした。身寄りのない孤児だった私を、養子として引き取って大切に育ててくださったのですから」

 昔を懐かしむように話すオリヴィアさん。

 だけど、その目はどこか悲しげだった。

「……だからアニ様が生まれた時、私は少しだけ不安だったんです。二人ともアニ様のことでいっぱいいっぱいになって、自分がないがしろにされちゃうんじゃないかって。それで私は………………」

 途中まで言いかけて、言葉を飲み込むオリヴィアさん。

「どうかしたの……?」
「い、いえ。とにかく今はアニ様の置かれた境遇についてお話をするべきですね」

 オリヴィアさんはレスター家に起きた悲劇についてゆっくりと語り始めた。

「あれは……アニ様が生まれてから、それほど月日の経たないうちの出来事ことでした」

 先ほどまで幸せそうに思い出を語っていたオリヴィアさんの声音が、急に重苦しくなる。

「屋敷は突然、何者かの襲撃に遭いました。理由は分かりませんが、レスター家の血筋――お父様の命を狙った計画的なもので、屋敷はあっという間に暗殺者の手に……」

 オリヴィアさんは一呼吸置いてから続ける。

「私は護衛の者達の助けもあって、お母様と一緒に辛うじて地下室へ逃げ込むことができました。私は恐怖で震えて、泣いてばかりいて……そんな時に、お母様は私にアニ様を託して言いました」


(あなたはここに隠れていなさい。何も聞こえなくなるまで、絶対に出てきては駄目よ)

(い、嫌ですお母様!    一人にしないでくださいっ!)

(お願いオリヴィア。その子を守れるのはもうあなたしか居ないの。私ではもうそこに入れないわ)

(で、でも……!)

(大丈夫。子どもの頃そこに隠れたら、あの人以外は誰も私を見つけられなかったのよ。絶対に見つかりっこないわ)

(嫌ですっ!そんなの絶対に嫌です!お母様っ!)

(……辛い役目を押し付けてしまってごめんなさい。――――愛しているわ、オリヴィア)


「『アニを……あなたの弟を守ってあげて』……お母様は、最後にそうおっしゃいました。地下室の床をくり抜いて作られた、とても小さな貯蔵庫に、私とアニ様は押し込められたのです。――――それから私は、酷い嵐の中、息を殺して全てが過ぎ去るのをじっと待っていました。……気が遠くなるような時間が過ぎてから、恐る恐る地下室から出てみると…………そこに残っていたのは焼けた屋敷の跡だけ。私は……アニ様を抱き抱えたまま、ただ泣き続けました」

 オリヴィアさんは震えていた。話をするのも辛そうだ。

「大丈夫オリヴィアさん……?」
「はい……私は大丈夫です。アニ様の方こそ、随分と辛い話だったかと思いますが大丈夫でしょうか?」
「うん、僕は大丈夫だよ……だって、覚えてないから」
「そうですか……。では、続きをお話しさせていただきますね」

 そう言って一度だけ深呼吸した後、オリヴィアさんは話を続けた。

「家を失って、大切な家族も失い、その上お父様とお母様の大切な忘れ形見――――つまりアニ様は、レスター家の血を引く生き残りである以上、命を狙われていると見て間違いない。露頭に迷った私は、せめてアニ様だけでも匿ってもらえるよう、色々な方にお願いしました」

 そこから先のことは、オリヴィアさんに聞かなくても想像がついた。

 暗殺者に狙われているような子供を引き取ってくれる人なんて滅多にいないだろう。

 つまり、誰も取り合ってくれない中で、唯一オリヴィアさんの願いを聞き入れ、僕を養子にすると決めたのがあの男―― 

「……はい、グレッグだったのです」

 僕は息が詰まる感じがした。
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