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第10話 長男としての尊厳
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その後、速やかに屋敷を後にした俺とプリシラは帝都へ向かう馬車に揺られていた。ちなみに、同行者にはニナもいる。俺たちの面倒を見てくれるようだ。
やはりメイドさんは素晴らしい。
そして、俺達より先に別の馬車へ乗り込んだメリア先生とダリア先生は……おそらくもう帝都へ着いているだろう。
あとそれから、お父さまは仕事を片付けてから明日の早朝に屋敷を出発するらしい。
こんな時にも仕事とは……何をしているのか碌に話してくれないので知らないが色々と忙しそうで大変だな。……と、いつもは他人事だったが、よく考えたら将来的には俺がお父さまの後を継ぐことになるんじゃないのか?
「……………………」
……いや違う。どっちにしろ、魔人のせいでこの国はめちゃくちゃになるから大丈夫だな。俺が忙しくなることを心配している場合ではない。
――余計なことを考えるのはこれくらいにして、外の景色でも見ていようかな。
今はちょうど森の中を進んでいる所だ。
この世界の地上に魔物が進出するのは皇帝が魔人化するのと同時期のことだから、今のところは平和である。実に長閑でけっこう。
「ふんふんふふ~ん♪」
「わあ、とってもお上手ですね!」
「えへへ~」
するとその時、ご機嫌な鼻歌を歌うプリシラと。楽しそうにそれを聞くニナの微笑ましいやりとりが聞こえてきた。
「……………………うーん」
ほのぼのとしているな。明日は試合があるというのに、これでは戦意をそがれてしまう。
――もう貴族の子供同士の力比べ大会とかどうでもいいや。
おひるね大会でもしようぜ。それが終わったらおやつパーティーな!
「みてみて、ようせいさんが飛んでる! 珍しいね!」
「ふふ、今日は精霊祭ですから。道行く人達の活気に誘われて出て来てしまったのでしょう」
「わるい人に捕まっちゃだめだよ~」
おいおい、ついに妖精さんまでご登場か? まったく、どこまでメルヘンにすれば気が済むんだ。
「ふわぁー…………」
「あれ、お兄さま眠いの?」
「ん…………」
馬車内の空気につられて、俺まで緊張感がなくなってきた……。
「アラン様。帝都に到着するまでもうしばらくかかります。ニナのお膝を枕にしてお休みください!」
「え……?」
……いきなりとんでもないことを言い出したな。少し目が覚めたぞ。
「結構です」
「そんな……」
俺が丁重にお断りすると、ニナはがくりとうなだれた。
「……で、では、ニナのお膝の上にお座り下さい。その方が馬車の揺れを気にせず過ごせると思います!」
しかし、それでもなお食い下がってくる。
「………………」
最近はニナが暴走気味のような気がするし、ここは一度、厳しく言っておいた方が良いだろう。
「ニナ」
「は、はい、なんでしょうか?」
俺は一息おいてから言った。
「……僕はこれでも一応、ディンロード家の長男なんだ。節度をもった振る舞いをするべきだし、おまけにプリシラの前でそんなことをしたら頼りのない兄だと思われてしまうだろう?」
「いや~? お兄さま可愛いな~って思うよ!」
あれ?
「…………あ、あと、御者さんだっているんだし」
「お馬さん走らせてる人のこと? あの人だって、微笑ましいな~って気持ちになると思うよ! お兄さま可愛いし!」
「…………」
……プリシラ。なぜ俺の邪魔をする。
「その通りです。アラン様はまだ十歳ですから、誰が見ても微笑ましいとしか思いませんよ!」
「……そうかな」
「ええ、絶対にそうです!」
「……そっか」
「さあ、ニナのお膝でお休みくださいアラン様!」
「はい」
かくして、言い負かされた俺はディンロード家の長男としての尊厳を捨てて、ニナの膝に頭を乗せるのだった。
……メイド服の感触がする。ロングスカートだから。
「ああ、アラン様……寝顔も素敵です……!」
「お兄さま可愛い~!」
「ふふふ、本当に……とても可愛らしいお方です」
「お兄さまのほっぺたぷにぷに~!」
……やっぱり起きてようかな。
*
そんなこんなで長時間馬車に揺られ、俺たちは帝都エルヴァールに到着した。
ちなみに、帝都にもディンロード家の別宅が存在しているので、滞在中はそこで生活することになっている。
馬車を降りて屋敷の中へ入ると、数人の使用人と先にこちらへ来ていた先生達に出迎えられた。
「やっと着いたのねアランちゃん! ずっと会えなくて……アタシとっても寂しかったわ……っ!」
「今朝も顔を合わせただろ。おかしなことを言ってアラン君を困らせるんじゃない」
いつものようにおとぼけ漫才を繰り広げる二人に挨拶をし、俺は自分の部屋へ引き上げる。
今日は明日の大会に備えてしっかりと休んでおく必要があるからな。
――といっても、先ほどまで寝てたせいで全然疲れていないが。
「どうしたものか……」
久々に暇を持て余し持ってきた魔導書を読もうとしたその時、突如として部屋の扉が勢いよくノックされる。
「遊びに来たよ! お兄さま! 開けて~」
どうやらプリシラが訪ねてきたらしい。可愛い妹を無視するわけにはいかないな。
「どうぞ」
「おじゃまします!」
俺が扉を開けると、プリシラはずかずかと中へ入ってくる。
「身体の調子は大丈夫なの? 馬車の中でもずっとはしゃいでたし、休んでおいた方がいいんじゃ……」
「へいき! 最近はちょうしがいいんだ!」
「……ふーん」
原作のアランは、幼い頃に妹を病気で亡くしている。つまりプリシラの調子が良いのは一時的なことで、これから先……。
「どうしたのお兄さま?」
「ううん、なんでもないよ」
「そんなことより、お祭り楽しみだね~!」
「……うん」
「どんな感じなんだろ?」
ベッドの脇に腰を下ろし、ちょこんと首をかしげるプリシラ。
原作のストーリー上で精霊祭などという単語が登場した記憶はないので、俺にも謎だ。
「僕も初めてだから分からないな。だから明日、儀式が終わったら一緒に見て回ろうね!」
俺はプリシラに向かって言った。
もう病弱でかわいそうな妹に寂しい思いはさせない。俺が――プリシラの笑顔を守るんだ!
「あ、ごめんねお兄さま」
「え?」
「わたし、明日はお友達と一緒にまわる約束してるんだ~。あと、ニナも一緒に連れてってあげるの!」
「えっ」
「だからわたし達のことは心配しないで!」
「…………」
そうなんだ。
「お兄さまも自分のお友達と一緒にまわっていいよ!」
「…………うん」
……よく考えたら俺、ずっと修行してたから友達一人もいないじゃん。しかも、馬車で寝てる間にニナまで先に攻略されてしまったらしい。
あのもしかして、一人でお祭りに参加する感じですか……?
「お兄さま?」
「ソ、ソウダネ……とっ、友達とっ……まわろっかな……! はっはっは」
寂しくてかわいそうな子、俺じゃん。
やはりメイドさんは素晴らしい。
そして、俺達より先に別の馬車へ乗り込んだメリア先生とダリア先生は……おそらくもう帝都へ着いているだろう。
あとそれから、お父さまは仕事を片付けてから明日の早朝に屋敷を出発するらしい。
こんな時にも仕事とは……何をしているのか碌に話してくれないので知らないが色々と忙しそうで大変だな。……と、いつもは他人事だったが、よく考えたら将来的には俺がお父さまの後を継ぐことになるんじゃないのか?
「……………………」
……いや違う。どっちにしろ、魔人のせいでこの国はめちゃくちゃになるから大丈夫だな。俺が忙しくなることを心配している場合ではない。
――余計なことを考えるのはこれくらいにして、外の景色でも見ていようかな。
今はちょうど森の中を進んでいる所だ。
この世界の地上に魔物が進出するのは皇帝が魔人化するのと同時期のことだから、今のところは平和である。実に長閑でけっこう。
「ふんふんふふ~ん♪」
「わあ、とってもお上手ですね!」
「えへへ~」
するとその時、ご機嫌な鼻歌を歌うプリシラと。楽しそうにそれを聞くニナの微笑ましいやりとりが聞こえてきた。
「……………………うーん」
ほのぼのとしているな。明日は試合があるというのに、これでは戦意をそがれてしまう。
――もう貴族の子供同士の力比べ大会とかどうでもいいや。
おひるね大会でもしようぜ。それが終わったらおやつパーティーな!
「みてみて、ようせいさんが飛んでる! 珍しいね!」
「ふふ、今日は精霊祭ですから。道行く人達の活気に誘われて出て来てしまったのでしょう」
「わるい人に捕まっちゃだめだよ~」
おいおい、ついに妖精さんまでご登場か? まったく、どこまでメルヘンにすれば気が済むんだ。
「ふわぁー…………」
「あれ、お兄さま眠いの?」
「ん…………」
馬車内の空気につられて、俺まで緊張感がなくなってきた……。
「アラン様。帝都に到着するまでもうしばらくかかります。ニナのお膝を枕にしてお休みください!」
「え……?」
……いきなりとんでもないことを言い出したな。少し目が覚めたぞ。
「結構です」
「そんな……」
俺が丁重にお断りすると、ニナはがくりとうなだれた。
「……で、では、ニナのお膝の上にお座り下さい。その方が馬車の揺れを気にせず過ごせると思います!」
しかし、それでもなお食い下がってくる。
「………………」
最近はニナが暴走気味のような気がするし、ここは一度、厳しく言っておいた方が良いだろう。
「ニナ」
「は、はい、なんでしょうか?」
俺は一息おいてから言った。
「……僕はこれでも一応、ディンロード家の長男なんだ。節度をもった振る舞いをするべきだし、おまけにプリシラの前でそんなことをしたら頼りのない兄だと思われてしまうだろう?」
「いや~? お兄さま可愛いな~って思うよ!」
あれ?
「…………あ、あと、御者さんだっているんだし」
「お馬さん走らせてる人のこと? あの人だって、微笑ましいな~って気持ちになると思うよ! お兄さま可愛いし!」
「…………」
……プリシラ。なぜ俺の邪魔をする。
「その通りです。アラン様はまだ十歳ですから、誰が見ても微笑ましいとしか思いませんよ!」
「……そうかな」
「ええ、絶対にそうです!」
「……そっか」
「さあ、ニナのお膝でお休みくださいアラン様!」
「はい」
かくして、言い負かされた俺はディンロード家の長男としての尊厳を捨てて、ニナの膝に頭を乗せるのだった。
……メイド服の感触がする。ロングスカートだから。
「ああ、アラン様……寝顔も素敵です……!」
「お兄さま可愛い~!」
「ふふふ、本当に……とても可愛らしいお方です」
「お兄さまのほっぺたぷにぷに~!」
……やっぱり起きてようかな。
*
そんなこんなで長時間馬車に揺られ、俺たちは帝都エルヴァールに到着した。
ちなみに、帝都にもディンロード家の別宅が存在しているので、滞在中はそこで生活することになっている。
馬車を降りて屋敷の中へ入ると、数人の使用人と先にこちらへ来ていた先生達に出迎えられた。
「やっと着いたのねアランちゃん! ずっと会えなくて……アタシとっても寂しかったわ……っ!」
「今朝も顔を合わせただろ。おかしなことを言ってアラン君を困らせるんじゃない」
いつものようにおとぼけ漫才を繰り広げる二人に挨拶をし、俺は自分の部屋へ引き上げる。
今日は明日の大会に備えてしっかりと休んでおく必要があるからな。
――といっても、先ほどまで寝てたせいで全然疲れていないが。
「どうしたものか……」
久々に暇を持て余し持ってきた魔導書を読もうとしたその時、突如として部屋の扉が勢いよくノックされる。
「遊びに来たよ! お兄さま! 開けて~」
どうやらプリシラが訪ねてきたらしい。可愛い妹を無視するわけにはいかないな。
「どうぞ」
「おじゃまします!」
俺が扉を開けると、プリシラはずかずかと中へ入ってくる。
「身体の調子は大丈夫なの? 馬車の中でもずっとはしゃいでたし、休んでおいた方がいいんじゃ……」
「へいき! 最近はちょうしがいいんだ!」
「……ふーん」
原作のアランは、幼い頃に妹を病気で亡くしている。つまりプリシラの調子が良いのは一時的なことで、これから先……。
「どうしたのお兄さま?」
「ううん、なんでもないよ」
「そんなことより、お祭り楽しみだね~!」
「……うん」
「どんな感じなんだろ?」
ベッドの脇に腰を下ろし、ちょこんと首をかしげるプリシラ。
原作のストーリー上で精霊祭などという単語が登場した記憶はないので、俺にも謎だ。
「僕も初めてだから分からないな。だから明日、儀式が終わったら一緒に見て回ろうね!」
俺はプリシラに向かって言った。
もう病弱でかわいそうな妹に寂しい思いはさせない。俺が――プリシラの笑顔を守るんだ!
「あ、ごめんねお兄さま」
「え?」
「わたし、明日はお友達と一緒にまわる約束してるんだ~。あと、ニナも一緒に連れてってあげるの!」
「えっ」
「だからわたし達のことは心配しないで!」
「…………」
そうなんだ。
「お兄さまも自分のお友達と一緒にまわっていいよ!」
「…………うん」
……よく考えたら俺、ずっと修行してたから友達一人もいないじゃん。しかも、馬車で寝てる間にニナまで先に攻略されてしまったらしい。
あのもしかして、一人でお祭りに参加する感じですか……?
「お兄さま?」
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