転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

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番外編

元カレ元カノ2

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 で、デート当日。ヘンリーが馬車で迎えに来てくれて、いっしょに乗って植物園の、っていうか公園の入り口ゲートで降ろしてもらう。

 植物園は広大な公園の一角にある巨大な温室。どこかの物流倉庫みたいな、全面ガラス張りの巨大な建物だった。



 中にはヤシの木をはじめ、南国の木々が密生していて(バナナが生っていた!)お花もたくさん咲いていて、その中をこれまたたくさんの蝶々が舞っていた。



「わぁ……」

 これはすごい。わたしはあんぐりと口を開けてしまった。

「……すごいな」

 ヘンリーもしばし呆然。



 ピピピッ! バサバサッ!

 突然のはばたきにびくっとする。

 インコ! 色とりどりのインコが飛びかっている。

 ええ? ジャングル? アマゾン?

 そんなかんじ。



 でもね。バサッとインコが飛んだら「きゃっ」とか言ってヘンリーにくっついたりするのよ。

 ヘンリーも「あぶないよ」とか言って引き寄せてくれたりね。

 てへ。

 ああ、そういう目的でインコ飛ばしてるのかな?

 そうなると、もうジャングルもインコも蝶々もどうでもいいのよ。



 バカップル、上等!



「はあ、つかれたね」

 植物園を、というよりデートというシチュエーションを思いっきり楽しんで外に出ると、ヘンリーが言った。

 ええ、つかれました。キャピキャピしすぎて。

 仕事中のヘンリーは、キリッ、ピシッと隙のないできる男ですが、ふたりになるとけっこうデレます。

 萌え。

 きょうもデレを堪能しました。



「カフェですこし休もう」

「はい」

 広大な公園の中には、いくつかカフェがある。その中のひとつに向かっていたときだ。

 お天気がいいからテラス席もいいな。ケーキをおたがいに「あーん」なんて。きゃ。湧いた頭をなだめるように、腕を組んでほわほわと歩いていたのに!

 せっかく!



「あ、あら。ヘンリーさま?」



 だれ? この女。すれちがいざまに三人連れの令嬢のうち、ひとりが一歩前に出た。

 ヘンリーの腕がぎゅっと強ばったのがわかった。



「これはレディ・バンカー。ごぶさたしております」

 ヘンリーがすうっとお仕事モードに切り替わった。



 元カノか?

 だって、あきらかにわたしに敵意を向けているもの。



「ヘンリーさまもご活躍ですのね」

 おうおう! 馴れ馴れしく呼ぶなよ? いまはわたしの婚約者なんだからね!

 組んだ腕にいっそう力を入れた。

 ぎゅううう。

 ヘンリーはわたしを見おろすと、力を抜いてふっと笑った。

 そうそう。そういう笑顔大事ですよ。

 ところが、ヘンリーの笑顔を見たレディ・バンカーとやらの頬はひくっとした。



 あらあら。この笑顔、惜しくなりましたか?

 いまはわたしのものですけど。

 まあね、ヘンリーは時の人ですし、王太子殿下はもちろん国王陛下の覚えもめでたく、さらに爵位まで賜りエリート路線まっしぐらですしね。

 なによりカッコいいしね!

 惜しくなるのもわかりますよ。

 でもね、手放したのはそっちでしょ。わたしはぜったい放さないからね。



「ヘンリーさま、そちらの方は……?」



「レディ・バンカー。ご結婚はいつですか? パウエル家からお祝いをお贈りしますよ」

 無視しましたね。だって、いまさらだものね。



「オリヴィア。ご迷惑よ。行きましょう」

 かたわらのご令嬢が、ばつが悪そうに袖を引いた。オリヴィアというのか。オリヴィア・バンカー。そうですか。

 ここで引くのなら見逃しますが!



「おや、先をお急ぎですか。わたしたちもこれから百貨店に行くのですよ。新居の家具を見に。ね? アメリア」

 ヘンリーがわたしに笑いかけた。

 仕掛けたな? わざと言ったでしょ。

 

 ならば、乗りましょう。

 わたしも「ねーっ」と小首をかしげた。

 案の定、オリヴィアはカッと目をむいた。



「し、し、し、新居?」

 噛みすぎじゃない?

「ええ。家を買ったので」

「い、い、い、家?」

「だから、新居ですよ。結婚するので」

「け、け、け、結婚……」



 あらあら、ぎりぎりという歯ぎしりがここまで聞こえそう。

 そんな顔を見て満足したのか「さあ、行こうか」とヘンリーは一歩踏みだした。この人、なかなかな性格してるよね。敵と見なしたら容赦ない。きらいじゃないです。

 そうですね、とわたしも一歩踏みだしたところ。



「レディ・アメリア・ハミルトン」

 背中にかけられた憎悪のこもった声に、ざわっと全身がそそけ立った。おそるおそる振りかえると般若のような顔のオリヴィアが睨みつけていた。

 ひええ!

 ふたりして、のけぞった。



 いやいやいや。なんでよ! 自分を優先してくれないと愛想をつかしたのはそちらでしょう。なんでいまさら、執着しているんですか!



 っていうか、わたしのこと知っているじゃないの。ストーカーになったらどうしよう。こわい。



「なにかな」

 ヘンリーの声が氷のように冷たい。

「レディ・アメリアは勇敢なのでしょう」

 勇敢ではない。たまたまあの場にいただけだ。

「殿方もやっつけるんでしょう」

 やっつけないよ? 失敬だな。



「ああ、たしかにちょっと無謀なところはあるな」

 あれ? ヘンリー?

「だからおれがついていなくてはね。またケガをされては大変だ」

 笑ってはいるけれど、ヘンリーのまわりにピシピシと火花が散っている。

 

「な、なによ! そんな野蛮な人! 結婚なんかしなくても、ひとりで生きていけるじゃない!」

 オリヴィアはギラギラした目で、口元を歪ませている。

 野蛮? 野蛮って言いました?

 やんのか? コラ。やんのか? 受けてたつよ。

 かかとをあげて、腰を落として。かまえようとした腕は、ヘンリーにそっと押さえられた。ヘンリーは静かに首を横に振る。

 やっちゃダメですか。ダメですよね、はい。



「やめなさいよ、もう!」

 連れのふたりのご令嬢がオリヴィアの袖を強く引いた。

「申し訳ありません」

 しかも代わりに謝ってくれる。

「この子、婚約解消したことを後悔していて。新しい人とはうまくいかなかったんです」



 そんなことだろうと思ったよ。

 だけどね。



「それがおれたちになんの関係があるんだ」

 バチっと音を立てて放電しましたよ。

「自分の勝手ばかりを押し付けないでもらいたいね。たしかにアメリアは勇敢だし信頼もあるし自立もしている。国王陛下からも王妃さまからも信用を得ている。ひとりでも生きていけるだろうさ。それでもな、おれがいっしょにいたいんだ。おれが人生の伴侶にアメリアを選んだ。それのなにが悪い! おまえなどにケチをつけられる筋合いはない!」

 ヘンリーはそう言うと、持っていたステッキでガンっと地面をたたいた。



 ひゃあ! 鼻血出そうです。

 そして、めっちゃ気分がいい。なぜだろう。







「あ、あの」

 だれだ! 飛び入り参加してきたヤツは!

「アメリア? だいじょうぶかい?」

 うわあ! まためんどくさいヤツが来た!

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