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国王登場
しおりを挟む「そこまでだ」
杖をつき、足を引きずりながらも威厳たっぷりに陛下が入ってこられた。
「父上」
「陛下」
一同はあわてて臣下の礼をとった。
よかった。陛下がご無事だ。王太子殿下もご無事だった。
ブライス! ざまあ!
続いて王妃さまとルイーズさま、うちのおとうさまと。だれ?
「アラン!」
メアリが飛び出した。
「姉上!」
ふたりは手を取り合って涙を流した。
姉上?
メアリの弟?
「もういいんだ。カーソン公にぜんぶお話した。だからもう言いなりにならなくていいんだ」
「そんな……。それじゃあ……」
「ごめん。ほんとうにごめん。ぼくのせいで、姉上にこんなことをさせてしまった」
「アラン……」
手を取って涙を流すふたり。
「闇賭博に関してはすでに王国軍を送った。もう着いているころだろう。このあとの捜査はカーソン公にたのむ」
陛下が言った。カーソン公は「御意」と短く答えた。
「ご無事だったのですか、陛下」
ブライス公の顔は苦渋に歪む。
「まだ少々不自由だがね。喜んでくれないのか」
皮肉交じりに陛下が言った。
「まあ、その辺はあいまいにしていたからね。おかげで貴公はしっぽを出してくれたよ。まさかウィリアムの命まで狙うとは思わなかったがね」
陛下の口調はきびしい。
「ジェームズ。シャーロット嬢を放しなさい」
ジェームズはわずかに力を抜いたが、それでもお嬢さまを放そうとはしなかった。陛下は小さくため息をついた。
「ジェームズ、いいかげんにしなさい。まだシャーロットを怖がらせたいのか!」
ぴしりと言われて剣を離したが、まだシャーロットを放そうとはしない。ぎりりと唇をかむジェームズ。ぷるぷるしているお嬢さま。
「ブライス公。諸々の状況と諸君の話をあわせてみれば、すべて貴様の差し金であると判断できるのだが、なにか申し開きはあるか」
「そんな証拠は捏造です、陛下」
この期に及んで、ブライス公は苦し紛れのいい訳をする。
「おお、そうだ。忘れていた。カーソン公、あれを」
カーソン公は、内ポケットから書簡の束を取り出した。それを見てブライス公は青くなった。
「アランが持ってきてくれたのだよ。メアリもバカではないということだよ。残念だったな」
ブライス公からメアリへの指示。読んだら処分しろ。と言われて素直に聞くわけないじゃんか。それくらいの保身はだれでもするよ、きっと。
スマホ、クラウドのないこの時代、現物がなにより大事だもの。
「くっ」
くやしそうに顔をゆがめるブライス公。なんかね、詰めが甘くない? こんなゆるゆるでうまくいくわけないじゃん。と思うのは元の世界の記憶かしらね。ドラマとか小説とかの。
「ブライス公、グレイ伯。両家にも王国軍がむかった。イザベラ側妃もすでに捕えた。謀反は一族斬首の刑だ。わかっているな」
うわー! 一族斬首! 時代劇みたい。ある意味そうだけど。
カミラは無邪気な笑顔で、どの花が一番蜜が溜まっているか、ブライス公に教えている。それがいっそう哀れを誘う。
「メアリ、アラン」
国王陛下は呼びかけた。ふたりはきっちりと礼をとった。
「おまえたちには、証言をしてもらうよ。処罰はそれからだ」
減刑ってあるんだろうか。このままだと、ウッドヴィル家も斬首になってしまうのだけど。
なんとかならないのかな。
近衛隊がブライス公一味を取り囲み、やれやれこれでこの騒動も決着がついた。そう思ったときだった。
「うるさいうるさいうるさい! だまれ!」
まだひとり、無駄な足掻きをするやつがいた。ジェームズである。
あろうことか、一度はなした剣をまたもやお嬢さまに突きつけた。
「お嬢さまっ!」
「シャーロット!」
一同の目がはなれた隙に、ブライス公が扉に向かって走り出した。
「あっ、待てっ!」
ルーク殿下がブライス公に体当たりをした。近衛兵が群がる。
そのいっしゅんに、お嬢さまはジェームズの手から逃れようとした。
「お嬢さまっ!」
わたしにむかって、お嬢さまは手をのばす。
その背中にジェームズは剣を振り下ろした。
ああっ! ダメ!
とっさにお嬢さまを突き飛ばして、わたしはジェームズに飛びついた。
飛びついたと思った次のしゅんかん、わたしははじき飛ばされた。
強い衝撃が体中を走った。
「アメリア!」
わたしを呼ぶ、いくつかの声が聞こえた。そこで意識が途切れた。
お嬢さま……。
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