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ルイーズ
しおりを挟む「ウィリアムさまは無事なの? おねがい、教えて!」
何度言っても誰も答えてくれない。
無事だとわかったのなら、安心できるから。
一階の応接室から、王宮の裏手につれて行かれる。槍を持った衛兵に囲まれて、まるで罪人のように。
どこに行くんだろう。こっちに来たことはない。なにがあるんだろう。こわい。
毒なんて盛っていないのに。
ルイーズは思う。きっとなにかの間違いなんだわ。
もしかして、材料が古かったのかもしれない。それでおなかをこわしたとか。
ううん。うちの料理長がそんな間違いをするわけがない。
毒なんて。そんな。
メアリはどこに行ったのだろう。後ろを見ても姿はなかった。
王妃さまもいっしょに出されたけれど、どこに行ったのだろう。
気がついたら、ルイーズはひとり衛兵に囲まれていたのだった。
わたしはどこに連れていかれるんだろう。
やがて、地下へむかうくらい階段を降りていく。
むき出しの石の階段。壁。
もしかして。
聞いたことがある。
罪人を閉じ込めておく地下牢。
まさか!
「ねえ! どこに行くの? ここはどこなの?」
やはり返事はない。
降りたところは、鉄格子がならんだ薄暗い廊下。
「いやあぁぁぁーーー!」
身をよじっても掴まれた腕はびくともしない。
「はなしてーーーー!」
恐怖に我を忘れて泣き叫んだ。
「はなしてーーー! いやあああ!」
「しずかにしろ!」
がちゃりと重い音がして、鉄の扉が開けられた。
足を踏ん張って抵抗しても、衛兵の力にはかなわない。あっさりと鉄格子の中へ放り投げられた。
つんのめって、どさっとひざをついた。
後ろで、扉が閉まる非情な音がした。
「やだ! 出して! いやよ! わたし、なにもしていない! ウィリアムさまに会わせて! おねがい!」
いくら叫んでもふり向く者はいない。とうとうルイーズひとりを残して、みんないなくなってしまった。
それからしばらくの間、ルイーズは鉄格子をつかんで泣き叫んでいたけれど、やがて疲れて声も枯れ果ててしまった。
「どうして、こんなことに」
涙を流しながらルイーズは考える。
毒なんて知らない。そんなの、見たこともないし。どうしてだれも話を聞いてくれないのだ。
ウィリアムさまは無事なのかしら。まさか亡くなったなんてないわよね。
そう思ったら怖くて怖くてしかたがなかった。
シャーロットは無事かしら。ちゃんとおうちに帰れたらいいのだけど。
ヘンリー卿だったら、ウィリアムさまのことを教えてくれるんじゃないかしら。どこにいるんだろう。
足元から冷気がのぼってくる。立ちっぱなしの足は冷たくてもう感覚がない。
牢の中にはベッドなどない。それどころかイスのひとつもない。
むき出しの石の床は、湿って汚れている。とてもすわる気にはならなかった。
さっき転んだ時に、ドレスの裾とひざのところが汚れてしまった。
手のひらは擦りむいて、血がにじんでいる。
寒い。冷たい。汚い。
ひどくみじめだ。
耳の奥で、カミラの笑い声が聞こえた気がした。
ウィリアムさま、どうかご無事で。
ルイーズは両手を握りしめて、ただ祈った。
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