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ルーク
しおりを挟むいつもと同じように仕事をしていた。書類に目を通し、ジョージが簡単な説明をし、サインをし。何人かの官吏と面会をし。
なんら変わりのないいつもどおりの日だった。
きょうはシャーロットが来ているな。
彼女が同じ場所にいる。というだけで、気持ちがふんわりと浮き上がってくる。彼女がいるだけで、いつものお茶もおいしく感じる。
あと一時間。さっきから何度も時計を見ているのに、ちっとも針が進まない。
この時計、壊れているんじゃないか?
「気持ちはわかるが、もうちょっとだけ仕事に集中してくれよ」
ため息まじりにジョージが言った。
うん、わかっているんだけどね。
そのときだった。
バンっ! と勢いよく扉があいた。
ぎょっとして、ルークもジョージも顔を上げた。
衛兵が数人、どやどやと入って来た。
「何事だ! 無礼だぞ!」
ジョージが衛兵の前に立ちはだかった。
「ルーク殿下に王太子殿下暗殺の容疑がかかっています」
一歩前に進みでて、そう言ったのは士長だった。
「はあ?」
王太子殿下暗殺ってなんだ。
ルークもジョージも間抜けな返事しかできなかった。
「王太子殿下の菓子に毒が盛られたのです」
「はあ?!」
「ルイーズ・カーソン嬢が犯人です」
「そんな、ばかな」
「ルーク殿下に共犯の容疑がかかっております」
「ばかを言うな! 兄上はどうした! 無事なのか!」
それには士長は答えなかった。
「殿下はこの部屋から出ることはできません」
「は? なぜ、おれが」
ルイーズが毒を盛るなんてありえないし、それにルークが加担することもありえないのに。
「あっ。おい! なにをするんだ!」
ジョージはふたりの衛兵に両側から抱えられ、引きずられていく。
「ジョージをどこへ連れていくんだ!」
止めようとするルークを士長がさえぎった。
「おとなしくしてください。お願いですから。わたしたちも手荒なマネはしたくないので」
呆然としているうちに、ジョージは連れ出されてしまった。
バタンっと、扉の閉まる音にはっとしたときにはもう遅かった。みんなが出て行き、部屋の中にひとりぽつんと取り残されていた。
あわてて扉に飛びついて押したところで、ぴくりとも動かない。外側から開かないように押さえられているのだ。
閉じた扉がふたたび開くことはなく、「あけろ」という命令に答えはなかった。
「な、なにが起きた」
ブライス公とグレイ伯がなにやら裏でこそこそ企んでいるのは把握していた。ルークとルイーズの噂もそのひとつだったはず。
まさか、こんなふうにつながってくるとは。
ど、どうしよう。
シャーロットはどうしただろう。ルイーズといっしょにいるはずだが。
なにがどうした。だれがなにをした。
外の様子はまったくわからない。なんの情報もない。
苛立ちばかりつのって、居ても立っても居られない。ただただやみくもに歩き回る。三十分立っても状況は変わらない。
いまごろ、シャーロットとお茶を飲んでいるはずだったのに。
「くそっ!」
苛立ち紛れに、イスを蹴飛ばしたときだった。
――コンコン。
小さな音がした。ハッとふり向くと、窓の外にジョージが張り付いていた。
「ジョージ!」
ルークは窓に飛びつくと、ぐいっと窓枠を押し上げた。
「そんなにイラつくなよ」
ヘラっとした様子でジョージはするりと部屋の中へ入って来た。
「ここ、三階だぞ」
ルークがあきれたように言った。
「あいつら、ばかだな。隣からの移動なんて朝飯前なのに。おれを見くびりすぎだ」
ぱんぱんっと両手を払った。
隣に監禁されていたのか。
「なあ、兄上はどうした。シャーロットは」
「まあ、あわてるな。おれが知っていることと、おまえが知っていることは大差がない」
それならいばるな。とルークは睨んだ。
「わかるぶんだけでも状況を整理しよう」
ジョージはヘラヘラしてるくせに冷静である。だからこそ、ルークは信頼しているのだが。
「まず、王太子殿下の容態がわからない。ただ、亡くなったのなら外はもっと大きな騒動になっているだろうね。だからといって、安心もできないが」
なるほど、たしかに、とルークはうなずく。
「ルイーズ嬢が毒を盛ったというなら拘束されている可能性が高い。おれたちのようにどこかの部屋ならばまだしも、最悪は地下牢だ」
地下牢はやめてほしいが。
「シャーロット嬢はルイーズ嬢といっしょにいたはずだが、どうしただろう。拘束されてはいないだろうが、無事に屋敷に帰ってくれているといいんだが」
そうなのだ。この件にシャーロットは一見無関係だ。ほんとうにそうならいいのだが。
「さて、ヘンリーはどこに行ったのかな」
そのときだ。扉の外で、どすん、ばたんと物音がしたのは。
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