転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

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悪事はバレるものなのよ

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 ローズがあわてて礼をとったところで今さらである。悪行はばっちりと見られていた。

「レディ・ウィンチェスター。アメリアがなにかしたか」

 うっわ。王子さまのご機嫌、めっちゃ悪い。

 いとしのシャーロットに意地悪をしたんだから当然ですけれども。



 じつはこっそりと、ルーク殿下の従者、ジョージ・クラーク卿とはこまごまと連絡を取っていた。

 もちろん、意地悪ローズの嫌がらせの件だ。

 お嬢さまが直接言えればいいのだけれど、へんなところで我慢強いお嬢さまは、耐えてしまうのだ。



「そんなことで、ルークさまのお手を煩わすわけにはいきません」

 煩わしてほしいんじゃないかな。そんで、おれが守ってやらなくては。なんて男気を発動するんじゃないのかな、年頃の男子は。

 

 それに後から知ったら、助けてやれなかった。とか言ってすごく後悔するんだと思う。知らなかった、なんて屈辱的だ。

 だから、ちょっとおせっかいを焼いた。

 それにローズの意地悪も目に余ったしね。



 とはいえ、侍女が王子殿下に連絡するわけにもいかないので、従者のクラーク卿のお耳に入れたわけだ。

 当然ルーク殿下の知るところとなり、「シャーロットを守れ」と殿下から厳命が下されたのだった。



 そこで、わたしとクラーク卿で、殿下とお嬢さまのスケジュールを共有することになったのだ。

 さっき、お茶会が終わるタイミングで、クラーク卿に「これから帰る」と伝言を送っていた。

 それで、間にあうかどうか、ぎりぎりだったのだけれど。



 ちょうどいいところに来てくれてよかった。



「レディ・ウィンチェスター。前々から思っていたが、シャーロットになにか思うことがあるのか。あるのなら、今ここではっきりと言え」

 おお。殿下凛々しい。

 惚れ惚れします。



「い、いえ。なにも」

 ローズはもごもごと口を動かす。冷や汗だらだら。

「あるのか、ないのか!」

 殿下がきびしい。

「あ、ありません」

 そう言うしかないよね。調子こいた侍女もうしろで真っ青になっている。



「そうか、ならば以降、シャーロットにあいさつは無用だ。もちろんわたしにもだ。このことはウィンチェスター侯爵にも話しておこう」

 うわー、理不尽。

 でもしょうがない。自業自得だよね。

 意地悪ローズはぶるぶると震えている。



「そこまでおっしゃらなくても。わたしならだいじょうぶですから」

 ルーク殿下の腕の中で、お嬢さまがぷるぷると震えながら見上げる。殿下の眉間のしわは取れない。

 同じ震えでも、お嬢さまはチワワのようでめちゃかわいい。

 守ってあげなくちゃ。わたしもそう思う。



「ローズさま。どうかまた、お声をかけてくださいませね」

 おおう。お嬢さま、それはトドメでは?



 たぶん、あしたには「さんざんシャーロットに嫌がらせをした性悪ローズ」と「性悪ローズから婚約者を守った男気のあるルーク殿下」と「その性悪ローズに寛大な態度を見せたやさしいシャーロット」三人の噂が飛びかうだろう。



「やさしくする必要はないんだぞ」

 ルーク殿下がキリリとのたまった。



 意地悪ローズはうつろな目で立ちすくんでいた。

 ご愁傷さま。



「アメリア、だいじょうぶ?」

 お嬢さまが心配してくれる。

「これくらい、だいじょうぶですよ」

 わたしは腕を曲げて力こぶを作って見せた。



「医師に診てもらおうか」

 殿下まで声をかけてくださる。おそれおおいことで。

「ほんとうに、だいじょうぶでございます」

「そうか。じゃあ、車寄せまで送ろう」



 ルーク殿下があらわれたので、お嬢さまはにこにこしている。

 うん、よかった。

 クラーク卿も腕の心配をしてくれた。

 この世界「女は男に守られるもの」みたいな価値観がふつう。とくに貴族は。

 すっごいモラハラ。



 昭和、平成、令和の三つの時代を駆け抜けた(笑)おばさんには、違和感ありあり。でもそれがふつう。



 たかだか腕をつかまれただけで、これだけ心配してくれるのはありがたいが、慣れていないわたしは鳥肌が立つ。そのうち慣れるんだろうか。それもいやだが。



 どっちかっていうと、夫の尻を叩きながらバリバリ働いている下町のおかみさんのほうが性に合っている。

 っていうか、結婚はもういい。ひとりで好き勝手に暮らしていきたいんだけれど。

 中身は五十四才だもん、しかたないよね。



「嫌なことがあったら、すぐにおれに言うんだよ」

 ルーク殿下が眉尻を下げる。シャーロットラブである。

「ありがとう、ルークさま」

 お嬢さまがニコッと笑うと、殿下は耳まで赤くなった。

 ラブラブ。



 クラーク卿と目が合うと、彼は「うむ」とうなずいた。わたしも「うむ」とうなずいた。

 うまくいったな、おつかれ。そんな意味である。

 いつのまにか、阿吽の呼吸が身についた。

 ……いらないスキルだな。



 まだ赤味の引かない殿下に見送られて馬車は走り出した。



 小さく手を振るお嬢さまは、ほんのり頬がピンク色で、いっそうかわいらしかった。

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