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王子登場
しおりを挟むお嬢さまが言ってのけた。
すばらしい!
わたしは、心の中で拍手を送る。
「あ、あらそう」
意地悪ローズは、怯んだ。ざまあ!
「それはそうと」
なに?
「シャーロットさまは今日も地味ですわね」
コノヤロー、矛先を変えやがったな。
「そんなんでは、ルーク殿下にふさわしくありませんわよ?」
意地悪ローズとその侍女はニヤニヤしている。
主従って似てくるのかな。
「もっと華やかな方のほうが殿下にはお似合いよねぇ。たとえば」
意地悪ローズは侍女にむかって言った。侍女は「もちろん」とうすら笑う。
「スカーレットさまとか」
意地悪主従がニイッと笑った。ほんと性悪。
だーかーら! そんなふうに根性が曲がっているから選ばれなかったのだよ!
スカーレットさまとは、王家の血を引く公爵家のご令嬢。見目麗しいのはもちろん、礼儀も社交もすべてが完璧。パーフェクトレディだ。
もちろん、こんな意地悪なんかするわけない。
そして、隣国の王子さまとの結婚が決まっている。
遠距離ではあるが、もちろんラブラブ。
ローズの出る幕はない。
「そ、そんなこと……」
お嬢さまの声が小さくなる。いまいち自分に自信が持てないのだ。スカーレットさまがどうこう、なんてあるわけないのはわかっているんだけど。
だいじょうぶ。スカーレットさまよりかわいいとわたしは思います。ルーク殿下もそう思っていますよ。
そんなこと、あるかもしれない。とお嬢さまは思ってしまうのだ。
ルーク殿下は素敵な方だし、人気があるし、わたしなんかよりもかわいらしいレディがお似合いなのかも。
そう思ってしまうのだ。
あんなに甘やかされているのだから、自分が世界で一番かわいい、とか思っちゃっても不思議じゃないのに、そうならないのが不思議なお嬢さま。
「そうよ。そうよ」
弱気になったお嬢さまに、ますますローズはつけあがる。
……いじめの構図だな。
どの世界でも、どの時代でもあるんだな。ほんと、胸糞悪い。
「お嬢さま、馬車が待っておりますよ」
わたしはお嬢さまに声をかけた。
もういいだろう。とっとと帰りましょう。
助け舟は間にあわないようだ。
「……そうね」
では、と体の向きを変えたとたん、
「あら、せっかくお会いしたのですからもっとお話ししましょうよ」
意地悪ローズが図に乗った。般若みたいに笑ってる。怖いぞ。そんな顔見たら、男子はドン引きだ。
さすがにこれ以上はゆるせない。
お嬢さまとローズの間に割って入った。
「申し訳ございません。馬車を待たせておりますので」
「まあ! 侍女の分際でわたくしに逆らうの?」
図に乗った意地悪ローズは、わたしの腕をぎゅっとつかんだ。
アウト! 手を出しちゃダメ!
意地悪ローズは、爪を立てるようにグリッとわたしの二の腕をつかんだ。ぜったいわざとだ。
声をあげなかったことを褒めてほしい。
「アメリア!」
シャーロットお嬢さまがもう片方のわたしの腕に手をかけた。
どうするんだ、この状況。こんな場所で。目立つこと、この上ない。ほら、まわりも「あーあ、やっちまったな」って顔をしている。
ローズ、とんでもない悪手だぞ。
「なにをしている!」
突然聞こえた凛々しい声。王子さま登場。助け舟がやっと来た。
「ルークさま」
シャーロットお嬢さまの声は、ほっとしている。
一方意地悪ローズは。
しまった、とばかりにパッとわたしの腕を離したけれど、時すでに遅し。
「シャーロット。だいじょうぶか!」
つかつかと足音も荒く近づくと、さっとお嬢さまを腕の中に囲い込んだ。
おそいよ。とは思ったが、ちょっと息も切れているし、急いで来たんだろうな。だからよしとしよう。
「わ、わたしはだいじょうぶです。アメリアが……」
わたしはつかまれた腕を痛そう―にさすりながら、
「だ、だいじょうぶですぅ」
と消え入りそうな声で言う。わざと、か弱そうに。
どう? かわいそうでしょ? わたし。
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