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名もなき恋人 改めビビ
しおりを挟むわたしは下町の食堂「美美杏亭」の給仕をしている。お店は「おいしい」って評判で、ついでに給仕のわたしもかわいいって評判。
おかげで騎士団のみなさんもひいきにしてくださる。
騎士団のみなさんが来るから、街の女子たちも集まってくる。夜なんか即席合コンになったりする。
もちろん不埒な男がのさばらないように、ちゃんと目を光らせている。用心棒もいるしね。
イアンも最初はただのお客さんだった。お会計のときに「また来るね」ってにっこりしてくれた。ちょっとカッコよかった。
それからは昼も夜もずっと通ってくれて、たくさん話しかけてくれて、「つきあってください」って言われた。
エドガーさんもたくさん声をかけてくれていたから、友だちはみんな「エドガーさんの方が男前だよ」って言ったけど、申し込んでくれたのはイアンの方が先だった。
それに、エドガーさんはカッコよすぎて敷居が高いもの。わたしにはイアンくらいがちょうどいいと思う。
ちょっと前からお客さんがわたしを見て「ほらほら、愛人の方だよ」って言う。
なんのことだろう?
イアンに言ってみたら「気のせいだろう」って言われた。
なんか、ごまかされている気がする。
でもまあ、いいか。
イアンは先週からずっとわたしのアパートメントに居座っている、じゃなくて、滞在している。
「帰らなくていいの?」
「ああ、いいんだよ。ええー、おれいない方がいいの?」
「ちっ、ちがうよー。ただおうち、だいじょうぶなのかなって心配になっただけ」
「そうかあ、心配してくれるのかぁ。ビビはかわいいなぁ」
そう言って、頭をなでてくれる。
それって、転がり込んでるって言うんじゃない?
友だちにそう言われた。そうかな? いっしょにいられるからうれしいけど。
「ねえ、『きみを愛することはない』祭りってなあに?」
「はっ? はっ? いや、知らん知らん、なんだろうね。だっ、だっ、誰が言った?」
えー、なんかすっごくあわててるけど?
「エドガーさんが教えてくれたよ」
チッて聞こえた。舌打ちした? なんか、ちっちゃい声で「エドガーのヤツめ」って言ってる。
聞いたら悪かったのかな。
コンコンコン。
ちょうどそのとき、ドアをノックされた。
「あっ、そういえばパパが来るんだった」
「えっ、パパ?」
「そう! イアンの顔が見たいんだって」
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