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ドラゴンと独立宣言の章

砦防衛戦

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警察隊が国境へと急ぐ最中、国境付近に駐留する騎士達は籠城戦を行っていた。

「くそっ、矢が通じないぞ!」
「投石で応対しろ!小型の弓では対処しきれん!」

砦に殺到する獣人の群れ、皆屈強にして不屈の闘志の持ち主らしく矢の雨を恐れず、投石にも怯みこそすれ退くことなく前進する。

東側国境付近の砦は獣人に対する対策をとられていたが、獣人達はそれを研究していたのか様々な対抗策を講じていた。

「油が通じない・・・あれはなんだ?!」
「鉤爪を足につけているのか!」

砦の門は固く閉ざされ、堅牢ではあったが獣の能力を有する獣人には壁をよじ登ることなど造作もない。それ故に砦の壁は坂道に囲まれており、有事には撥水性の高い材質の壁から油を流して侵入を防ぐ。しかしそれに獣人達のグループは靴を履き、そこに鉤爪を装着することで油対策を行っていた。

「足を狙え!鉤爪を破壊するんだ!」
「このやろう!」

砦の上から思い思いの石やらゴミやらを投げまくる。そうなると痛みは耐えられても臭いに耐えかねたのか獣人達はゴミから逃げるように退散していった。

「臭いには奴等も耐えられないようだな」
「鼻がいいのが災いしたというわけか・・・」

騎士達は肩で息をしつつも撃退できたことに安堵し、思い思いに休息を取る。こんなことが既に数日続いており、騎士の疲労も日毎に大きなものになっていた。

「しかし・・・不気味な化粧をするやつらだ」

顔料に魔石を混ぜているのか彼らが興奮し、魔力を発露させるたびに淡く発光する化粧は闇夜に浮かび上がっては騎士達に夜襲を報せる。
奇襲としては無駄になっていたが彼らの神経を磨り減らす作戦としては非常に有用であった。

「あの暗闇に浮かぶ光がなぁ・・・」
「あれはなんの意味があるんだ?」
「知るかよ、獣人に聞け」

数人の騎士が壁に寄りかかって見張りがてらに休息を取る。夜襲の関係上、負傷者以外はほとんど屋内に入ることはない。そんな中では何気ないやりとりが彼らの心の支えだった。

「門外漢だからな」
「門の中に籠ってるのにか?」

その一言に一同は吹き出し、肩を叩きあう。そんな時に彼らの一人が表情を険しくする。

「おい、あれ・・・」
「なんだ?」

こっそりと顔を出して一人が指差した箇所を皆が確認する。すると闇夜に浮かぶ光が現れては数を増やしていく。

「敵襲!敵襲ーっ!」

爛々と輝く瞳の光が見える頃には他の歩哨も気づいたのか瞬く間に厳戒体制になり、砦は慌ただしくなる。

「南側に回れ!かなり近づかれてる!」

足早に伝令が休憩している騎士達の肩を叩いていく。細かい説明はできないので伝令が触れた者から順番に命令を受諾し、南側に走っていく。それ以外は持ち場につくため投石と槍を抱えて走り出していく。

「登られてるじゃねえか!」
「いってる場合か!叩き落とせ!」

上ってくる獣人を騎士達は到着次第壁を登る獣人達を叩き落としていく。

「このやろう!」
「ぐぅ!」

石突で頭部を殴打するとさすがに不安定な姿勢だからか獣人達も転げ落ちていく。木登りの不得手な狼型の獣人ばかりだったのでそれが幸いしたようだった。

「腐ったスープを食らいやがれ!」
「ヴェッ?!!!・・・ワァァァァー・・・!」

カビの生えた野菜を煮込んで滑りが出た湯を柄杓に汲んでは流していく。臭いに言い様のない悲鳴を上げつつ手や足を滑らせて転げ落ちていく。

「はぁ・・・はぁ・・・この!」

ガツン!と音を立てていた槍の一撃も夜が白み始める頃には頼りない音になっており、さすがの獣人達も疲労困憊といった様子で恨めしそうに砦を見上げるばかりの者が増えてきた。

『ウォォォーーーン』

遠くから遠吠えのような叫びが聞こえる。その叫びに獣人達も騎士達も息を大きく吐き出し、その場に座り込んだ。

「撤退の合図だ・・・助かった・・・」

騎士の一人がそう言うと防衛に当たった騎士達もへなへなと壁に寄りかかったり座り込んだりと様々だ。獣人達も声の方向へとぞろぞろと引き上げていく。

「救援はいつくるんだ・・・」
「わからん、だが何人かは逃亡に成功したのを見た・・・追撃をどれだけされたかはわからんが別れるまで元気だったから大丈夫だろう、きっと救援をつれて戻ってくるさ」

弱音が出そうになるのを未だ来ない救援を思い描く事で飲み込み、配給で配られるパンを齧って耐えしのぐ。しかし彼らの疲労具合と配られるパンの量から考えても限界はそう遠くは無さそうだった。
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