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ドラゴンと独立宣言の章
交渉、というものは面倒だ
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とりあえずはこちらから相手に判断の余地を与えようかと思い、俺は提案を持ちかけることにした。
「とりあえず、そちらの鉄をありったけ買えるだけ買おうと思うがどうだ?」
鉱山をあきらめるのだからそれなりに見返りがあっていいだろう。鉄鉱石は適正価格でこちらから適当に流してもいいだろうし、そもそも鉄の使い道はこちらとしてはいくらでもあるので困らない。
さすがにドワーフ達の作る鉄と比べると粗製だがそれでも再精錬を行えば十分に可能だし、純粋に鉄として加工しても十分なほど鉄の需要はある。
「・・・こちらの鉄製品を?何故?」
「商品の定期購入を行うという提案だが?」
皇太子にそう言うと彼は再び考え込んだ。失敗だったか?そもそも俺がどうして鉄を買うと言いだしたとか考えるべきだったか。
「・・・色々とそちらの方が有利なようだ」
「フェアではないと、駄々をこねるかね?」
「こねれば手加減してくれるかな?」
「まさか、俺はいつだって全力だ」
そう言うと皇太子はやれやれと言った様子で肩を竦めると降参だとばかりにため息をついた。どうやらそっちで勝手に色々と妥協してくれたようだ。
「それと、我々の国家『扶桑』はこれより貴公らリットリオ公国と友好かつ対等な国交を結ぶべく正式に独立の宣言を行いたいのだが・・・どうかね?」
「・・・!対等と来ましたか・・・」
普通ならば暴論。新興国と列強ともいうべき大国とのやり取りであれば不可思議かもしれない。身の程知らずとも。
しかし実際は違う。俺が国内の経済、治安、軍備にいたるまでを知り尽くしているのだ。知らないところもあるかもだがそれもその気になればいくらでも調べられる。
これは一種のテストでもある。一般人かそれ以下のバカには挑発に。賢い者、知恵のある者、現実がよくよく把握できている者にはこれは大きなチャンスと見える。将来必ず大国になる俺の国とつるみたいと、そう思えるかどうか。
「まいったな、我が国はどこまで貴方に・・・」
「さてな、サービスは此処までだ。取り急ぎ鉱山の権利関係を片付けよう」
俺はそう言うと立ち上がり、服装を軽くただした。皇太子殿下とはもう少し話したかったが生憎と俺もそこまで暇じゃない。アージェ王子やその手の専門家とを介して条約については話し合う事にしよう。
「そうですね、こちらとしても自分のモノでもない鉱山をアテにして算盤を弾くよりそちらに差し上げた方が利口というものだ」
「そういう事になるな、ではそのように文書に纏めよう」
「正式な話の内容はサマルのお役人の立ち合いの元となりますか?」
俺が頷くと皇太子殿下も頷き、俺に手を差しだした。
「契約成立、というところでしょうか」
「そうなる、小難しい事は後に決めることだが・・・交渉をしてくれれば俺の顔も立つ」
互いに握手を交わし、笑みを浮かべる。色々と観察されている感じだが・・・ま、わかるようなら勝手にわかってくれ。俺は別に隠すような事はないからな。
「あと、これは土産だ、居間か寝室にでも飾ってくれ」
去り際に俺は木箱に詰めた渾身の力作を手渡した。
「ちょ・・・待ってください!こんな・・・!」
部屋を出る際に木箱の中身を確認したらしい皇太子殿下が何か言っていた気がするがスルーする。政治の話は面倒くさいんだよ。
「さて、伯爵としての顔はおしまいだ、これから行く所は・・・」
「はいはい!美味しいまふぃんをお土産に買いに行きます!」
そそくさと王城から脱出した俺たち。アージェ達とも別れて向かう場所はもちろんアウロラのスイーツ巡りではない。
「マフィンは後!」
「えー・・・」
露骨にがっかりするんじゃない。サマル王国の人間としての仕事が終わっただけでまだまだ仕事の続きだぞ。
「『ティアージョーカーズ』の居場所を突き止めて確保する、どんな理由で離反しているかはしらないがすでに両種族の争いが収束した以上帰属してもらわんとな」
「ああ、そういうことでしたか」
ティアージョーカーズ。此度のもめごとをややこしくした張本人であり、はぐれのダークエルフとエルフがそれぞれ徒党を組んでいるのだという。彼女達がどのような主義で活動しているのかはわからないがそろそろ真っ当になってもらうとするか。
「それでは、・・・」
真面目な顔になったアウロラがなにやら小さく呪文を呟く。するとアウロラの影から数匹の犬が現れ順番に並ぶ。
久しぶりに彼女の魔法を見た気がするな。
「このわんころ達は?」
「探査に長けた私の魔術です、私の意思に従い私の記憶にある物や人物を探してくれます」
彼女はそう言うと自慢げに胸をそらし、ワンころ達に指示を飛ばす。すると彼らはどういうわけか皆俺にすり寄ってから各地に散っていった。猫みたいな事するやつだな。っていうか・・・意思のままに動くってことは。行動にも彼女の意思というか、欲望みたいなもんが絡むと。
「意思・・・ね」
「は、恥ずかしい」
なんとなく俺が見透かしたのを察したのか頬を染めるアウロラ。なんというか、可愛いからいいけどな。
「とりあえず、そちらの鉄をありったけ買えるだけ買おうと思うがどうだ?」
鉱山をあきらめるのだからそれなりに見返りがあっていいだろう。鉄鉱石は適正価格でこちらから適当に流してもいいだろうし、そもそも鉄の使い道はこちらとしてはいくらでもあるので困らない。
さすがにドワーフ達の作る鉄と比べると粗製だがそれでも再精錬を行えば十分に可能だし、純粋に鉄として加工しても十分なほど鉄の需要はある。
「・・・こちらの鉄製品を?何故?」
「商品の定期購入を行うという提案だが?」
皇太子にそう言うと彼は再び考え込んだ。失敗だったか?そもそも俺がどうして鉄を買うと言いだしたとか考えるべきだったか。
「・・・色々とそちらの方が有利なようだ」
「フェアではないと、駄々をこねるかね?」
「こねれば手加減してくれるかな?」
「まさか、俺はいつだって全力だ」
そう言うと皇太子はやれやれと言った様子で肩を竦めると降参だとばかりにため息をついた。どうやらそっちで勝手に色々と妥協してくれたようだ。
「それと、我々の国家『扶桑』はこれより貴公らリットリオ公国と友好かつ対等な国交を結ぶべく正式に独立の宣言を行いたいのだが・・・どうかね?」
「・・・!対等と来ましたか・・・」
普通ならば暴論。新興国と列強ともいうべき大国とのやり取りであれば不可思議かもしれない。身の程知らずとも。
しかし実際は違う。俺が国内の経済、治安、軍備にいたるまでを知り尽くしているのだ。知らないところもあるかもだがそれもその気になればいくらでも調べられる。
これは一種のテストでもある。一般人かそれ以下のバカには挑発に。賢い者、知恵のある者、現実がよくよく把握できている者にはこれは大きなチャンスと見える。将来必ず大国になる俺の国とつるみたいと、そう思えるかどうか。
「まいったな、我が国はどこまで貴方に・・・」
「さてな、サービスは此処までだ。取り急ぎ鉱山の権利関係を片付けよう」
俺はそう言うと立ち上がり、服装を軽くただした。皇太子殿下とはもう少し話したかったが生憎と俺もそこまで暇じゃない。アージェ王子やその手の専門家とを介して条約については話し合う事にしよう。
「そうですね、こちらとしても自分のモノでもない鉱山をアテにして算盤を弾くよりそちらに差し上げた方が利口というものだ」
「そういう事になるな、ではそのように文書に纏めよう」
「正式な話の内容はサマルのお役人の立ち合いの元となりますか?」
俺が頷くと皇太子殿下も頷き、俺に手を差しだした。
「契約成立、というところでしょうか」
「そうなる、小難しい事は後に決めることだが・・・交渉をしてくれれば俺の顔も立つ」
互いに握手を交わし、笑みを浮かべる。色々と観察されている感じだが・・・ま、わかるようなら勝手にわかってくれ。俺は別に隠すような事はないからな。
「あと、これは土産だ、居間か寝室にでも飾ってくれ」
去り際に俺は木箱に詰めた渾身の力作を手渡した。
「ちょ・・・待ってください!こんな・・・!」
部屋を出る際に木箱の中身を確認したらしい皇太子殿下が何か言っていた気がするがスルーする。政治の話は面倒くさいんだよ。
「さて、伯爵としての顔はおしまいだ、これから行く所は・・・」
「はいはい!美味しいまふぃんをお土産に買いに行きます!」
そそくさと王城から脱出した俺たち。アージェ達とも別れて向かう場所はもちろんアウロラのスイーツ巡りではない。
「マフィンは後!」
「えー・・・」
露骨にがっかりするんじゃない。サマル王国の人間としての仕事が終わっただけでまだまだ仕事の続きだぞ。
「『ティアージョーカーズ』の居場所を突き止めて確保する、どんな理由で離反しているかはしらないがすでに両種族の争いが収束した以上帰属してもらわんとな」
「ああ、そういうことでしたか」
ティアージョーカーズ。此度のもめごとをややこしくした張本人であり、はぐれのダークエルフとエルフがそれぞれ徒党を組んでいるのだという。彼女達がどのような主義で活動しているのかはわからないがそろそろ真っ当になってもらうとするか。
「それでは、・・・」
真面目な顔になったアウロラがなにやら小さく呪文を呟く。するとアウロラの影から数匹の犬が現れ順番に並ぶ。
久しぶりに彼女の魔法を見た気がするな。
「このわんころ達は?」
「探査に長けた私の魔術です、私の意思に従い私の記憶にある物や人物を探してくれます」
彼女はそう言うと自慢げに胸をそらし、ワンころ達に指示を飛ばす。すると彼らはどういうわけか皆俺にすり寄ってから各地に散っていった。猫みたいな事するやつだな。っていうか・・・意思のままに動くってことは。行動にも彼女の意思というか、欲望みたいなもんが絡むと。
「意思・・・ね」
「は、恥ずかしい」
なんとなく俺が見透かしたのを察したのか頬を染めるアウロラ。なんというか、可愛いからいいけどな。
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