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ドラゴンと独立宣言の章
月下美人はドラゴンと語らう
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その晩、俺は再び王宮を訪ねる。アレクシアはどういう用件があって俺を呼び出したのだろうか。
「広いな・・・アレだけいた人が居なくなると広さが際立つ」
玄関前の庭に立つだけでも建物の広さに圧倒されそうになる。門番に挨拶をして門を潜ったが馬かなにかに乗ってくるべきだったかな。スタスタと遠慮なく歩いてはいるが広さが広さなだけに結構な時間を歩くハメになった。
「お待ちしておりました、伯爵様」
パーティでも応対してくれた老紳士が俺を出迎えてくれる。どうやら執事の筆頭らしい。どうりで全ての動作が堂にいっているはずだ。嫌味なく、提案や案内をできるのは長年の経験がそうさせるんだろう。
「何度も手をかけるな、仕事とは解っていても若造が先達に手間を掛けさせるのは気が引ける」
「お気遣い感謝いたします。ですがこれが務めですから、ご理解ください」
薄暗くなった王宮内を歩くがこれまた広いので手持ち無沙汰になりがちだ。こういう時ジョークの一つでも飛ばしたいところだが相手が困るだろうから我慢するしかない。
「此処よりはお一人でお進みください」
「いいのか?部外者が一人で」
「許可は出ておりますので」
そう言うと老紳士は恭しく一礼するとそのまま自分の仕事に戻っていってしまった。目の前にあるのはパーティが行われていたダンスホール、その入り口だ。デカイ扉が印象的で、そして暗さも相まって威圧的である。
「さて、それじゃ入るとするかね」
扉に手を掛けようとした瞬間、小さい部分が開いた。ああ、そこから入れってか。大きな方も開けれるけどせっかくだからそっちから入ろう。なんだか秘密基地的な感じがしてそういうのも好きだ。
扉を潜るとダンスホールには誰も居なかった。ただっぴろく大理石でできた床を靴が叩く音が響き、月光を浴びて輝くのみである。
「誰も居ないのか?」
「ここにいます・・・」
呟きも大きな声で反響するような静寂の中、暗闇から月光に照らされてアレクシアが現れた。普段と違う事といえば彼女が優雅なドレス姿で現れたことだ。
「見違えたな、月下美人ってやつか」
「似合っていますか?我儘を言ってしまって、それで突然だったので準備が間に合わなかったんです・・・」
そんな元気の無い彼女の手を取って俺は微笑んでみせる。
「間に合わなくて幸運だ、俺は恋のライバルを増やしたくは無い」
「変じゃないですか?」
「何処がだ?強いてあげるなら何時もの元気が無い事くらいだ。それとも俺が悲劇の主人公よろしく、敵対組織の長の息子でないところかな?」
今ならロミオとジュリエットの一幕を演じることも出来そうなほど彼女の姿は様になっていた。いかに普段が男勝りな格好をしていたとしても中身はしっかりお姫様をしていた。月夜に負けないくらいの立派なお姫様だ。
「悲劇は嫌いです・・・ヒロインと添い遂げないハナシは特に」
「奇遇だな、俺も嫌いだ」
そう言って再度微笑むと今度は彼女も微笑んでくれた。物憂げな美人は絵になるがやはり女性は笑顔が一番だと思う。それが自身の良く知る人物ならばもはや言うまでも無い。
「しかし思ったよりも明るい・・・それに・・・」
「それに?」
「今夜は・・・月が綺麗だな」
ちょっと気障だっただろうか。しかしあの時、ほんの小さな子供の頃から彼女を見ていた俺にとって彼女の成長は本当に驚いたものだ。本当に妹か娘のような存在だったというのに。
「あの・・・、私も・・・そう思います。月が、とってもきれいです」
驚いた。まさかこの世界でも同じ意味で使われていたのか?!頬を赤らめて潤んだ瞳で見つめる彼女は俺の顔をじっと見つめていたがやがて笑顔を深めて言った。。
「ふふふ、やっぱりなにか意味があるんですね?」
「・・・嵌めやがったな」
「ええ、意味を教えていただけると嬉しいですが」
相当恥かしいんだが・・・負けっぱなしは性に合わない。どうせ祖父の許可は得ているんだ。負けは大きな勝ちで取り返してやるとしよう。
「解らずに言い返した事を後悔するなよ?」
「どういう意味・・・んむっ」
そっと抱き寄せて俺は彼女にキスした。そうしてもいいだけの魅力的な女性に。気障なセリフになったとしても仕方ない。なにしろあれほど月が綺麗だったのだから。
「月が綺麗ですね・・・意味は『好きです、愛しています』だ。返事はキッチリと受け取った。幸せにしてやるからその心構えもしておけよ」
「・・・はい」
俺はアレクシアを抱き締めたままそうささやいた。お月様も恥かしがって隠れるかもしれない事をその後も何度か言った気もするし、言わなかったような気もする。
覚悟はしていたが後日俺達の愛の語らいは全て陛下と皇太子殿下とその奥方達にバッチリ記憶されていた。盗み聞きは感心しないが恥かしいことを言ってしまった手前これも仕方ないだろう。結婚式とかで暴露されたりしないだろうな・・・と思ったら歌劇にされてしまった。そしてそのときに俺が不意に呟いた『月が綺麗ですね』は上流階級の人々が夜会でプロポーズする際に用いる決まり文句として広まっていく事となる。
「広いな・・・アレだけいた人が居なくなると広さが際立つ」
玄関前の庭に立つだけでも建物の広さに圧倒されそうになる。門番に挨拶をして門を潜ったが馬かなにかに乗ってくるべきだったかな。スタスタと遠慮なく歩いてはいるが広さが広さなだけに結構な時間を歩くハメになった。
「お待ちしておりました、伯爵様」
パーティでも応対してくれた老紳士が俺を出迎えてくれる。どうやら執事の筆頭らしい。どうりで全ての動作が堂にいっているはずだ。嫌味なく、提案や案内をできるのは長年の経験がそうさせるんだろう。
「何度も手をかけるな、仕事とは解っていても若造が先達に手間を掛けさせるのは気が引ける」
「お気遣い感謝いたします。ですがこれが務めですから、ご理解ください」
薄暗くなった王宮内を歩くがこれまた広いので手持ち無沙汰になりがちだ。こういう時ジョークの一つでも飛ばしたいところだが相手が困るだろうから我慢するしかない。
「此処よりはお一人でお進みください」
「いいのか?部外者が一人で」
「許可は出ておりますので」
そう言うと老紳士は恭しく一礼するとそのまま自分の仕事に戻っていってしまった。目の前にあるのはパーティが行われていたダンスホール、その入り口だ。デカイ扉が印象的で、そして暗さも相まって威圧的である。
「さて、それじゃ入るとするかね」
扉に手を掛けようとした瞬間、小さい部分が開いた。ああ、そこから入れってか。大きな方も開けれるけどせっかくだからそっちから入ろう。なんだか秘密基地的な感じがしてそういうのも好きだ。
扉を潜るとダンスホールには誰も居なかった。ただっぴろく大理石でできた床を靴が叩く音が響き、月光を浴びて輝くのみである。
「誰も居ないのか?」
「ここにいます・・・」
呟きも大きな声で反響するような静寂の中、暗闇から月光に照らされてアレクシアが現れた。普段と違う事といえば彼女が優雅なドレス姿で現れたことだ。
「見違えたな、月下美人ってやつか」
「似合っていますか?我儘を言ってしまって、それで突然だったので準備が間に合わなかったんです・・・」
そんな元気の無い彼女の手を取って俺は微笑んでみせる。
「間に合わなくて幸運だ、俺は恋のライバルを増やしたくは無い」
「変じゃないですか?」
「何処がだ?強いてあげるなら何時もの元気が無い事くらいだ。それとも俺が悲劇の主人公よろしく、敵対組織の長の息子でないところかな?」
今ならロミオとジュリエットの一幕を演じることも出来そうなほど彼女の姿は様になっていた。いかに普段が男勝りな格好をしていたとしても中身はしっかりお姫様をしていた。月夜に負けないくらいの立派なお姫様だ。
「悲劇は嫌いです・・・ヒロインと添い遂げないハナシは特に」
「奇遇だな、俺も嫌いだ」
そう言って再度微笑むと今度は彼女も微笑んでくれた。物憂げな美人は絵になるがやはり女性は笑顔が一番だと思う。それが自身の良く知る人物ならばもはや言うまでも無い。
「しかし思ったよりも明るい・・・それに・・・」
「それに?」
「今夜は・・・月が綺麗だな」
ちょっと気障だっただろうか。しかしあの時、ほんの小さな子供の頃から彼女を見ていた俺にとって彼女の成長は本当に驚いたものだ。本当に妹か娘のような存在だったというのに。
「あの・・・、私も・・・そう思います。月が、とってもきれいです」
驚いた。まさかこの世界でも同じ意味で使われていたのか?!頬を赤らめて潤んだ瞳で見つめる彼女は俺の顔をじっと見つめていたがやがて笑顔を深めて言った。。
「ふふふ、やっぱりなにか意味があるんですね?」
「・・・嵌めやがったな」
「ええ、意味を教えていただけると嬉しいですが」
相当恥かしいんだが・・・負けっぱなしは性に合わない。どうせ祖父の許可は得ているんだ。負けは大きな勝ちで取り返してやるとしよう。
「解らずに言い返した事を後悔するなよ?」
「どういう意味・・・んむっ」
そっと抱き寄せて俺は彼女にキスした。そうしてもいいだけの魅力的な女性に。気障なセリフになったとしても仕方ない。なにしろあれほど月が綺麗だったのだから。
「月が綺麗ですね・・・意味は『好きです、愛しています』だ。返事はキッチリと受け取った。幸せにしてやるからその心構えもしておけよ」
「・・・はい」
俺はアレクシアを抱き締めたままそうささやいた。お月様も恥かしがって隠れるかもしれない事をその後も何度か言った気もするし、言わなかったような気もする。
覚悟はしていたが後日俺達の愛の語らいは全て陛下と皇太子殿下とその奥方達にバッチリ記憶されていた。盗み聞きは感心しないが恥かしいことを言ってしまった手前これも仕方ないだろう。結婚式とかで暴露されたりしないだろうな・・・と思ったら歌劇にされてしまった。そしてそのときに俺が不意に呟いた『月が綺麗ですね』は上流階級の人々が夜会でプロポーズする際に用いる決まり文句として広まっていく事となる。
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