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ドラゴンと独立宣言の章

王宮でのお話 その2

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「お前さんのお陰でワシの息子も政略結婚をせずに済んだのだ・・・あの頃から世話になりっぱなしじゃ」

陛下はそう言うと懐かしそうに目を細めた。この世界に来てもう三十年近く経つがホントに色んなことがあったな。開拓に出たところでゴブリンの強いのに出くわして十年も家を空ける事になったり、リットリオに出かけてみればマフィア連中と抗争して、最初の妻であるアウロラに出会った。
そこから彼女達ダークエルフを説得して俺の陣営に引き込み、エルフ達と和解させてマフィアを完全につぶした。それからはフィゼラー大森林を開拓しつつ商売に勤しんでいたら孤児院の子供達がドンドンと貴族達の隠し子だったり生き別れの親子だったりでリットリオで俺はやりたい放題やった気がする。

「そう気にしないでください、ひとえに陛下の人徳でしょう」
「ほっほっほ、そういわれると悪くないのう」
「さて、昔話はこれくらいにしときましょうか・・・」
「うむ、ではこれからちょいと真面目な話にしようかのう」

そう言うと王は玉座から立ち上がり、私室へと俺を案内してくれる。煌びやかな謁見の間と違い国王の私室は非常に質素である。これは国王の古くからの取り決めであり、私室の範囲だけは自由に改装する事が許可されているためで国王の人となりを垣間見る事の出来るもの。
近習の中でも国王に意見できる立場の者達は国王の私室を見て言葉を交わさずとも国王の内情を察し、諌める役割を持っている。

「相変わらずだが・・・落ち着くなぁ」
「ほっほっほ、お前さんがこっそり教えてくれた物を試したら存外落ち着いた風情になってのう」

俺が陛下に教えたもの、それは風流である。日本庭園や茶室のそれを知りうる限りで教えたところ老齢の陛下はそれをいたく気に入り、私室を日本式に改造した。

「開け放てば涼しく、閉じれば暖かい。なんとも不思議じゃ」
「ま、先人の教えですからね」

履物を脱いで足を投げ出してくつろぐ姿は祖父と孫といった感じだが実際はジジイ二人なのである。

「しかし砂利を敷いて波模様を表現するというのは中々に風情がある・・・自然の中に一体となるというか・・・」
「大きく、大きく物を見る目という奴ですかね、そう考えると自分が何処にいるのかはっきりわかる気がして好きなんですよ」
「天まで飛び立ちそうなお前さんが自分の居場所を気にするのか?」
「ええ、人間でもドラゴンになってもそこに大きな差はありませんよ。ただやりたい事をやって生きるだけ、そこに誰かの笑顔があれば・・・言う事はない」

波模様に敷き詰められた砂利を見つめてそう言うと陛下もそれを見つめて物憂げにため息をつく。

「ザンナルの跡地をくれてやるにはもう少し時間がかかりそうじゃ・・・それまでは国の直轄地とするがよいか?」
「いいですとも、圧政さえなければなんとでもなりましょうや」
「下手すると息子の代になりそうだが・・・お前さんなら安心だな」
「長生きするのだけは確定ですから、ただろの間ハゲタカ共の手綱を握っていて下さらないと困った事になります」
「欲の深いバカが多くて困る。お前さんのトコはもう私兵団なんて生易しいもんじゃないレベルの兵力を持っているだろう。だがそれが解らん連中も結構いるのだ」

実際万に届こうかと言う兵士達が俺の号令一つで何処へなりとも派遣されてくるのだ。警察隊を含めると二万近い軍勢を保有している。そしてその真骨頂はこの時代から隔絶した技術で作られた近代兵器である。

「そうなるとザンナル帝国打倒の凱旋パレードでもやりますか?」
「ふぅむ、示威行動も兼ねてか。確かに面白いかもしれんな・・・しかしそんな余裕があるのか?」
「パレードは初の試みですがルート決めて歩くだけですから準備期間さえあればそこまで難しくもないでしょう」

そんな話をしつつ出されたお茶なんかを飲んでいると・・・。

「お爺様!ヴォル兄が此処にいると・・・!」
「ブーッ!」
「めっ・・・目がぁ!・・・アレクシア!お客様の前だぞ!」

突然の乱入者に思わずお茶を陛下の顔に噴いてしまった。

「あ、ヴォル兄!会いたかったです!」

そう言うとアレクシアは陛下を押しのけて近寄ってくる。

「あっ、コラ祖父を突き飛ばすんじゃない!」
「そうじゃそうじゃそれだから嫁の貰い手が・・・ギャー!暴力はんたーい!」

爆走純情娘アレクシアの登場であった。普段の理性的な彼女とは裏腹にアレクシアは俺の前だとめちゃくちゃな事ばかりやる子だった。っていうか理性的な彼女って俺は見た事ないが・・・。
公的な場では余り見せないこの姿も俺に出会うまでは無かったらしいが・・・。

「ヴォル兄さん!貴方のお陰で強くはなれましたが代わりにお嫁さんになれそうもありません!責任取ってもらってください!」
「え、ちょ・・・!」
「うう・・・孫に暴力振るわれた・・・死にたい」
「陛下!ちょっと、戻ってきて陛下!陛下ー!」
「ウェディングドレスが欲しかったんです!着たかったんです!なので行きましょう!」
「ちょ・・・おま!た、たすけてくれー!」

首根っこ掴まれて引きずられていく。大の男を一人片手で引き摺っていくアレクシア。育て方間違えたかなぁ・・・。こんな事なら鍛錬の仕方なんか教えるんじゃなかった・・・。
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