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ドラゴンと独立宣言の章
王都へ行こう その3
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所変わってサマル王国首都 グリムヘイム。リットリオと講和条約を締結し、平和を謳歌する国家。
木工業が盛んなこの国では工芸品に木材を利用する事が多く、広大な地域のフィゼラー大森林の開拓によって木材の供給をまかなっている。
その頂点に君臨するサマル王は物語を愛するロマンチストであり、アダムスター家のパトロンでもある。
親父がサマル王の命を救ったことでお袋との結婚が許され、領地を継ぐ事となった。ヴォルターがおじいちゃん子になってからはイザコザもなくなり円満な関係になった。
俺達の祖父であったアダムスター卿も優秀な人物であったが娘大事の親バカの類でありヴォルターが産まれてからはさらにそれが加速した様子であった。しかしながらサマル王よりも老齢であった彼は俺が行方不明になった十年の間に逝去してしまい、俺は死に目に会う事は叶わなかった。
しかし幼い頃に出会ったかの御仁は日本の古き良き頑固親父のそれであり、不器用ながら俺達だけでなく親父に対しても深い愛情を感じてくれていた。死に際にも俺とヴォルターの為にお小遣いと称した土地の相続権を残しておいてくれたのだから流石である。
「陛下がお前を呼びつける理由はなんだ?また何かやらかしたのか?」
帰宅して開口一番がこれである。親父はそう言うとハンチング帽を帽子掛けに引っ掛けて部屋着を引っ掛けた。
「さぁな、お姫様が駄々を捏ねたんじゃないのか?っていうか分かってて聞いてるんじゃないの?」
お袋に連れて行かれる俺の妻達を見送りながら俺はそう言う。
「さてな、そろそろお前のやらかした事について考えるのはバカらしくなってきたからな。今度は世界制服でもするつもりか?」
「そう言う事は考えちゃ居ないが・・・今回だって正当防衛だしな」
「サマルとリットリオの経済を握っているのに覇道に興味がないなんて誰も信じないぞ」
あやうく噴出しそうになったのを堪える。
「経済?そんなつもりはなかったぞ、どういうことだ?」
「お前さんがゲイズバー商会に流した・・・紙だよ。あと木材もな」
「ああ、あれは確かに俺が流した」
「あの丈夫でインクの乗りやすい紙がサマルでは大人気だ、ゲイズバー商会がこっそりお前が作ったもんだと教えてくれてな。やりすぎるなと伝えてくれと怒られてしまったぞ」
親父が言うにはアランが俺の実家に直接ケチをつけにきたようだ。鉄と違い売り口は沢山あったらしく品薄状態だそうだが転売する輩が出て騎士団が対応しているとの事。
「紙が売れたらそんなにヤバイのか」
「ヤバイなんてもんじゃない。羊皮紙が値崩れ起こしとるぞ。手間が全然違うからな」
「羊皮紙と違って薄いから改ざんも出来ないけど木から出来てるから虫とか湿気とか気にしないとヤバイとおもうぞ」
「そんなもんは相手が気にすることだ。それよりこっちに注文がやって来てこまっとるんだ・・・お前が勝手にやったことなのに何故か皆ワシのところに来ててな」
「廃嫡までしてもらったのにまだそんな未練がましい奴がいるのか」
「公的には辞めたがお前の父親を辞めた覚えはないからなぁ・・・まあコネほしさに来とるんだろうよ」
「仕方ねえな、次からは商売の話がしたくなったらフィゼラーに行けと言っといてくれ。欲しけりゃ来るだろう」
「はっはっは!そりゃいい、そうさせてもらおう」
フィゼラーは軍隊付きでようやく足を踏み入れられるレベルだがまあ、欲しけりゃくるだろ。アウロラ達と一緒で何回も出たりはいったり生活したりしてるから感覚鈍ってるけど。
「ま、今日くらいは泊まってくだろう?ゆっくりしていけ」
「もちろんさ」
拳をぶつけて笑顔を見せると俺は久しぶりに自室へと向かうことにする。
「久しぶりだな・・・ただいまーっと、あれ?」
ドアを開けると貴族の令嬢に扮した三人がお袋に髪を結ってもらっていた。傍にはマリエルもおり嬉しそうにテルミットの髪を結い上げている。
「素敵だわ、こんな子が欲しかったのよね」
「そんな・・・私にこんな髪型が似合うでしょうか?」
「大丈夫!とっても素敵だわ!」
「うぅ・・・慣れない・・・」
「アウロラ様、このような服装はお坊ちゃんに嫁いだ時から多少は覚悟していただきませんと」
「お洋服って初めて来ました、これが流行なのですか!」
あんなご機嫌なお袋をかつて見たことがあっただろうか。マリエルもそうだ。まあ今までこういう事に付き合ってくれる女の子が居なかったんだろうが・・・マルレーンはメイド服とか素朴な服装しか着なかったしな・・・引っ掛けて破くし汚すから。
「お邪魔だったかな?」
「あら、ヴォル、お帰りなさい。この子達に十分な衣服を与えないなんて残酷よ、花の盛りなんだからもっとおめかししなくちゃ」
「(どうせ剥いちゃうから)正装や(脱がすのに)手間のかかるドレスは苦手なんだ。それに、綺麗になりすぎると悪い虫がよってくるだろ」
「うふふ、でも磨くことは忘れちゃいけないのよ。宝石だってほっとくとくすんでしまうのだから」
どうあっても彼女達に自分のお下がりを着せたいらしい。しかしサイズが合うのが凄いな。二人とも結構身長が高いのに。
「身長は多少合わせられるように作られてるのよ、しかしコルセット要らずなのは凄いわ」
コルセット前提のドレスにテルミットはちょっと苦しそうにしていたが他二人は平然としていた。テルミット、落ち込むんじゃない。他の二人が細いだけだから。
木工業が盛んなこの国では工芸品に木材を利用する事が多く、広大な地域のフィゼラー大森林の開拓によって木材の供給をまかなっている。
その頂点に君臨するサマル王は物語を愛するロマンチストであり、アダムスター家のパトロンでもある。
親父がサマル王の命を救ったことでお袋との結婚が許され、領地を継ぐ事となった。ヴォルターがおじいちゃん子になってからはイザコザもなくなり円満な関係になった。
俺達の祖父であったアダムスター卿も優秀な人物であったが娘大事の親バカの類でありヴォルターが産まれてからはさらにそれが加速した様子であった。しかしながらサマル王よりも老齢であった彼は俺が行方不明になった十年の間に逝去してしまい、俺は死に目に会う事は叶わなかった。
しかし幼い頃に出会ったかの御仁は日本の古き良き頑固親父のそれであり、不器用ながら俺達だけでなく親父に対しても深い愛情を感じてくれていた。死に際にも俺とヴォルターの為にお小遣いと称した土地の相続権を残しておいてくれたのだから流石である。
「陛下がお前を呼びつける理由はなんだ?また何かやらかしたのか?」
帰宅して開口一番がこれである。親父はそう言うとハンチング帽を帽子掛けに引っ掛けて部屋着を引っ掛けた。
「さぁな、お姫様が駄々を捏ねたんじゃないのか?っていうか分かってて聞いてるんじゃないの?」
お袋に連れて行かれる俺の妻達を見送りながら俺はそう言う。
「さてな、そろそろお前のやらかした事について考えるのはバカらしくなってきたからな。今度は世界制服でもするつもりか?」
「そう言う事は考えちゃ居ないが・・・今回だって正当防衛だしな」
「サマルとリットリオの経済を握っているのに覇道に興味がないなんて誰も信じないぞ」
あやうく噴出しそうになったのを堪える。
「経済?そんなつもりはなかったぞ、どういうことだ?」
「お前さんがゲイズバー商会に流した・・・紙だよ。あと木材もな」
「ああ、あれは確かに俺が流した」
「あの丈夫でインクの乗りやすい紙がサマルでは大人気だ、ゲイズバー商会がこっそりお前が作ったもんだと教えてくれてな。やりすぎるなと伝えてくれと怒られてしまったぞ」
親父が言うにはアランが俺の実家に直接ケチをつけにきたようだ。鉄と違い売り口は沢山あったらしく品薄状態だそうだが転売する輩が出て騎士団が対応しているとの事。
「紙が売れたらそんなにヤバイのか」
「ヤバイなんてもんじゃない。羊皮紙が値崩れ起こしとるぞ。手間が全然違うからな」
「羊皮紙と違って薄いから改ざんも出来ないけど木から出来てるから虫とか湿気とか気にしないとヤバイとおもうぞ」
「そんなもんは相手が気にすることだ。それよりこっちに注文がやって来てこまっとるんだ・・・お前が勝手にやったことなのに何故か皆ワシのところに来ててな」
「廃嫡までしてもらったのにまだそんな未練がましい奴がいるのか」
「公的には辞めたがお前の父親を辞めた覚えはないからなぁ・・・まあコネほしさに来とるんだろうよ」
「仕方ねえな、次からは商売の話がしたくなったらフィゼラーに行けと言っといてくれ。欲しけりゃ来るだろう」
「はっはっは!そりゃいい、そうさせてもらおう」
フィゼラーは軍隊付きでようやく足を踏み入れられるレベルだがまあ、欲しけりゃくるだろ。アウロラ達と一緒で何回も出たりはいったり生活したりしてるから感覚鈍ってるけど。
「ま、今日くらいは泊まってくだろう?ゆっくりしていけ」
「もちろんさ」
拳をぶつけて笑顔を見せると俺は久しぶりに自室へと向かうことにする。
「久しぶりだな・・・ただいまーっと、あれ?」
ドアを開けると貴族の令嬢に扮した三人がお袋に髪を結ってもらっていた。傍にはマリエルもおり嬉しそうにテルミットの髪を結い上げている。
「素敵だわ、こんな子が欲しかったのよね」
「そんな・・・私にこんな髪型が似合うでしょうか?」
「大丈夫!とっても素敵だわ!」
「うぅ・・・慣れない・・・」
「アウロラ様、このような服装はお坊ちゃんに嫁いだ時から多少は覚悟していただきませんと」
「お洋服って初めて来ました、これが流行なのですか!」
あんなご機嫌なお袋をかつて見たことがあっただろうか。マリエルもそうだ。まあ今までこういう事に付き合ってくれる女の子が居なかったんだろうが・・・マルレーンはメイド服とか素朴な服装しか着なかったしな・・・引っ掛けて破くし汚すから。
「お邪魔だったかな?」
「あら、ヴォル、お帰りなさい。この子達に十分な衣服を与えないなんて残酷よ、花の盛りなんだからもっとおめかししなくちゃ」
「(どうせ剥いちゃうから)正装や(脱がすのに)手間のかかるドレスは苦手なんだ。それに、綺麗になりすぎると悪い虫がよってくるだろ」
「うふふ、でも磨くことは忘れちゃいけないのよ。宝石だってほっとくとくすんでしまうのだから」
どうあっても彼女達に自分のお下がりを着せたいらしい。しかしサイズが合うのが凄いな。二人とも結構身長が高いのに。
「身長は多少合わせられるように作られてるのよ、しかしコルセット要らずなのは凄いわ」
コルセット前提のドレスにテルミットはちょっと苦しそうにしていたが他二人は平然としていた。テルミット、落ち込むんじゃない。他の二人が細いだけだから。
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