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ドラゴンと動力機関の章

オットー達の事情 その3

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最終的には本人の意思を尊重するという事で合意し、オットーは引き取り交渉をする為に期日を過ぎても首都に残り孤児院に何度も足を運んでいた。しかし孤児院を管理していたヒューイは子供達の懐きぶりと貴族への不信感から首をなかなか縦に振らず。事情をなかなか話さないオットー自身にも不信感を抱き、遂にはヴォルカンが不在を理由に断りを入れる始末であった。

「なるほどね、たしかにそれじゃあ養子を取りたいのもあの子を引き取りたいのも分かるわ。でもどうして言ってくれなかったのよ?」
「それは申し訳ないですが・・・足元を見られるわけにはいかず・・・」

事情を聞いたヒューイはあきれたようにため息をついたが対するオットーもそれには同意しつつも此方を信頼し切れて居なかったため心の内を明かせずにいたのだ。

「それこそ杞憂よ、私達が心配するのは全て子供達の将来だけよ」

ヒューイがそう言うので俺も頷いておく。たしかにその通りである。

「そもそもここにいる孤児院設立の発起人でありお馬鹿さんは子供の為だけにマフィアに喧嘩売って壊滅させる超ド級の変人よ?足元見る知能なんか無いわ」
「なんと・・・彼が噂の・・・申し訳ない、どうやら自分も長らく悪党と関わり過ぎたようです。まさか人を信じるのがここまで難しくなっているとは・・・」

信じてくれて嬉しいが何故そこまでくそみそに言われなきゃならんのか甚だ疑問だ。しかもそれで信じられるという事はヒューイの言葉に近しい認識で近辺の住人に見られているという事か?
はっはっは!なんてこったい・・・。

「とりあえず引き合わせてみようか・・・彼女の意思を聞いてみない事には始まらん」

オットーが妻から聞いた話によると少女の名前はサラ。ちょうど孤児院にはサラという名前の少女がいた。淡い緑色の髪を持つ少女でどことなく育ちのよさを感じると思っていたがまさか貴族の令嬢の忘れ形見だったとはな。とはいえリットリオに限らず貴族が平民や使用人に手をつけて生ませた子供というのもありがちな話だ。我が子を捨てるワケにも行かず、とはいえ家に置くこともできずこっそりと近場の村落で育てさせることも無いわけでもないし、もしかすると貴族の落とし胤が何人かいるのだろうか。オットーの御家では珍しく父親自身が育てようとしていたようだが何しろ妾腹となれば居心地も悪かっただろう。しかもその後直系の血筋の子が産まれたとなればなおさらだ。それにも関わらず姉妹の仲が良かったのは一重に彼女達の絆の強さなんだろう。

「サラ!サラはどこにいるんだ?」

客間を出て広い庭に向かって叫んでみると淡い緑色の髪が目に入った。

「はーい、ここにいるよー」

おっとりした風の見た目の彼女は孤児院でも友達の多い人気の女の子。最近は料理の腕前も上がりヒューイを積極的にお手伝いしているいい子だ。ただどことなく抜け目の無い女の子で風の魔法を使えるのか時折エルフの女性にあれこれと話をしていると聞いている。

「会わせたい人がいるが・・・今ヒマか?」
「ブラブラするのに忙しいけどー?」
「そうかヒマか」
「きゃー、横暴だー」

抱えて連れて行くと口ではそう言いつつも彼女が抵抗した事はない。一種のコミュニケーションというかお約束と言うか、まあそんな感じのものだ。

「叔父さんに会うのかー・・・」
「嫌なのか?」
「んーん、でも、ちょっと複雑・・・」

彼女は孤児だ。それは言うまでも無く両親を失ったからだ。マフィア達の手によって両親は彼女を守る為に命を散らせてしまった。

「叔母さんは私の母さんの妹さんなんだね・・・」
「そうなるな」
「会うことは嫌じゃないんだ、でも、私どんな顔して会えばいいかわかんないんだ・・・私のせいで・・・お母さん達は逃げ切れずに死んじゃった。私も逃げ切れずに捕まったんだ」
「悪事を働いたヤツのしでかした事にお前が責任を感じる必要は無い。お前が誰の元で過ごそうとそれだけは分かり切ったことだ」
「頭ではそうなんだけど・・・こんなときおじさんはどうするの?」
「泣く」

俺の一言でサラは驚いた様子で此方を見る。

「え?泣くの?」
「ああ、叔母さんの胸を借りてな、思いっきり、声と涙が枯れるまで泣くさ。誰かと死に別れるのは辛いことなんだからな」
「そうなの・・・?おじさんでも泣くの?」
「ああ、泣いて泣いて、泣きまくって大人になった。小さな頃は励ましてくれる人も多かったからな・・・だから俺は大人になれた」
「そっか・・・そうなんだ・・・」

震える声でそう言う。溜め込んだ悲しみが今彼女の中で溢れそうになっている。
忘れようとしていた悲しみが肉親に出会ったことで再び溢れそうになっているんだ・

「我慢してたのか・・・?ガキの癖に泣かないでどうする。泣け、思いっきり泣け。子供は泣くのが仕事だ、泣いて大人になれ。その分だけお前は優しくなれるから」
「う・・・うぅ・・・うわぁぁぁん!お、お父さんも・・・お母さんもしんじゃったよぉぉぉ・・・なんにも悪い事してなかったのに・・・あ、あああああっ!うあああああ!!」

サラは俺に抱きつくと今までの悲しみを取り戻すように泣いた。いくら大きくなっても子供は子供だ。
親が恋しい年頃だ。

「うぅ・・・さびしかった・・・、暗くて、怖かったよぉぉ・・・」
「ああ、分かってる」
「おじさんがいなかったら・・・どうなってたかかんがえたら・・・眠れなくて・・・」
「わかってるさ、だがそんなヤツももう居ない。おじさんが全部やっつけたからな」

泣き止むまで俺は彼女を抱き寄せて頭をなでてやる事しかできない。だがこれで彼女が元気になってくれるならいくらでもやろう。何時間だって。
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