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獣人と建国の章
獣人達のあれこれ
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食料品の輸入も一段落した頃、鉄の納入を始めたいとゲイズバー商会から連絡を受け俺はそれを了承した。
「それでは今回の鉄の納入はコレだけです、一週間後を目処に様子を窺いに来ますのでよろしくお願いしますね」
そう言うと彼らは一杯の鉄を積んだ馬車二台をゴンゾの鍛冶場に横付けすると専門の挽獣らしい巨大な亀に鞍を載せてゆっくりと帰っていった。
「ほお、こりゃ上質な鉄だ」
「そうなのか?」
「ああ、これならかなり質の良い鋼に加工できるぞ」
鍛冶場に少量を運び込んでゴンゾに検品してもらうと鉄自体の品質もよろしいもののようで太鼓判を押してもらえた。ゲイズバー商会は相変わらず良い仕事をしてくれているようだ。
俺達はコボルトの弟子と集落の新入りのバラム達鍛冶工房の人間達と鉄を工房に少しずつ運び込んでいく。作業自体は単純だが馬車二台分ともなると大変な作業でバラムが最初にリタイアしコボルト達も運び終える頃には疲れ切った様子で火が入っておらず冷え切った工房の石窯にへばりついている。
「それで・・・これをどうやって魔導金属にするんだ?」
「まあ見てなよ」
鍛冶場に無理やり作らせた炉の中に鉄をありったけ詰めると俺がそれに俺が炎を吹き込む。すると溶けた鉄がワインの樽のように設けた出口から液化した魔導金属が溶け出して来るのだ。
そしてそれを傍から見ていたゴンゾは多少驚いていたものの鍛冶師としての立場からか延べ板にするために平たい鋳型で溶け出た鉄を受け、一杯になったら二個目、三個目と魔導金属の延べ板を作っていく。
そしてさらにそれをバラムと弟子のコボルト達がある程度固まると型から外してレンガで組んだ冷まし用のスペースに収めていく。
「笑いがとまんねえ!コレが全部魔導金属かよ!」
ゴンゾは積みあがった魔導鉄(魔導金属化した鉄)を見て上機嫌だ。無理も無い、魔導金属は流通している量が少なくかつ値段も高いためどこぞの王国のお抱えの鍛冶師でもない限りおいそれとこの金属にお目にかかれないのだとか。しかし魔導金属を使うだけで作品の質がワンランク上がるというのは彼らの中で常識らしく、鍛冶師は魔導金属が絡めば必ず乗ってくるというほどだ。
「大半は売りに出しちまうが・・・三分の一くらいはそっちに回してもかまわんだろう」
「マジか!その言葉を忘れねえでくれよ!」
赤く灼熱している鉄に抱きつかんばかりに喜ぶ彼は熱が引き、再び彼の手で精錬されるであろう魔導鉄を前に頬を緩ませ切っている。まるで菓子が焼けるのをオーブンの前で待つ子供だ。
「しかしまさかこれほどの上質な魔導金属が作れるとはな・・・アンタは火を吹く神獣か?」
「んーと、まあ・・・、そんなもんさ」
「?・・・まあいいさ、俺は鍛冶師だからな、いい素材を用意してくれたらそれを良い武具や道具に作り変えるだけだ」
図星を突かれてちょいと歯切れが悪くなったがゴンゾはそれほど気にした様子もなくゴンゾは金属に夢中になっている。バレても構わないがこういう時変に隠してしまうのはどうしたわけだろう。
さて、こうしてゴンゾ達と一仕事終えた俺達は午後からのひと時を思い思いに過ごそうとしていた矢先に思わぬ来訪者が現れた。
「大変です!王様!」
開拓の途上で造った修練場でゴンゾ力作の黒刀を振っているとダークエルフの歩哨が慌てて駆けて来た。
「どうした?」
手ぬぐいで汗を拭きながら答えると彼女は息を少し整えて事の始まりを教えてくれた。
それは俺達が魔導金属の精錬を終えてひと段落着いたころ、来訪者の対応に彼女達は追われていた。
コボルト達と敵対関係にあり、コボルトを住みかから追い出した犯人である獣人達の来訪である。その獣人の中でもプライドが高く、それに見合った実力を持つ狼人族と彼らを出し抜いて勢力を拡大したい狐人族の面々である。
彼らはフィゼラー大森林の北端、サマルやリットリオの反対側に位置する獣人達の集落で互いに覇権を争っているのだそうだ。今までは戦火も小さく小競り合いと言って差し支えなかったが、コボルトの住処を巻き込むほどに激化し、戦火は拡大の一途をたどっている。
狼人族は高い身体能力と風の魔法に対する高い適性が特徴で誇り高く、仲間意識が強い。
そして狐人族は狼人族とは対照的に魔法全般に高い適性を持ち、魔法とは異なるオリジナルである妖術を操る。妖術は陰陽師などを彷彿とさせる呪術の類であり、結界や変化、式神などの特殊な呪術を操る強かな性格で策謀を得意とする。
その両方の種族が現在戦火と覇権争いから逃げ出しフリーになったコボルト達を戦いに取られ減少している労働力の頭数として身内に引き込もうとしているのである。
そして他種族の中で中立であるダークエルフが保護していると見るや彼らはコボルトの身柄の引渡しを要求してきたのである。敵対者を増やしたくない双方は今のところ強硬手段には出ていないがいざとなればどのような手段にでるか解らず、彼女達は長である俺に判断を仰ぐことにしたのだと言う。
「それで、彼らは今どこに?」
「代表者を広場に待たせています、どうぞこちらへ」
集落を構えて日は浅いが初めての外交である。さて、相手はどう出てくるだろうか。
「それでは今回の鉄の納入はコレだけです、一週間後を目処に様子を窺いに来ますのでよろしくお願いしますね」
そう言うと彼らは一杯の鉄を積んだ馬車二台をゴンゾの鍛冶場に横付けすると専門の挽獣らしい巨大な亀に鞍を載せてゆっくりと帰っていった。
「ほお、こりゃ上質な鉄だ」
「そうなのか?」
「ああ、これならかなり質の良い鋼に加工できるぞ」
鍛冶場に少量を運び込んでゴンゾに検品してもらうと鉄自体の品質もよろしいもののようで太鼓判を押してもらえた。ゲイズバー商会は相変わらず良い仕事をしてくれているようだ。
俺達はコボルトの弟子と集落の新入りのバラム達鍛冶工房の人間達と鉄を工房に少しずつ運び込んでいく。作業自体は単純だが馬車二台分ともなると大変な作業でバラムが最初にリタイアしコボルト達も運び終える頃には疲れ切った様子で火が入っておらず冷え切った工房の石窯にへばりついている。
「それで・・・これをどうやって魔導金属にするんだ?」
「まあ見てなよ」
鍛冶場に無理やり作らせた炉の中に鉄をありったけ詰めると俺がそれに俺が炎を吹き込む。すると溶けた鉄がワインの樽のように設けた出口から液化した魔導金属が溶け出して来るのだ。
そしてそれを傍から見ていたゴンゾは多少驚いていたものの鍛冶師としての立場からか延べ板にするために平たい鋳型で溶け出た鉄を受け、一杯になったら二個目、三個目と魔導金属の延べ板を作っていく。
そしてさらにそれをバラムと弟子のコボルト達がある程度固まると型から外してレンガで組んだ冷まし用のスペースに収めていく。
「笑いがとまんねえ!コレが全部魔導金属かよ!」
ゴンゾは積みあがった魔導鉄(魔導金属化した鉄)を見て上機嫌だ。無理も無い、魔導金属は流通している量が少なくかつ値段も高いためどこぞの王国のお抱えの鍛冶師でもない限りおいそれとこの金属にお目にかかれないのだとか。しかし魔導金属を使うだけで作品の質がワンランク上がるというのは彼らの中で常識らしく、鍛冶師は魔導金属が絡めば必ず乗ってくるというほどだ。
「大半は売りに出しちまうが・・・三分の一くらいはそっちに回してもかまわんだろう」
「マジか!その言葉を忘れねえでくれよ!」
赤く灼熱している鉄に抱きつかんばかりに喜ぶ彼は熱が引き、再び彼の手で精錬されるであろう魔導鉄を前に頬を緩ませ切っている。まるで菓子が焼けるのをオーブンの前で待つ子供だ。
「しかしまさかこれほどの上質な魔導金属が作れるとはな・・・アンタは火を吹く神獣か?」
「んーと、まあ・・・、そんなもんさ」
「?・・・まあいいさ、俺は鍛冶師だからな、いい素材を用意してくれたらそれを良い武具や道具に作り変えるだけだ」
図星を突かれてちょいと歯切れが悪くなったがゴンゾはそれほど気にした様子もなくゴンゾは金属に夢中になっている。バレても構わないがこういう時変に隠してしまうのはどうしたわけだろう。
さて、こうしてゴンゾ達と一仕事終えた俺達は午後からのひと時を思い思いに過ごそうとしていた矢先に思わぬ来訪者が現れた。
「大変です!王様!」
開拓の途上で造った修練場でゴンゾ力作の黒刀を振っているとダークエルフの歩哨が慌てて駆けて来た。
「どうした?」
手ぬぐいで汗を拭きながら答えると彼女は息を少し整えて事の始まりを教えてくれた。
それは俺達が魔導金属の精錬を終えてひと段落着いたころ、来訪者の対応に彼女達は追われていた。
コボルト達と敵対関係にあり、コボルトを住みかから追い出した犯人である獣人達の来訪である。その獣人の中でもプライドが高く、それに見合った実力を持つ狼人族と彼らを出し抜いて勢力を拡大したい狐人族の面々である。
彼らはフィゼラー大森林の北端、サマルやリットリオの反対側に位置する獣人達の集落で互いに覇権を争っているのだそうだ。今までは戦火も小さく小競り合いと言って差し支えなかったが、コボルトの住処を巻き込むほどに激化し、戦火は拡大の一途をたどっている。
狼人族は高い身体能力と風の魔法に対する高い適性が特徴で誇り高く、仲間意識が強い。
そして狐人族は狼人族とは対照的に魔法全般に高い適性を持ち、魔法とは異なるオリジナルである妖術を操る。妖術は陰陽師などを彷彿とさせる呪術の類であり、結界や変化、式神などの特殊な呪術を操る強かな性格で策謀を得意とする。
その両方の種族が現在戦火と覇権争いから逃げ出しフリーになったコボルト達を戦いに取られ減少している労働力の頭数として身内に引き込もうとしているのである。
そして他種族の中で中立であるダークエルフが保護していると見るや彼らはコボルトの身柄の引渡しを要求してきたのである。敵対者を増やしたくない双方は今のところ強硬手段には出ていないがいざとなればどのような手段にでるか解らず、彼女達は長である俺に判断を仰ぐことにしたのだと言う。
「それで、彼らは今どこに?」
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