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ガルデンヘイム王国王都で

お茶会の準備

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ロンベル家主催のお茶会。それはガルデンヘイム王国で催される催しの中で格式高い行事の一つであった。理由としてはロンベル家がガルデンヘイムの歴史に古くから存在する名家であること。
そして近衛騎士隊の創設メンバーの一人、フリーデン・フォン・ロンベル公爵の生家であるからだ。生前彼はガルデンヘイム初代国王と茶飲み友達でもあり、それを旧友達と交流を広める内に巨大な催し物になったという。それ故に彼の生家でもある邸宅で行われるお茶会は実質お茶会という規模を超えた立食パーティのようなものに変貌していった。
最初こそ交遊を深めるだけの催しであったがロンベル家の隆盛と共にその意味合いも変質し、貴族達のお披露目やコネの構築目的のパーティにその意味合いを変えていた。

「なんというか・・・初代のロンベル公爵が見たら泣いちゃうんじゃない?」

本来であれば王家とも縁深いはずのロンベル公爵家も今となっては自分の始祖が創設に携わった近衛騎士隊にすら在籍できず、貴族として大成したもののその分だけ俗っぽくなり王家とは利益を取り合う商売敵のような様相に成り果てている。

「そうですね・・・」

ロンベル家の開くお茶会について調べていた私は同じく今回のお茶会に出席する旨を綴った手紙の作成に勤しむお坊ちゃんに言う。そんな私の言葉にお坊ちゃんは羽ペンを置くとため息をつきつつそう呟いた。

「無念、家を残す前に人を残すべきであった・・・ってか」
「なんですか、それ?」
「ん?滅びた古いお家のお話だよん」

どっかの漫画で齧ったことだけど。でも実際はそうなんだろうね。身分を取り払い、実力と育成で構成員を鍛え続けた近衛騎士隊は平民出身が殆どでも実力は国内でもトップクラス、忠義に篤いものばかりなのに対し身分を重要視したクロンスタット騎士団は身分に囚われてプライドが先走ったお馬鹿さんが多い。財力で保った勢力が非常時にどれだけの力を発揮するのか興味が尽きないがいかんせんそれを振るう人間があれではなぁ。先が見えていると言うかなんというか。

「プライドは肥大化し、精神を腐らせる。私もそうならないようにしないと」

師匠に鍛えられ、人間のレベルを超えた私には知らない内に高いプライドが備わっている。
恐らく、きっとだが私は師匠を侮辱する者を許さないだろう。お坊ちゃんやお父さん、それに付き合いはまだ浅いがルーンちゃんを傷つける者も同様だ。

「最悪国の一つくらい・・・」
「あの、凄い物騒な事言ってますけど大丈夫ですか」
「うん」
「大丈夫かな・・・」

とりあえずこのお茶会を成功させてお坊ちゃんを名実共にこの国の皇太子にしてあげなければ。
この国にすべての神殿があるとは限らない以上何時かはこの国を出るときもくるだろう。そんな時に未練を残すような事はしたくない。そうじゃないと私がこの国を笑顔で去れないじゃない。

「さてと、返事の手紙が書けました。それではボク達の準備を始めましょう」
「準備・・・?」
「ええ、大切な準備です」

手紙を封筒に入れ、蝋で封印を施しながらお坊ちゃんはそういった。首を傾げつつも部屋を出て行く彼についていく事にした。

「おおう、そう言う事か」

連れてこられた部屋にはメイドさんたちが多人数で控えており、彼女達はそれぞれが手に手にドレスを持って立っていた。そして壁かと見間違うほどの高く大きいクローゼットや姿見などがあり、その中にもドレスなどが入っていた。

「騎乗服でパーティに行くのはダメですからね、ちゃんとどれかから選んでください」

お坊ちゃんはそう言うと私を部屋に残して隣の部屋へと入っていった。ちょっとまって、置いてかないで。

「では、スカサハ様。お召し物を」
「この服じゃダメなの・・・?」
「先ほど殿下もおっしゃったではありませんか」

メイドさんの一人がそう言うとじりじりと私を囲む輪が小さくなり、やがて着せ替えが始まった。

「派手じゃないかな」
「ではこちらのドレスはどうでしょうか、装飾も最低限で派手さはありませんが洗練されておりますよ」
「うーん・・・」

コルセットを巻かなくていいのが不幸中の幸いだけどどれも派手だ。まあ、これらのドレスがかつて王族の誰かが着た物か、もしくは買い求めたものだろうから仕方ないのかもしれないけどさ。
思ったより着せ替えをするのは疲れるんだよ。っていうかそんなにドレスに興味ないし。

「あ、このドレスいいかも」
「これですか、赤がお好きなんですね」
「うーん、まあそうだね」

ちょっと胸元と背中が開いているけどこれくらいなら龍人形態に変身する事もできるくらい余裕がある。それに生地が頑丈に作られており派手に動いても破れたりはしなさそうだ。
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