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プロローグ:ある博士の回想録

神様のいたずら

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「ふざけないで・・・いい加減に」
『真面目だと言ったら困るだろう、その言い方だと』

そう言うとからかうように目を細める神様。実際、力づくだと勝てる気がしないんだけど・・・。

「・・・」
『え・・・?』

気が付いたら目の前が歪んで、それで・・・私、泣いてる?どうして・・・?

「うえぇ・・・」
『え、ちょ・・・そこまで・・・?!』

意識しだすと涙が止まらない。やがて滝のように流れる涙に声色でも神様が戸惑っているのがわかる。

『あわわ・・・ご、ごめんなさい!そんなに傷つくなんて・・・』
「うわぁぁ・・・せ、せんせぇ・・・せんせぇぇぇー」
『ま、魔術師を今呼ぶと大変不味い!とりあえず泣き止んでくれないと・・・!』

あわあわと神様は先ほどの余裕は何処へやら。慌てて私を泣き止ませにかかる。

『ごめんなさい、我が悪かった。だからほら、泣き止んで・・・ね?』
「うぅぅぅー・・・」

私を抱き寄せると神様は子供に語り掛けるように優しく言う。悔しいが神様には何か先生のような、言うなれば母親やその類のような包容力がある気がする。

『先ほどはああいったが我は今、妻の体を借りて顕現している。其方が恐れるような事は決してないから安心しなさい』
「妻・・・?」

包容力の理由が分かった気がする。なるほど、意識はともかく体そのものは神様の奥方のものらしい。そして奥方は複数の子を持つ母親でもあるという。

「子供もいるんだ・・・」
『うむ、皆私の自慢の子達だ』

そう言いながら神様は私の頭を撫でる。かつて自らの子にそうしたのだろうか、その手は優しく温かい。
身長差的には私の方が高いのだが・・・何というか新鮮だ。私は何時でも一人だった。先生にそうしてもらう事はあったが先生は男性で、恩人で大好きだけど・・・なんでだろう。性別の差か、それとも親となった経験の差か。

『孤児・・・であった其方に聞くのは酷だが、両親を覚えているか?』

神様に抱きしめられたまま私はもう遥か彼方にやってしまった記憶を手繰る。そう言えば・・・、私が気が付いた時には既に事切れた両親の姿しか知らなかった。

「一緒に過ごした記憶はないんですが、死んだ姿だけは覚えてて・・・」
『聞いておいてすまないが・・・それは覚えているとは言わん』
「ですよね・・・」

人は生きていてこそ、そしてその瞬間に交わした言葉であったり思いであったり・・・そういった物がない私にとってあの二人は『恐らく』自分の両親だというふんわりとした感覚しかない。そしてそんな二人ももはや顔すら朧気だ。

『我はかつて最愛の妻を亡くした・・・今はその生まれ変わりの女性を妻としているのだが』
「すごい純愛ですね」
『うむ!』

なんとなしに思ったことを言うとすごく食いつかれた。とりあえず神様は奥さんが大好きだという事はわかった。

『妻を失った時、我は錯乱し妻の亡骸を抱えてあてもなく彷徨った。そして目に付く都市を破壊して回り・・・やがてその妻の亡骸を失ってようやく意識を取り戻したほどだ』

自暴自棄になったり、錯乱して暴れるとなると他の人を困らせるものだろうが神様レベルともなると迷惑のスケールが違うね。なんなの都市って。

『愛は人を変える、良くも・・・そして悪くも。あの時の其方の涙は恐らくはあの魔術師に向けられたものも多分に含まれているだろう?今は分からずともな』
「・・・」

好意には違いない。その大小と種類は分からないけれども。しかしそれが必ずしも良くなるとは限らないわけで。

『予言しよう、そしてそうならぬように精一杯生きよ』


其方の愛が、優しさが尽きる時。其方は世界の終わりを望む、森羅万象の終焉を望み我の権能を振るうだろう。


「私が・・・?」
『そうだ、今は魔術師のお陰で薄れているが・・・我には見えるぞ、其方の内側に渦巻く深淵のような黒い欲望がな』
「世界の終わりを・・・望む」

かつて全てを失い、得る事を知らぬまま失い続ける日々を呪いながら生きていたあの日々を思い出す。他者を傷つけることを躊躇わず、自身が傷つく事を躊躇わず。全てを妬み、羨み、そして憎む日々。

『もしも魔術師と共にありたいのならばその欲望に気をつけるのだ、魔術師は創造者、そして其方は破壊者。それはこの世界における表と裏ともいうべき立場の二人・・・惹かれるべくして其方は魔術師に惹かれた。しかし、其方はいずれそのバランスを崩すだろう』

ごくりと唾を飲み込む。いつの間にか私を抱きしめる神様の顔は優しげな雰囲気ではなく、先ほどと同じような威厳溢れる神の顔を見せていた。

『だがここで我と出会ったのは僥倖であった、我らが其方を支える。其方は自らを壊してしまわぬように努めるのだ』

最後に見せたのは先ほどの優しげな顔。私は・・・一体どうしたら・・・。
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