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異世界は愉しい

禁忌・化生転生 その2

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やめてくれ、と言う間もない出来事だった。目の前に転がった首・・・そしてそれを目の当たりにした彼女の表情は確かめるまでもないだろう。肉親の変わり果てた姿を目撃した家族の表情はたいていは果てしなく深い悲しみか・・・それとも。

「あ・・・ああああああああ!!」

悪鬼羅刹、仁王様もかくやという憤怒の表情、恨みを籠めた憎悪を漲らせるかのどちらかしかない。それが深い愛情であればあるほど。それは強く、深くなる。

「こ、殺す!八つ裂きにしてやる!」

私の手を振り払って彼女は駆け出そうとしたがケガが思った以上にひどいのかすぐに膝をつき、歩くというより這いずるような仕草でただただ目の前の豚人間を睨みつけていた。まるで幽鬼かなにかだ。
それが、しかしそれが・・・

「あは、なんだか・・・滾るわあ」

豚人間に夢中で気が付かない事を良いことに笑みを浮かべながら私は目の前の豚人間を鬼一口で飲み込む。

「あ・・・がああ・・・こ、殺す・・・」

豚人間が居なくなった後もケガに呻きながら呪詛を漏らす彼女に私はそっと近づいて耳打ちした。

「敵討ち・・・したい?」
「したい・・・せずにはいられない!私は・・・私は・・・!」
「どんな代価を払っても?」
「い、命に代えても・・・例え死んでも!」
「あは・・・なら、契約する?」

面白いように望んだ答えが返ってくる。それだけ彼女の思いは強く、憎悪は強い。私は二人の首を拾い上げるとそれを彼女の眼前に突き付けて言葉を続ける。

「なら、まずこの二人を貴女の中に入れてあげなきゃいけないわ」
「中に・・・いれる?」
「貴女一人では仇討なんて夢のまた夢、けれど二人の力があれば・・・」
「可能なのか・・・しかしそれは・・・」

彼女の言葉を遮ると私は二人の首を杯に溶かし、彼女に差し出した。その有様にぎょっとした様子だったが・・・。

「さ、無念を晴らすの。部下もたくさん死んでいるんだよ?」
「・・・うぐぅぅぅぅ」

あえて部下の女性騎士達には見えないように隠しておいた首をさらし、彼女にお披露目する。そうなればもう後は簡単。憎しみの炎は業火となり、魂すら変質させる。そうする事で私達と近しくなる。
そして、彼女はそのまま、杯を手に取ると一気に中身を呷った。

「うぅぅ・・・アンリ・・・クリフ・・・私が・・・私が今から仇を討つからな」

涙を流しながら彼女はそう呟くとゆっくりと立ち上がる。慈悲に満ちた表情、そして穏やかな言葉とは裏腹にその目は既に人の其れを辞め、私達のそれとなる。憤怒に身を焦がし、怨敵を殺戮する一人の鬼の出来上がりである。

「準備万端、それでは始めましょう」

そう言うと私は彼女を自身の体内へとご案内する。化生転生、その内容とは飲み込んだ人を同じく飲み込んだモノと技術や力といった能力値・経験を混ぜ込んで足し算する禁術。人物の情報が書き換えられてしまい、元の人間とは性別以外別物になり、足し算できる能力値もある条件を達成できなければ失敗してしまうのがちょっとした難点だろうか。




私の名前はシュバリエ・メルキオット。メルキオット家の長女として生まれ、女だてらに剣を取り男に交じって剣を振りながら育った。祖父の代から続く我が家は誇り高き騎士の家系。今は騎士隊の隊長などと過分な栄誉を預かる身でもある。剣と馬上槍を手に時に人間と、時に魔物とを相手に立ちまわってきた。武芸百般とはいかないまでも私は天から授かった才能を磨き、父や弟と共に祖国に尽くし、一族の誇りとして生きて来た。
特に、弟は良く私に懐き、無骨で、不愛想な私をよく慕って後ろをついて来た。騎士としても将来を嘱望され、つい最近ではあったがようやく騎士団に所属できるだけの実力と功績を上げて自らの力で私の後ろに続くようになった。

「姉上、貴女に会いたいという人が・・・」

もう一人、命を懸けても惜しくない人物に出会った。最愛の弟の紹介で出会った。クリフ・ステンフィールド。
貴族としては下級ながら我が一族と同じく武功と忠義に寄って我が国に置いてその家名と響かせる御仁だった。
そして、優しく、弟と同じく私の後ろについて私のかけているモノを補ってくれた。

そんな二人は、あまりにも惨い方法で奪われた。首だけになった彼らを見た瞬間に、私の全てが・・・灰色に色褪せたかのような・・・深い絶望と、それをもたらしたすべてが憎くて仕方なかった。

だから、私は、全てを目の前の少女に委ねてしまった。

今となっては、彼女が何者であったのやら。少なくとも、聖なるものではなかったのだろう。
だが、私に彼女がもたらしたものは、福音であった。

「それじゃ、復讐の、宴と参りましょうや」

ああ、うん。そうしよう、はははははは。
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