51 / 76
罠
3
しおりを挟む震えるピノを目の前に、彼は落ち着いた様子で優雅に語った。
「きみに特別に教えてあげよう。何故きみがあの青年の手に渡ったかを……」
オーランドが瞳を光らせて怪しく微笑むと、ピノはゾッと寒気を感じた。
「さっきも言ったとおり、きみは私の愛玩ドールになる予定だった。しかし、それには本当か偽り物かを私は見極める必要があった。そこでアーバンは私に話を持ちかけた。彼に人形を試すことを……。さきに愛玩ドールをみつけたのはアーバンだった。それをアーバンは私に買い譲ったのだ。もし本物だったら愛玩ドールは姿を変える。しかし、偽りだったら期待をした時の絶望感は計り知れない。それに私は愛玩ドールを見つけて行く中で、幾度なく期待をして裏切られ続けた。だから初めから期待を持たない事にした。そこで私は彼を利用して、愛玩ドールかを確かめて見たんだ」
ピノはオーランドが聞かされた事実に震撼すると、全身が震え上がり恐怖を感じたのだった。
「アーバンは彼にきみを託した。そして、きみは彼の手でこの世に生きた人形として生まれたのだ。私はその話を彼から聞いて確信した。きみこそが私が長年探し求めていた愛玩ドールだということを……! だから彼には悪いがきみを返してもらう。きみのマスターは彼ではなく私だ! 彼は一時の夢を見ていたんだよ。寂しくて一人ぼっちの孤独な彼に、私は彼にきみを貸したまでだ。きみのおかげて彼は孤独から立ち直ったそうではないか。きみは本当によくやったよ。彼は両親を亡くしてから、ずっと塞いでいたからね。きみに出会えて彼は救われた。だから彼のことはもう忘れて、今度は私を救ってはくれないか――?」
オーランドの一方的な想いにピノは恐怖を感じると、頑なに彼を拒んだ。
「ッ……! ローゼフのことを悪く言うな……! おじさんなんて嫌いだ! だいっきらい! ローゼフたすけてぇ!!」
ピノはそういって言い返すと、仕切りに彼の名前を呼んで助けを求めた。しかし、いくら呼んでも彼は来なかった。ピノが泣きわめくとオーランドはカッとなって叩いた。
「うるさい黙れぇ!」
「キャッ!」
「お前のマスターは私だ! 私の前であいつの名前を呼ぶな!」
彼はピノの顔を片手でぶつと怒鳴り声をあげた。ピノは叩かれて頬を赤くかせると、泣いて小さく怯えた。
「手に入れてそうそうなんだが、きみは私が望んでいる姿のドールではない。私の意味わかるかな?」
オーランドは不気味な顔でニコリと笑うと、ピノは耳を塞いで震えた。
「つまりきみには死んでもらう。死んで新しく私の愛玩ドールとして生まれ変わるのだ。何も一度や二度でもないだろ? きみは過去に何回生まれ変わり、何回死んだのだ? その度に幾度となく形を変えたのだ? 私は知っているよ。愛玩ドールの運命と悲劇を――。愛し愛されために生まれてきたのに、いざとなると主人との別れは辛くなるな。きみは知っているが心の底に悲しい記憶を閉じ込めているのだ。だから今回も辛いと思うが、それもやがて忘れてきみの記憶の深淵の底に沈むだろう。今きみが愛している彼の顔も、やがては忘れて思い出せなくなる。それが愛玩ドールの悲しきさだめ。運命とは残酷だな。私が何もしないで、ただ愛玩ドールを長年探してたと思うか?」
愛玩ドールの隠された悲しき秘密を暴かれると、ピノは言葉にならない声で泣き続けた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる