2 / 76
序章
1
しおりを挟む
それはある晴れた日だった。その日、街の中にある大きな教会の鐘が重く鳴り響いた。葬儀の参列者は皆、黒い衣服を身に纏い。手には赤い薔薇を一輪持っていた。そして、哀しみの表情を浮かべながら、別れを凌ぐように死者に赤い薔薇をたむける。そんな中、葬儀の参列者の間に小さな男の子が現れた。彼が現れた途端、周りはヒソヒソ話をした。彼は周りの雑音なんかお構い無しに、葬儀の参列に一緒に並んだ。そして、右手には赤い薔薇を持っていた。付き人の男性に背中を押されると、少年は死者が眠る棺の前で足を止めた。祭壇には多くの薔薇がたむけられていた。彼は嘆くことも悲しむこともなく、ただジッと棺を眺めた。そして彼は心の中で呟いた。
これは父と母ではないと――。
そうおもった途端、祭壇の上に置かれていた赤い薔薇を全て蹴散らすと大きな声をあげて喚いた。
これは父と母ではない! これは嘘だ!
偽りなのだ! 父と母は死んでなんか……!
少年は悲しみに胸の奥をかき乱されると、死者が眠る棺の前で泣き叫んで暴れた。暴れる少年を周りの大人達は止めに入ったが、彼の悲しみは予想以上に深かった。その日、慟哭に打ち拉がれた叫び声が教会に響き渡った。その日を境に彼は完全に心を閉ざした。凍った少年の心はもう何も感じない。あの日、父と母と共に死んだ。そして、凍った彼の心をそのままに、長い年月だけが無上にも流れていった――。
これは父と母ではないと――。
そうおもった途端、祭壇の上に置かれていた赤い薔薇を全て蹴散らすと大きな声をあげて喚いた。
これは父と母ではない! これは嘘だ!
偽りなのだ! 父と母は死んでなんか……!
少年は悲しみに胸の奥をかき乱されると、死者が眠る棺の前で泣き叫んで暴れた。暴れる少年を周りの大人達は止めに入ったが、彼の悲しみは予想以上に深かった。その日、慟哭に打ち拉がれた叫び声が教会に響き渡った。その日を境に彼は完全に心を閉ざした。凍った少年の心はもう何も感じない。あの日、父と母と共に死んだ。そして、凍った彼の心をそのままに、長い年月だけが無上にも流れていった――。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる