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―短編集―1

ある日の午後

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「……僕、行くからね。美岬が僕のこと呼び止めても無駄だからね?」

 彼に向かって後ろで一言呟くと美岬はまだ無言だった。そんな素っ気ない冷たい態度に唇を少し噛むと去り際に言った。

「体の具合が悪いのに、そのまま外で寝たら風邪ひくんだからね!? 本当に知らないよ、僕しらないんだから…――!」

 そう言って離れた所から情けなく彼に向かって言った。それでも相変わらず無言で何も言わなかった。 僕は急に悲しくなると、悔しくてその場から走り去ろとした。その時、何も言わなかった美岬が僕に一言いった。

「行くなよ結人……」

 その言葉にハッとなると後ろを振り返った。

「ッ…――」

 急にそう言われると何も反論も出来ずに、そのまま傍に近づくと美岬の隣に黙って座った。 

「美岬、早く元気になってね。あとさっき言ってたけど戦う為に生きてるって今度そんな悲しい事いったら僕が美岬をグーで殴っちゃうからね?」

僕は彼の隣でベソベソしながら泣くと、その事を言った。美岬は寝そべったまま隣で返事をした。

「分かったよ。本当、お前って泣き虫だな……」

 袖口で涙を拭くと不意にさっきの事を尋ねた。

「あのね、さっき僕に言ったあの言葉。ちょっと嬉しかったよ? ねぇ美岬、あの意味って――」 

 その瞬間、横で何か食べる音が急に聞こえた。僕は隣にいる美岬を見た。

 ボリボリボリ。 

その光景に思わずさ目が点になって唖然とした。
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