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―短編集―1

ある日の午後

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「ばか…泣くなよ」

 グラギウスは彼の方を見ると一言注意した。

「――とにかく、今は休め。今じゃお前は我々ウィクトリアの大事な戦力だ。その意味が分かるだろ? お前に勝手に倒れられると私が後で困るんだ。それに戦いでいざ『守りたいもの』があった時にまともに守れないようじゃ、何の意味も持たないぞ」

そう言って彼は真剣な眼差しで呟くと、その事を強く指摘した。美岬はその言葉に反応すると直ぐに言い返した。

「大丈夫です! 例え奴らアザゼルが押し寄せても、俺が必ず結人を守って見せます!」

 美岬は真っ直ぐな瞳で答えると、隣にいる結人の右手を強くギュッと握った。そして、そのまま二人の前で一礼すると、その場から結人を強引に医務室から連れ去った。二人は目を丸くして黙り込むとグラギウスは疲れた顔でため息をついた。

「ふぅ、若さと言うのは時に困ったものだ……」

その隣で雪矢はティーカップをテーブルに置くと、頬杖をついて彼を見た。

「……そうだねグラギウス。だから僕逹『大人』が彼らをしっかりと見守ってあげないといけないね?」

「あぁ、そうだな雪矢…――」  

 静まる部屋の中で二人は彼らの事を考えると、雪矢は椅子から立ち上がると、彼の空いたティーカップを手に取った。

「アーバス、もう一杯淹れてあげるよ。このあと艦長室で仕事だろ?」

「ああ、頼む」

雪矢は珈琲を再びティーカップに注いだ。そしてそれを彼にスッと差し出した。グラギウスは冷めないうちに珈琲を一口飲んだ。 

『ぶっ!!』

 その瞬間、彼は驚くと飲んだ珈琲を思わず吹き出した。

「雪矢! お前、珈琲に何を入れた……!?」

 グラギウスは右の拳をワナワナさせながら彼を見た。雪矢はその場でしれっとした顔で答えた。

「さぁ、何かな? 最近やけにじじむさくなった君にはこれくらいの悪戯はやらないと、あの子達見たく気持ちが若返りしないでしょ?」

「だっ、誰がじじむさいだ……!? 雪矢お前なっ!!」

そんな調子で二人は会話すると、その日は永遠と続いた。
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