290 / 316
第22章ーセフィロトの兄弟ー
17
しおりを挟む
――冷たい風が吹く草原の丘に、大きな大樹の木がひっそりと立っていた。そこには人の気配も、獣の気配も無かった。その木の下にガブリエルの姿があった。彼は兄のウリエルと、些細なことで喧嘩をすると2人の前から飛び去った。そして、暫く天空の青空を翼で翔ると、彼はそこで羽根を休める為に草原へと舞い降りた。
誰もいない静かな場所で、彼は悲しそうな表情で物思いにふけた。目に浮かぶのはあの時の光景だった。ウリエルが、ラファエルに助けを求めた姿が頭から離れられなかった。
同じ『兄弟』なのに、彼は其処に孤独を感じていた。その孤独は、彼が生まれてからずっと今も感じていたものだった。自分は彼に触れる事さえ許さないのに。同じ兄弟なのに何故、兄のラファエルは許されて、自分は駄目なのかと言う疑問と思いが、胸の奥を小波が感情の波を掻き乱すように揺れた。
「チッ、くそ……!」
ガブリエルはそこで思い詰めると、足元に生えている草を握ってむしり取ると手の中で離した。草は風に吹かれて宙を舞った。夕暮れ時の丘に、黄昏れ色に染まった空を見上げながら、悲しげな表情で呟いた。
「どうして俺だけ……」
「此処に居たのか、ガブリエル――」
『ッ……!?』
急に名前を呼ばれると後ろを振り向いた。其処にはラファエルの姿があった。彼は丘の下から登ってくると、彼の側に佇んだ。
「ラファ兄ぃ、何でここに……?」
「お前が突然、私達の前から居なくなるから心配したぞ。探すのに苦労した。でも、きっとお前のことだから此処に来れば居ると思ったんだ」
「兄貴…――」
「私にも『翼』があれば、お前の後を直ぐに追えたのにな……」
「悪かったな、手間をかけさせたみたいで」
「まったくだよ。本当に困った弟だ」
そう言って彼の隣に座ると呆れたように優しく笑った。ガブリエルはその言葉に急に照れると、顔を反らして下を俯いた。
「何だ? わざわざ人が迎えに来てやったのに、嬉しくないのか?」
そう言って彼の顔を覗くと、彼はぶっきら棒な言葉で照れ隠しした。
「ばっ、バカ……! 誰が兄貴に迎えに来てくれなんて言ったかよ! 俺は一人が好きなんだ! ほっとけ!」
「ふーん。顔に『迎えに来て欲しい』って書いてあるぞ?」
「はっ!? なっ、バカな……!」
ラファエルに冷やかされると、彼は慌てた様子で自分の顔を手で擦った。単純に引っ掛かる弟がついつい可愛くて、隣で声を出して笑った。
誰もいない静かな場所で、彼は悲しそうな表情で物思いにふけた。目に浮かぶのはあの時の光景だった。ウリエルが、ラファエルに助けを求めた姿が頭から離れられなかった。
同じ『兄弟』なのに、彼は其処に孤独を感じていた。その孤独は、彼が生まれてからずっと今も感じていたものだった。自分は彼に触れる事さえ許さないのに。同じ兄弟なのに何故、兄のラファエルは許されて、自分は駄目なのかと言う疑問と思いが、胸の奥を小波が感情の波を掻き乱すように揺れた。
「チッ、くそ……!」
ガブリエルはそこで思い詰めると、足元に生えている草を握ってむしり取ると手の中で離した。草は風に吹かれて宙を舞った。夕暮れ時の丘に、黄昏れ色に染まった空を見上げながら、悲しげな表情で呟いた。
「どうして俺だけ……」
「此処に居たのか、ガブリエル――」
『ッ……!?』
急に名前を呼ばれると後ろを振り向いた。其処にはラファエルの姿があった。彼は丘の下から登ってくると、彼の側に佇んだ。
「ラファ兄ぃ、何でここに……?」
「お前が突然、私達の前から居なくなるから心配したぞ。探すのに苦労した。でも、きっとお前のことだから此処に来れば居ると思ったんだ」
「兄貴…――」
「私にも『翼』があれば、お前の後を直ぐに追えたのにな……」
「悪かったな、手間をかけさせたみたいで」
「まったくだよ。本当に困った弟だ」
そう言って彼の隣に座ると呆れたように優しく笑った。ガブリエルはその言葉に急に照れると、顔を反らして下を俯いた。
「何だ? わざわざ人が迎えに来てやったのに、嬉しくないのか?」
そう言って彼の顔を覗くと、彼はぶっきら棒な言葉で照れ隠しした。
「ばっ、バカ……! 誰が兄貴に迎えに来てくれなんて言ったかよ! 俺は一人が好きなんだ! ほっとけ!」
「ふーん。顔に『迎えに来て欲しい』って書いてあるぞ?」
「はっ!? なっ、バカな……!」
ラファエルに冷やかされると、彼は慌てた様子で自分の顔を手で擦った。単純に引っ掛かる弟がついつい可愛くて、隣で声を出して笑った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔法王国軍の日常 〜上級冒険者に追放された少女は、レベル0から本気で生き抜いてやると決意したようです〜
たにどおり
ファンタジー
多くの人がギルドに入り、日々様々なクエストを受けて冒険に出かけている世界。平凡な冒険者ティナも、いつか一流になってそんな生活を送るのだと夢見ていた。
だが――――
「12歳で、しかもレベルの低いお前にダンジョンへ挑む資格などあるわけないだろ」
「囮役ご苦労様、ブランドに釣られたガキには良い勉強になったんじゃない?」
その夢は幼い年齢と低すぎるレベルを理由に裏切られ、目前で断たれてしまう。とうとう死すらも考えたティナは、たまたま通りかかった王国軍の女性騎士から入隊を勧められた。
そこから1年、訓練を乗り越え自分の古巣が闇ギルドであったことを知ったティナは、かつてのパーティーメンバーすら超える力をもって闇ギルドや魔王軍、異世界転移者相手に非日常な王国軍ライフを送っていく。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを
なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。
二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。
勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。
思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。
そして気付けば赤ん坊に。
異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。
ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。
★★★ ★★★ ★★★
本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。
現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が子離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる