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第17章―天上の刃―

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「――それは隊長としての仲間を思う言葉だ。お前にとって彼らは只の部下達でしかないが彼らも一人の人間だ。私はお前に人を思いやる心を思い出して欲しいと思うのだ。私がお前に言いたいのはそれだけだ。あとは自分で考えるがよい」

 リーゼルバーグは、人としてその時にどうあるべきかの例え話を彼に語った。ハルバートは彼の話しに唇を噛み締めると、下を向いて口を閉ざした。

「チッ…! これだからジジィの説教は嫌いなんだ…――! 俺に説教をするんじゃねーよ!」

「お前にはまだわからなくても、そのうちわかる時がくるだろう。なにせ私は説教好きの年寄りだからのう。私からみれば、お前達は青いヒヨッコばかりじゃ、私は楽しみなのだ。お前達がどうやって成長して行くかを――」

 隣で思った事を呟くと、そこでフと笑ったようにも見えた。ハルバートは呆れると、隣で頭を抱え込んだ。

「さて、手当ても済んだことだし。私は退散する」

 急箱を手に取ると部屋の手口へと向かった。ハルバートは、ベッドの上で横顔を向けたまま、瞳をそらして黙り込んだ。リーゼルバーグはドアノブに手をかけると何気なく話した。

「そうだ。怪我をした隊員達は皆、治療を受けたあとに病棟の方へと移された。時間がある時に見舞いにでも行ってやれ。駄目な部下達でも、あいつらは隊長のお前を慕っている。お前が顔を出せば、彼らも元気がでるだろう」

「リーゼルバーグ…――?」

「お前は私と違って、彼らとは身近に生活をしている。ここに来て良い部下達に恵まれたな。その絆、大切にしとくが良い」

 彼は扉の前でそう告げると部屋から出て行った。ハルバートは、彼に言われた一言に考えさせられた。

「チッ、お節介なジィさんだぜ……。やっぱりアンタには敵わねぇよ…――」


 ハルバートは彼がいなくなるとベッドの上で横になって考えた。そこに誰かが、部屋のドアをノックした。

「ったく、人が休んでる時にうざってぇな。入りたきゃ、勝手に入って来い!」

 少し苛立った声で返事をした。その返事に誰かが扉を開けて入って来た。彼はそこで扉の方に目を向けると、部屋に入って来たのはリオファーレだった。珍しい客人に驚いた表情を見せた。金髪の長い髪に青い瞳の美少年は、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。中性的な顔は女性のような美しさを放っていた。彼は凛々しい表情で話してきた。

「休んでいる所をすまないが、きみに聞きたい事がある」

「何だよ。誰だと思えばアンタか――。こりゃあ、珍しい客人に驚いたな。で、俺に何の用だ?」

「ダモクレスの岬まで出向いたそうだが、逃げた囚人は見つかったのか?」

「それを聞いて何になる? アンタには関係ねーだろ?」

「ああ、自分には関係ない事だ。だが、上に報告するのが私の任務だ。悪いが、きみに拒否権は無い」

「チッ、綺麗な顔のお人形さんのわりには言うじゃねえか。じゃあ、質問に答えたら部屋からとっとと出て行け!」

 ハルバートは体を起こすとベッドから立ち上がって近くの椅子に座った。リオファーレはドアの前から離れると、テーブルの方へと移動した。空いてる椅子に座ると、報告書を片手にペンを持った。

「――じゃあ、聞かせてくれ。囚人は見つけたか?」

 彼の質問にハルバートは、ダモクレスでの出来事をボチボチ話した。

「逃げた囚人は発見したが山道で凍死していた。まあ、こんな寒さだ。逃げた所でも外の寒さには敵わねーよ。まあ、俺も生きて囚人を捕まえたがったが。そうも行かなくなったってワケだ」

「そうか――」

 リオファーレは、彼から聞いた話を黙々と報告書に書いた。

「で、帰って来たわけか? 見つけたなら当然、遺体の回収はしてきたのか?」

「遺体の回収だと? そんなもん回収して何になる。バカ言ってんじゃねーよ」

 ハルバートは不満げな顔で苛立った。

「決まってるだろ――? 身元の特定だ。逃げた囚人に関しては名前と罪状しか分からない。本当にその囚人なのか、彼がいた独房の連中に聞く為に必要だ」

「ふぅん……。随分と真面目じゃねーか、アンタみたいな真面目な看守もいるもんだな。残念だけど逃げた囚人の遺体は狼共に半分は喰われちまってた。身元の特定なんざ、できっこねーよ」

 そこで然り気無くそう話すと釘を打った。リオファーレは、その話しに目を細めた。



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