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第15章―地に降り立つは黒い羽―
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しおりを挟む外で誰かが笑った声が聞こえた。少女はその声に気がつくと、不意に窓の方に目を向けた。すると、宙に誰かが傘をさしながら浮いていた。その光景に少女は釘付けになった。長い黒髪に真っ黒の喪服姿の青年を目の前に、少女はピタリと泣き止んだ。自分の目の錯覚じゃない限り、宙に人が浮いていた。それも傘をさしながら――。ミリアリアは不思議な光景に釘付けになるとジッと窓の方に目を向けた。ラグエルはその視線に気がつくと、片手を振ってニコッと挨拶をした。喪服姿の青年が自分に向かって手を振ってくると、ミリアリアは突然大きな悲鳴をあげた。
「キャアアアアッ! 死神よぉおおーーっ! 窓の外に死神がいるぅうっ!!」
少女は驚くと大声をあげて叫んた。その悲鳴にユリシーズは、ドアを蹴破って中に入ってきた。
『ひめさまぁあああああああっっ!!』
慌てて少女のもとに駆け寄った。ミリアリアは気を失うと、うわ言を呟いた。
「ユ、ユリシーズ……! 死、死神が外に……! 死神がっ……!!」
「姫様、お気をしっかり!」
ユリシーズは顔が青ざめると、少女を腕の中に抱いて辺りを見渡した。
「一体、姫様の身に何が起こったんだ……? それに今、死神とか言ってたな。なんて不吉な…――!」
彼は呟くと窓の外を見渡して警戒した。
「失礼な女。ボクが死神だってぇ? ボクは生憎、天使だよ。どうみたらボクが死神に見えるんだ。ん、見える……? あの子にはボクの姿がみえてるのか? あれ、おかしいな。たしか人間界の霊的なヒエラルキーにおいて、ボクの天使の姿はあいつらには見えてないはずなんだけどなぁ。かと言って自分の意思で姿を見せてるわけでもないのに変だな。あの子には見えてるってことなのか?」
ラグエルはそこで一つの疑問を抱くと、テラスの窓辺にふわりと降り立って傘を閉じた。中に入るとユリシーズの目の前にワザと立った。しかし、彼には見えていないのか素通りした。ラグエルは再び確認する為に、彼の足にワザと自分の足を引っ掛けて床に転ばした。ユリシーズは何者かに足下を引っ掛けられると、そのまま見事に躓いた。
「あれ? やっぱりコイツにはボクの姿が見えてないんだ――。ってことは偶然かな? どれ、試してみるか」
ラグエルはベッドに横になっている少女に声をかけてみた。
「ねぇ、そこのキミ! 寝てないでさっさと起きなよ!」
ミリアリアは気を失っていて、彼の声には反応しなかった。
「なんだよ。人がせっかく親切に声をかけてあげたのに無視かい? なら、これならどうかな」
ラグエルは何をおもったのか、持っている傘の先で少女のスカートをクイッと捲った。大胆にスカートを捲ると、ミリアリアはそこでパッと目を覚ました。
「きゃあああああああああっ! 何するのよユリシーズっ!!」
ミリアリアは目を覚ますと大声を出して叫んだ。その悲鳴に彼は後ろをパッと振り向いた。すると、ベッドで寝ていたミリアリアが大声をあげて彼を責めたのだった。よく見るとスカートが大胆に捲れていて太ももが露になっていた。真っ白な脚が見えると、彼は耳まで顔が真っ赤になった。
「こっ、これは一体……!?」
「きゃあああああああああっ!! 私に何する気よ!? いやぁあああっ!! アレン助けてぇ! ユリシーズの変態! ユリシーズのエッチ、スケベ! 誰かきてぇーっ!!」
そこでパニックになるとミリアリアはベッドの上で叫びまくった。ラグエルはその様子を可笑しそうに笑いながら観察した。
「最低最低最低ぇっ!! 人が気を失っている所を襲うなんて信じらんない! 私の純潔はアレンだけに捧げるんだから――! もう顔も見たくない! 今直ぐ出て行って!」
「誤解でございます! 私は決して、姫様の寝込みを襲う等とは…――!」
「じゃあ、これは一体何なのか説明しなさいよ!」
ミリアリアは怒りながら彼を責めた。すると、誰かが近くでクスッと笑った。
「ふふふっ。困ったお嬢さんだねぇ、周りをよく見てごらんよ」
「えっ……?」
少女は近くで声が聞こえてくると咄嗟に辺りを見渡した。すると何かの不思議な気配を感じた。目を凝らすと少女はそこで驚いた。
「だっ、誰…――!?」
「やあ、ようやく気づいたのかい。お姫様」
目の前にラグエルの姿が突然と見えた。彼女はそこで驚くと、あまりの事態に体がピタッと固まった。
「姫様、如何なされましたか?」
ユリシーズには彼の姿が見えなかった。自分の目の前に傘をさしたあの青年がハッキリと見えてくると、彼女はそこでさっきの事を途端に思い出した。
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