141 / 316
第13章―箱庭の天使達―
9
しおりを挟む剣で体を貫かれたラグエルは、彼の方をみるなりそこでニヤリと笑った。その笑みはどこか余裕さえ感じ取れた――。
「フフフッ。そうでなくっちゃ面白くないよ」
「ッ――!?」
ラグエルはそう話すと、突如姿を消した。雲隠れするかのように自身の存在と気配を同時に消し去った。彼がパッと消えると、体を貫いたはずの剣はその感覚を失った。彼が姿を消すなりそこで唖然となった。部屋の中から気配がなくなるとウリエルは消えたラグエルを直感で探った。
「出てこいラグエル! 姿を消すなんて卑怯だぞ! 僕と正々堂々と戦え!」
ウリエルは剣を片手に怒りを露にした。もうそこには冷静沈着と呼ばれる本来の大人しい彼の姿はなかった。もうただ怒りと憎しみだけが彼の心を支配した。姿を完全に消したラグエルは、小バカにしたような笑い声で彼の近くでクスクスと笑った。
「ウリエル今のは惜しかったね。キミはボクを殺したくて堪らないだろ? でもボクは簡単には殺られないよ。ボクはキミ達みたいな天使じゃないからね。初めから存在がないボクは空気みたいなものさ。誰もボクは殺せない。それがボクが神に選ばれた一番の理由だ――」
「チッ、小賢しいことを抜かすな……! まさかこのまま逃げるつもりか!? 出てこいラグエルッ!」
ウリエルは大声で怒鳴ると、翼を広げて怒りを剥き出した。
「今度こそお前を殺してやる! 僕がこの手でお前を…――! この裏切り者の堕天使がっ!!」
「じゃあ、やってみるかい――?」
それは一瞬だった。傍でラグエルの声が聞こえてくると、背後から殺気を感じたウリエルは後ろを咄嗟に振り向いた。するとラグエルはらブリューナクの槍を翳して彼に襲いかかった。背後からくる殺気に気がつくと、彼はすかさず剣を振り上げた。二つの刃が再び交える時、その間に突如カブリエルが割り込んで入ってきた。彼は同時に両方からくる刃を両手に持っている双剣で食い止めた。その瞬間、刃がぶつかって共振する音が辺りに響いた。
『2人ともそこまでだっ!!』
「ガ、カブリエル…――!?」
「チッ……!」
互いに刃を向け合う中で、突如そこにガブリエルが間に割って入ると、2人は一瞬気をとられて戦闘を止めた。ガブリエルは直ぐに仲裁した。
「やめときな、無駄な命の削り合いはするもんじゃねー。ましてや、こんな所で戦いをおっ始めるなんざ、2人共どうかしてるぜ。大宗主のジジイや、元老院のジジイどもにこのことを知られたら法廷会議もんだぞ? 悪いことは言わねー。2人共、いますぐ無駄な戦いは止めるんだ。それでもやるなら、俺が2人纏めてブチのめしてやる。まっ、その時は俺も手加減しねーからな!」
ガブリエルは2人に向かってその事を問いただすと、その場で批判した。殺気立つウリエルとは違い、ラグエルは大人しく引き下がった。
「なーんだ。ガブリエルかぁ? 良いところだったのに邪魔するなんて酷いな。あと少しでそこのわからず屋をギャフンと言わせれたのに残念」
ラグエルはそう言うと持っている槍を下に降ろした。
「ギャフンとまぁ、よく言うもんだ。その前にお前がうちの兄貴に返り討ちにされる姿が目に浮かぶ。うちの兄貴はこう見えても、キレると結構ヤバイんだぜ。あまりちょっかい出すとあとで痛い目みることになるかもしれねーぞ?」
ガブリエルは然り気無くそのことを話すと、ラグエルは不満げに呟いた。
「あのねぇガブリエル。ちょっかい出されたのはこっちなんだけど? あーあ、なんだかバカらしくなってきたな。今回は彼の顔に免じて許してあげる。でも、次はそうはいかないからね!」
そう言ってラグエルはウリエルの方をジロッと睨むと、そのまま何も言わずに姿を消した。戦いが終わると建物の揺れもおさまった。さっきまでの戦いが嘘のように、辺りには再び静寂が戻った。ラグエルがどこかに消えて行くとウリエルは、そこで持っている剣を床に落としてガクッと崩れ落ちた。ガブリエルは気がつくと咄嗟に兄の体を受け止めた。
「おい、兄貴大丈夫か!?」
「クッ……!」
「――まったく無茶をしやがる。兄貴はいつもこうだ」
「すまない、ガブリエル……!」
彼は肩を半分貸すと、兄の体を支えた。一方ラファエルはミカエルが寝ているベッドへと急ぎ足で向かった。そして、そこで彼が見たものは信じられない樣な光景だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる