134 / 316
第13章―箱庭の天使達―
2
しおりを挟む「天界最強の大天使ミカエル。その素顔は誰も見た事がないか――。でも、何でだろう。だってホラ、こんなチャンスがあるのに本当に誰も見た事がないの? ボクだったらドサクサに紛れて彼の顔を見ちゃうけどな。だってこんなチャンスは滅多にないよ。ましてやサタンに敗れて床に伏せて治療を受けてるなんてさ。天界最強の大天使なのにね、運命は残酷だねミカエル。キミもそう思うだろ?」
ラグエルはカーテン越しで眠りにつくミカエルに話しかけた。その様子はどこか悪戯な雰囲気を漂わせた。覆われているカーテンに手を伸ばすと、彼はそこでニヤリと笑った。
「誰もキミの素顔を見たことがないんなら、ボクがみてあげる。そしたらボクは天界で初めてキミの素顔を見た天使になれるかな。ねぇ、どう思うミカエル? 寝てばっかいないで返事をして。ボクだよ、ラグエルだ。キミに会いに来たよ」
彼は親しげな声でミカエルに話しかけると、両手でカーテンを掴んで開こうとした。すると突如、彼の喉元に鋭い剣先の刃が向けられた――。
「――これは驚いたな。終末の天使がここへ何しに来たのですか? まさか彼に終わりでも告げに来たのですか?」
そう言って凛々しい顔をした青年は、ラグエルに剣先を向けるとカーテンの間からその姿を現した。彼の名前はウリエル。絶世の美しい顔立ちに金髪の長い髪を一つに束ね、高貴な気高さを内に秘め、全身を鎧で身に纏っていた。彼が現れるなり、ラグエルは直ぐに気がついた。
「何だ、キミか。居ないと思えばこんな所にいたんだ?」
ラグエルはつまらなそうな顔で話すと、カーテンの側から離れた。
「僕では不満ですか?」
凛々しい顔をした青年はラグエルに言い返すとそこでニコリと笑った。だが、どうみても目は笑っていなかった。ただならぬオーラを放ちながら、彼は剣を向けて威嚇した。
「下がれ、ラグエル! ここはお前みたいな天使が来る所ではない! 僕の宮殿から今すぐ立ち去るがいい!」
彼は剣を向けて言い放つと、ラグエルは呆れた様子で言い返した。
「キミのその堅物な性格は相変わらずだねウリエル。もう昔からの仲なのにいつになったらボクと仲良くしてくれるの?」
ラグエルはそう話すと悪戯な顔で笑って見せた。ウリエルはその言葉に眉を寄せて、しかめっ面を見せた。
「君と仲良くだって? 僕は不吉な天使と仲良くする覚えはないよ。僕だけじゃなく、他の天使達も皆だ。きみと仲良くするのは精々、ハラリエルとドミニオンくらいだう」
ウリエルはそう答えると彼を睨み付けた。
「ハラリエルはともかく、あのジーさんとボクが仲良くしてるだって? 冗談はよしてくれよ。ボクはあんな奴とは仲良くするつもりはない。キミの誤解なんかじゃないのか?」
ラグエルは不機嫌な顔をすると両腕を組んで言い返した。
「僕の誤解――? きみがドミニオン様と一緒にいる所をよく見かけるけどそれでも誤解と言うのかい? ラグエル、きみは嘘をつくのが下手だな」
ウリエルは彼を見ながら冷やかな目をした。ラグエルは両腕を組むのをやめると、小バカにした態度で鼻で笑って見せた。
「じゃあ、何? ボクがあのジーさんと仲良くしてたら何か問題でもあるの?」
彼がその事を質問すると、ウリエルは瞳を光らせた。
「ドミニオン様は天界を治める偉大なる長。そしてきみは終末の天使でありながら、他の天使達を監視する役目を担う天使でもある。それがどんな意味なのか君だってわかっているはずだ。そんな2人が共に行動をしていたら、すくなからず良いとは思えないんじゃないのか?」
ウリエルは神妙な顔で話すと彼に向けた剣先を下におろした。ラグエルは彼のその言葉に、黙って口を閉ざしたのだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる