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第11章―少年が見たのは―

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 長い暗闇の世界から脱け出すと、ユングはフと目を覚ました。そこは、生死をさ迷う世界ではなく、現実の世界だった。リーゼルバーグはユングの傍で手を握って祈り続けていた。すると握った手が微かにピクリと動いた。その反応に彼は祈りの途中で目を開いた。そして、少年の顔を覗き込むとユングは閉じていた目を開けた。

「うっ……」

「おお、ユング! 意識が戻ったか……!?」

「リ、リーゼルバーグ隊長…――」

 ユングが目を覚ますと、周りにいた隊員達は一斉に喜んだ。

「ぼ、坊主が目を覚ました! し、信じられん……! まさに奇跡だ! まかさ本当に生き返るなんて…――!」

 隊員達は目の前で起こった奇跡にただ驚くばかりだった。ハルバートはユングの意識が戻った事を確認すると、安堵の表情を浮かべた。周りが一斉に歓喜に包まれる中、ユングはボンヤリとした視界のまま、彼の方に目を向けた。

「よくぞ戻ってきたユング。私はお前を信じてたぞ――!」

 彼は隣で話しかけると、少年の手をそっと握った。

「お前がこのまま目を覚まさないかと心配した。いや、このまま向こうの世界へと逝ってしまうと思ったんだ。でも、お前はここに戻ってきた。私はそれだけでも嬉しい――」

 リーゼルバーグはそう話すと、そっと優しく微笑んだ。

「っ……!」

 その言葉に思わず涙を込み上げた。優しく笑った顔が何処となく、亡くなった父との顔と重なった。その瞬間、思いが溢れるとユングは大きな声をあげて突然泣き出した。


『おとうさぁあああんんんっ!!』


 大声で泣き出すと、そのまま抱きついて泣いた。まるで幼い子供のように泣きながら父の名を叫んだ。リーゼルバーグは抱きつかれると、一瞬おどろいた表情になった。しかし、少年の父を思う気持ちを心の中で感じとると、彼は優しく包み込んだ。

「そうかそうか、ずっと寂しかったのか――。なら涙が枯れるまで泣くがよい。私がお前の父に代わって涙を受け止めてやろう」

 周りは少年が泣き出すとそこで唖然となった。リーゼルバーグは父のように、悲しみに暮れる少年を自分の両腕で受け止めたのだった――。

 ユングは泣き疲れると、その場で意識を再び失った。ハルバートは2人の所に駆け寄ると不意に声をかけた。

「――よう。その、坊主は大丈夫か?」

「ああ、もう大丈夫だ。今は泣き疲れて眠ってしまったようだ」

「そ、そうか…――」

 リーゼルバーグはそう答えるとフと笑った。

「なあ、坊主の奴。お前のこと、父さんって言ってたぞ。あれはどう言うことだ?」

 彼が不思議そうに尋ねると、リーゼルバーグはユングの父親のことを話した。

「この子は小さい頃に父親を失い、ずっと寂しかったんだろう。きっと私がこの子の父親に重なったのであろう」

「そうか…――。それは知らなかった」

「ユングはこう見えて12歳の子供だ。まだ両親が恋しい年頃でもある。お前にもそんな年頃はあっただろ? もちろん私にもな」

 リーゼルバーグはユングを抱き上げると、ハルバートにそう語りかけた。彼の意外な言葉にハルバートはそこで呟いた。

「そうだな。そう言われれば、そんなガキの時代もあったな。リーゼルバーグ。なんかお前、少し変わったな?」

「私がか?」

「ああ、何となくな……」

「そうか――」

 彼が不意にそう話すと、リーゼルバーグは瞳を閉じて笑った。その表情はどこか柔らかかった。

「さあ、そろそろ城に戻るぞ。いつまでもここに長居は無用だ。それにユングの容態も決してよくはない。早く城に戻って安静にさせなくてはならん。それに、ユングだけではなく負傷したマードックも早く手当てしてやらんとな?」

 リーゼルバーグはハルバートにそう話すと、マードックの方に目を向けた。

「お主、その傷で自分の竜に乗れるか?」

「はい! なんとか乗れます…――! ですが、坊主の方は?」

 マードックは彼にそう答えると不意に尋ねた。

「ユングは意識がない。だから私と竜に乗って城に戻る。この子の竜はお前達の誰か一人が誘導してやれ」

「りょ、了解しました……!」

 周りにいた部下達は返事をすると、自分達の竜がいる場所へと戻った。部下達が慌ただしく出発の用意をする最中、ハルバートは彼らに声をかけた。

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