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第11章―少年が見たのは―

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 糞味噌に言われると彼はそこでムキになった。

 畜生、人工呼吸をしろだと……!? 他人事だと思って、好き放題に言いやがって! そんなこと言われなくたってもな…――!

 ハルバートはユングの顔を見ながら、そこで迫りくるものを感じた。

 確かに早く人工呼吸をしないとユングは助からない。だがしかし、なんで俺が坊主となんか……! いや、待てよ。もしこれが坊っちゃんだったら……。

 ん? いや、今のは無し! 坊っちゃんだったら良いなとか違うだろッ!? 落ち着け……! リーゼルバーグの奴が余計なことを言うから、きっと頭が混乱しているんだ。ユングは男だけど、一応見た目は可愛い分類に入る。むしろ溺れたのがマードックだったら、俺は絶対に人工呼吸なんかしてたまるか! つまりこれはラッキーな方なんかじゃないのか?

 ハルバートはユングの顔をジッと見ながら、心の中で葛藤を続けた。

 しかし、人工呼吸とはいえでも、隊長と隊員が一線を越えていいのだろうか?ん? 一線って何だ? 人工呼吸で一線を越えるのは普通ありなのか? いや、越えちゃダメだろ! 俺はそっちの趣味なんてさらさら…――!

 余計なことを考えると、頭の中で変な妄想が突然浮かんできた。

 「ハルバート隊長、僕じゃ駄目ですか?」

「ユ、ユング……! 俺はお前の隊長だぞっ!? いいか、隊長と隊員が一線を越えるなど…――!」

「じゃあ、クロビス様だったらいいんですか……!?」

「なっ、何をバカなことを……! あいつとはそんなんじゃ――!」

 そこで焦って否定するとユングは涙を浮かべながら、か弱く抱きついてきた。

「ハルバート隊長……! ぼ、僕は……!」

「バカ野郎、それを口にするなッ!」

「だって言いたいです! どうか聞いて下さい! ぼっ、僕はハルバート隊長の事が…――!」

「ユ、ユング……!?」

 そう言って訴えてきたユングの瞳は涙で濡れていて、顔を赤らめていた。満更でもなくなると急に態度を変えた。

「――まったくとんだ小悪魔だ。大の男を誘惑して唆すなんて。なら、その悪いお口をキスで塞いでやらないとダメだな?」

 いきなり態度を変えると、ユングの顎を人差し指で上にクイッと上げて、顔をゆっくりと近づけた。キリッとした男前の表情でそう話すと、ユングは恋する瞳で彼にみとれた。

「ハ、ハルバート隊長……!」

「お前が望むなら、一線を越えてやるよ――」

『おい、ハルバート! ハルバート! 返事をせんかッ!』

 妄想の世界が頭の中で広がると、そこでリーゼルバーグの声が突然聞こえた。

「何をボーッとしているのだ! さっさとやらんか!」

 ハッとなって我に返ると、片手で顔から出てくる冷や汗を拭った。

「クソッ! 頭の中が混乱してきやがった!」

「混乱している場合かっ! お前が躊躇っているから、ユングの容態がますます悪くなっておるのだ! このままでは本当に死んでしまうぞ!?」

 リーゼルバーグがその事を言うと、彼は鬼気迫るもの感じた。ユングの顔色がますます悪くなると思いきって決心した。

「わ、わかった……! 俺も男だ! やるときはやってやる! いいかお前ら、そこで俺の度胸を見てろ!?」

 隊員達は一斉に返事をすると、そこで大人しく見ることにした。ハルバートは唾を飲み込むと、少し緊張気味の表情だった。

「いいかお前ら、このことは誰にも言うなよ! とくに坊っちゃんにだ! もし喋った奴がいたら順番にスマキにしてやる!」

 ハルバートはそう話しながらも瞳の奥は殺気だった。隊員達は、自分達の身の危険を感じるとそこで黙って頷いた。そして、恐る恐る顔を近づけると不意に彼らに向かって質問した。

「あ、人工呼吸って舌も入れるのか?」

「入れんでいい! そんなのはプライベートでやれッ!」

 リーゼルバーグが物凄い剣幕で怒鳴ると、ハルバートは言い返した。

「なっ、何も怒らなくたっていいだろ……!? 一応、今のは確認作業だ。誰が人工呼吸で舌を入れるか!」

 そう言って慌てて言い返すと、周りはヒソヒソと小声で話した。

「さすがハルバート隊長だ。そう言った所、抜け目ないなあの人。人工呼吸で舌を入れるなんて、俺は聞いた事がないぞ?」

「ああ、確認ってところが怪しすぎる。本当はまさか、やる気だったんじゃ?」

 そこでヒソヒソと話すと、隊員達は冷やかな目線で彼を見た。

 どいつも冗談が通じねー奴ばかりだ! するのは俺だってーのに畜生ッ!

 ハルバートはムッとした表情で周りを睨みつけると、さっさと終わらせようと少年に自分の顔を近づけて、唇を重ねて人工呼吸を始めた。



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