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第11章―少年が見たのは―

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 それは体の奥から沸き起こる、鼓動の脈を打つ音だった。少年は父の姿を追いかけている途中でそれに気がついた。右手で心臓のある場所に手を置くとそこで確めた。手を置くと、そこだけが熱くなっていた。ユングは突然、何か大事な事があったのを思い出した。

「僕は……僕は何で、ここにいるんだろ? 何か大事なことがあったはず……。でも、何故か思い出せない。僕にとって大事なことって何だろう……? ここの世界は向こうの世界と違って暖かい。それにここには大好きな父さんがいる」

 ユングはうつ向いた顔を上にあげると、不意に目の前にいる父をジッと見つめた。逆光を背に佇む父の姿を見ながら、何かをボンヤリと思い出していた。父の顔は光で隠れていて見えなかったが、その表情は優しく自分に笑っているようにも見えた。その表情を見ると、ユングはこの場所から急に離れられなくなった。

「ここには父さんがいる……。でも、向こうには父さんがいない。話したいことが一杯あるのに、ここから離れないといけないなんて……。ねえ、父さん……。僕は、僕はここにいてもいいかな…――?」

 隊員達が不安な表情で心配そうに彼らを見守る中で、ハルバートは懸命に心臓マッサージを続けた。隊員の一人が隣に並ぶと、ユングの容態を見ながら不意に話しかけた。

「ハルバート隊長、このままではキリがありません……! こうなったらもう、人工呼吸をするしかありません…――!」

 一人の隊員がその事を投げかけると、ハルバートはその場でためらった。

「人工呼吸だって……!? それは、俺がするのか? コイツに俺が……!? じょ、冗談だろっ!?」

 真顔で言ってきた隊員に、ハルバートは慌てた様子で言い返した。

「私には蘇生の技術がありませんが、騎士で医学の知識を学んだ貴方ならきっと上手くいきます……!」

 彼がそのことを話すと、周りは一斉にハルバートに注目した。

「て、てめえ……! 余計なこと言うんじゃねーッ!」

「確か騎士の方は武術の他に医学も習うと聞きました! 何より、その心臓マッサージが証拠です! その手つきと、的確な場所をとらえている位置が完璧すぎます!」

「し、しまった……! これはその、たまたまだ…――!」

 ハルバートは隊員にそう言い返すと急に慌てだした。

『お願いしますハルバート隊長、どうかユングを助けて下さい!』

 マードックは正気に戻ると、背中から血を流しながらも彼の方に駆け寄った。

「おっ、俺のせいなんです……! 俺が坊主を溺れさせたんです! 助けに来てくれた坊主を俺が……! 俺みたいな奴、助けになんて来なければ良かったのに坊主は……! うううっ……!」

 彼は両目から涙を流しながら訴えてくると、ユングを助けてくれと必死な声でハルバートに泣きつきながら懇願した。

「医学の知識ってもな、簡単な蘇生法としか…――」

『ハルバート隊長ッツ!!』

「なっ、何だよテメェら……!?」

「どうかユングを助けてやって下さい!」

 隊員達はマードックと一緒になって訴えてきた。一気に視線が自分のほうへと注がれると、ハルバートはそこで言い返せなくなった。

「何も騎士は俺じゃなく、リーゼルバーグがいるだろ……!?」

 苦し紛れに彼はそのことを口にすると、リーゼルバーグは直ぐに答えた。

「何を照れておるのだ! 人工呼吸ぐらいお前のお得意ではないか!? 日頃、女に接吻している癖に、今さらできないと言うつもりか!?」

 彼がそこで怒鳴ってくると、ハルバートはムッとした表情で言い返した。

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