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第11章―少年が見たのは―
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――静寂に包まれる中、そこにいた誰もが絶望視する最中、ハルバートは懸命に心臓マッザージを続けた。しかし、ユングは一向に息を吹き返さなかった。それどころか、ますます顔色が青ざめていった。
「起きろ坊主、いい加減目を覚ませ! こんな所でクタバってるんじゃねぇ!」
懸命に心臓マッザージが続けられる一方で、少年の意識は、光さえも届かない暗闇の奥深くにあった。そこには空があり、大地には花々が咲いていた。大きな木の下で目を覚ますと、そこには見馴れない風景が辺り一面に広がっていた。
小さな洞穴からウサギが一匹、現れた。そして、そこにはウサギの他に動物や鳥達の囀ずる声と、蝶が羽を広げて空を飛んでいた。暖かい気温に包つつまれたその世界には、心地良い風が大地に吹いていた。まるで楽園みたいな自由な世界だった。そこには、苦痛も苦しみもない、とても穏やかな暖かい世界が広がっていた。ユングは木の下で目を覚ますと、洞穴から出てきたウサギを何気なく追いかけた。ウサギは真っ直ぐ草原の大地を走ると、彼をどこかへ導いてるようにも見えた。ユングはそれすら何も疑わずにただ素直にウサギのあとを追いかけた。そして、ある場所にさしかかると、草原の中に人影が佇んでる姿が見えた。その姿を目にした途端、そこでハッとなって口にした。
「とっ、父さん……? 父さんなの…――?」
少年がそこで見たのは、草原に佇んでいる父親の姿だった。父は片手に弓矢を持ちながら静かに佇んでいた。ユングはその姿が、亡くなった自分の父だと気がつくとそこで無意識に名前を呼んだ。
『父さんっ……!』
そこで一気に思いが溢れ出すと、ユングは震えた様子で父親の方へと前に歩み寄った。
「母さん泣いてたよ……? それにお兄ちゃんや、お姉ちゃんも泣いてた。何で僕達をおいて先に死んじゃったの? 父さんは強いんだって僕に言ってた癖に、父さんの嘘つきッツ!!」
自然に瞳から涙がこぼれ落ちると、想いが溢れだすように次から次へと頬から涙がこぼれ落ちた。震えるように前に一歩ずつ歩み寄ると、そこで父の背後から逆光の眩しい光が放った。光は強く輝きを放ちながら青い空を一瞬にして黄昏色に染めあげた。どことなく幻想的な雰囲気が漂い、まるでこの空間だけが本当の別世界に見えた。歩み寄れば、父との距離は徐々に離れて行った。
「父さん待って、行かないで……! まだ話したいことが一杯あるのに……! ねぇ、待ってよ父さんッツ!!」
ユングは一向に目を覚まさないまま、意識を失い続けていた。隊員達は、何も出来ずに心配した様子で少年の周りを囲って覗いていた。
「ハルバート隊長、ユングはもうダメです……! さっきから心臓マッサージをしても、この様子じゃどうにも…――!」
「うるさい! まだそんなことやってみないとわからないだろッ!? コイツはきっと目を覚ます! テメェらがそれを信じねえで、どうするんだ!」
ハルバートはそこでカッとなると、彼らに向かって怒鳴った。隊員達は、彼のただならぬ威圧感に圧倒されるとそこで否定することをやめた。
「目を覚ませ、坊主! お前はこんなところで死ぬような玉じゃねえだろ!? 新入りのクセにいつまでも隊長に迷惑をかけてるんじゃねーっ! さっさと起きろぉーっ!」
ハルバートは右手の拳を思いっきり振り降ろすと、胸の当たりを強く叩いた。止まった心臓に衝撃を与えるとその衝撃は僅に鼓動に行き届いた。その衝撃は、生死をさ迷う少年の体の奥からも感じた――。
「起きろ坊主、いい加減目を覚ませ! こんな所でクタバってるんじゃねぇ!」
懸命に心臓マッザージが続けられる一方で、少年の意識は、光さえも届かない暗闇の奥深くにあった。そこには空があり、大地には花々が咲いていた。大きな木の下で目を覚ますと、そこには見馴れない風景が辺り一面に広がっていた。
小さな洞穴からウサギが一匹、現れた。そして、そこにはウサギの他に動物や鳥達の囀ずる声と、蝶が羽を広げて空を飛んでいた。暖かい気温に包つつまれたその世界には、心地良い風が大地に吹いていた。まるで楽園みたいな自由な世界だった。そこには、苦痛も苦しみもない、とても穏やかな暖かい世界が広がっていた。ユングは木の下で目を覚ますと、洞穴から出てきたウサギを何気なく追いかけた。ウサギは真っ直ぐ草原の大地を走ると、彼をどこかへ導いてるようにも見えた。ユングはそれすら何も疑わずにただ素直にウサギのあとを追いかけた。そして、ある場所にさしかかると、草原の中に人影が佇んでる姿が見えた。その姿を目にした途端、そこでハッとなって口にした。
「とっ、父さん……? 父さんなの…――?」
少年がそこで見たのは、草原に佇んでいる父親の姿だった。父は片手に弓矢を持ちながら静かに佇んでいた。ユングはその姿が、亡くなった自分の父だと気がつくとそこで無意識に名前を呼んだ。
『父さんっ……!』
そこで一気に思いが溢れ出すと、ユングは震えた様子で父親の方へと前に歩み寄った。
「母さん泣いてたよ……? それにお兄ちゃんや、お姉ちゃんも泣いてた。何で僕達をおいて先に死んじゃったの? 父さんは強いんだって僕に言ってた癖に、父さんの嘘つきッツ!!」
自然に瞳から涙がこぼれ落ちると、想いが溢れだすように次から次へと頬から涙がこぼれ落ちた。震えるように前に一歩ずつ歩み寄ると、そこで父の背後から逆光の眩しい光が放った。光は強く輝きを放ちながら青い空を一瞬にして黄昏色に染めあげた。どことなく幻想的な雰囲気が漂い、まるでこの空間だけが本当の別世界に見えた。歩み寄れば、父との距離は徐々に離れて行った。
「父さん待って、行かないで……! まだ話したいことが一杯あるのに……! ねぇ、待ってよ父さんッツ!!」
ユングは一向に目を覚まさないまま、意識を失い続けていた。隊員達は、何も出来ずに心配した様子で少年の周りを囲って覗いていた。
「ハルバート隊長、ユングはもうダメです……! さっきから心臓マッサージをしても、この様子じゃどうにも…――!」
「うるさい! まだそんなことやってみないとわからないだろッ!? コイツはきっと目を覚ます! テメェらがそれを信じねえで、どうするんだ!」
ハルバートはそこでカッとなると、彼らに向かって怒鳴った。隊員達は、彼のただならぬ威圧感に圧倒されるとそこで否定することをやめた。
「目を覚ませ、坊主! お前はこんなところで死ぬような玉じゃねえだろ!? 新入りのクセにいつまでも隊長に迷惑をかけてるんじゃねーっ! さっさと起きろぉーっ!」
ハルバートは右手の拳を思いっきり振り降ろすと、胸の当たりを強く叩いた。止まった心臓に衝撃を与えるとその衝撃は僅に鼓動に行き届いた。その衝撃は、生死をさ迷う少年の体の奥からも感じた――。
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