111 / 316
第10章―決着の行く末―
14
しおりを挟むく、苦しい……! 息が出来ない! こ、このままじゃ…――!
海面に頭を押し付けられると、息すらままならなくなった。打ち寄せる荒波の中で2人が溺れていると、周りにいた隊員達はその光景に耐えられなくなると、目をそむけて上から見下ろすのを止めた。そして、誰も自分達を助けに来ないと解ると、何とか自力でこの状況から脱出しようと試みた。しかし、マードックに頭を掴まれていてどうにもこの状況から脱出することは不可能に近かった。
そうこうしているうちに、再び海の中へと沈めてきた。さすがに息が出来なくなるとユングは苦しくそうに海の中で必死にもがいた。そして、自分の意識が段々と遠のきはじめた。薄れ行く意識の中、心の中で両親に助けを求めた。
と、父さん助けて……! かっ、母さん…――!
意識が朦朧としてくると、そのまま気を失うように海の中で力尽きた。するとハルバートがヴァジュラに乗って、2人を救出しにきた。錯乱したマードックをヴァジュラが口で咥えて捕まえると、そのまま海面から上へと高く引き上げた。ハルバートは海の中に飛び込むとそのまま水中に潜って沈みかけているユングの体を自分の腕の中へとグイッと抱き寄せた。そして、再び海面に彼が姿を現すとリーゼルバーグが竜に乗って駆けつけた。
『ハルバート!』
「リーゼルバーグ、早く引き上げろ!」
「ああ、わかった…――!」
咄嗟に竜に命令するとリューケリオンは海に向かって着陸した。ハルバートはユングをリーゼルバーグの腕に預けると、空中で待機していたヴァジュラを自分の方へ呼び寄せた。そして、そのまま自力で竜の背中に登った。
「いかん、ユングが呼吸をしておらぬ……!」
「何ッ!? ちっ、手間をかかせやがって! リーゼルバーグ、俺に構わず早く上に上がれ!」
「ああ、そうだな――!」
リーゼルバーグはその場で表情が一気に青ざめると、慌てるように自分の竜に命令した。リューケリオンは命令されると、翼を広げて海面から直ぐに離れた。そして、崖の上に着地すると隊員達が彼らの方に一斉に集まって来た。
「ハルバート隊長、ユングは…――!?」
隊員達が彼らの方へ一斉に集まってくると、ハルバートは気を失ってぐったりしてるユングを自分の両腕に抱き抱えたまま怒鳴った。
『そこを退けお前らッ!』
彼が物凄い剣幕で怒鳴ってくると、隊員達は慌てて一斉に道をあけた。そこにケイバーとギュータスが不満そうな顔で彼の目の前に立ちはだかった。
「おい、お前どういうつもりだ!? 俺達の現場検証の邪魔しやがって!」
ケイバーが文句をつけつくると、ハルバートは睨みつけながら言い返した。
「お遊びはもう終わりだ。それに十分、気が済んだだろ? お前らの戯言に付き合ってる程こっちは暇じゃねぇんだよ!」
ハルバートは冷めた目付きで彼らを睨むと、無言で2人の間を割って通った。その一言にカチンとくると、そこで咄嗟に引き留めようとした。
「おい、待ちやがれッ!」
ケイバーが引き留めようとすると、そこでリーゼルバーグが剣先を彼に向けて立ち塞がった。
「お主、あやつの言葉が聞こえなかったのか? 時は今、一刻を争うのだ。それでも邪魔をするのなら、私がいくらでも相手になってやろう」
リーゼルバーグはそう言って剣先を彼に向けると、そこでただならぬオーラを放った。はりつめるようなピリついた空気が辺りに漂うと、周りにいた隊員達はざわついた。リーゼルバーグが威圧しながら彼を抑えてる一方で、ハルバートはユングを地面に寝かせて心臓マッサージを始めた。
「目を覚ませ! 起きるんだ! ホラ、どうした坊主! 起きるんだ!」
ハルバートは心臓マッサージをしながら、無我夢中で少年に声をかけ続けた。しかし、ユングは一向に目を覚まさなかった。心臓マッサージを止めると、胸に耳を当てて心臓が動いているか確めた。
「チッ、心臓が止まってるままだ! それに脈も弱い……! クソッツ!」
ハルバートは青ざめた表情をすると、脳裏にあることを思い浮かべた。それは少年が助からないと言う最悪な予感だった。そんなことが不意に過ると、それを振り払うように、再び心臓マッサージを始めた。ケイバーはその様子を遠くから眺めながら鼻で笑った。
「まったく、何をそんなに必死になってるんだかわからねぇな。見ていてあくびが出るくらいだぜ。どうせ助からないさ、アンタだってわかってるんだろ?」
皮肉混じりにそう言って笑って話すと、リーゼルバーグは、彼の喉元に剣先を突きつけた。そして、抑えていた感情を剥き出すと、急に大声で怒鳴った。
「黙れ外道め! でなければ貴様の喉元を切り裂いて喋られなくさせてやる!」
感情が一気に昂ると、そこで理性すら失いかけた。ピリピリとした空気が一層はりつめると隊員達は騒然となった。
「へぇ。そりゃあ、面白い。薄っぺらい感情しかないお人形さんかとおもったら意外だぜ。俺はてっきりアンタはこっち側の人間だと思っていた。なあ?」
そう言って陰湿な笑いを浮かべると、隣にいたギュータスに話かけた。
「ああ、そうだな。こういった奴に限って、人殺しとか本当は好きそうだよな」
2人はリーゼルバーグの前で笑うと、自分達から一歩身を退いた。
「どうせ助からないんだ。俺達はその様子をここから見物でもさせてもらうぜ。ま、どんなに手を尽くしたところでもそのガキは手遅れだろうけどな」
リーゼルバーグは無言で剣を下に降ろすと、蔑んだ瞳で一言言い返した。
「――お主の心は真っ黒く汚れておる。虫酸が走るとは、まさにこのことを言うのだろう。私の気が変わらないうちに早く、城に戻るが良い」
そう言った彼の瞳は、僅かに殺気に満ちていた。ケイバーとギュータスはその場から離れると、近くにいた隊員達に声をかけた。
「おら、ずらかるぞ。俺達を後ろに乗せて、とっとと飛びやがれ!」
「はっ、はい……!」
そこにいた若い隊員の2人は、彼らに脅されると直ぐに返事をした。ケイバーとギュータスが帰ろうとする最中、ハルバートは意識を失ってるユングに、心臓マッサージを続けて彼の名前を呼び掛けた。そして、周りを囲むように隊員達は心配そうな表情でただジッと見守る事しか出来なかった。絶望的な状態に冷たい吹雪きの嵐がダモクレスの岬に吹き荒れた――。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる