上 下
93 / 316
第9章―ダモクレスの岬―

12

しおりを挟む
 
「おい、待てユング! お前どこに行く気だ!? ここで待機してろってさっき命令が出ただろ!?」

 長い髭の男が彼を引き止めるとユングは命令を無視した。

「離して下さい! ここで黙って見てろって言うんですか!? リーゼルバーグ副隊長が危ないんですよ!? 僕はとてもじゃ、見てみぬフリ何てできない! 僕は今から隊長を助けに行きます!」

 ユングはそう言って言い返すと、直ぐに駆けつけに行こうとした。

「待て! お前みたいなひよっこが手助けに入って一体何ができる!? 冷静になって考えろ!」

 長い髭の男が説得すると、ユングはムキになって言い返した。

「ああ、確かに僕はしたっぱの青二才の子供だけど、ただ見て何もしない貴方達よりもマシだ! だって僕達の隊長だぞ!? 貴方は本気でそんなことを思っているんですか!? 悪いけど僕にはそんなことは出来ない! 行っても彼の役に立たないかもしれないけど、僕は見捨てられない! リーゼルバーグ隊長は僕にとって恩師なんだ! 今までずっと生きる意味も希望も何もなかったこの僕を、リーゼルバーグ隊長は救ってくれた! そして、僕は彼に救われた! 今の僕がいるのは、リーゼルバーグ隊長のおかげだ! だから僕は役に立たなくても必ず彼の役にたってみせる! 僕を止めても無駄だ!」

 ユングはそこで自分の思いを吐き出すと、そのまま命令を逆らい、唖然としている彼らを無視して、まだ魔法が解けていない風の中へと自分の竜と共に果敢に飛び込んで行った。

「よし、いまなら行けるぞ! ハルバート隊長や、リーゼルバーグ隊長にも出来たんだ! 僕にだって…――!」

 彼は自分のワイバーンと共に立ち塞がる風の壁の中を果敢にも飛び込んで行くと、風はたちまち嵐のように渦を巻いて、中で彼に襲いかかってきた。ユングは竜の背中に乗りながら全速力で風の中を突き抜いた。そして、彼は背後から襲いかかってくる竜巻の渦を間一髪の所でかわした。かわすと同時に竜巻の渦は風の壁を突き破った。僅かに突破口が開かれると、彼は素早くその中を潜り抜けた。そして、彼は見事に向こう側に辿り着いたのだった。

「やっ、やった! 生きてる……! 後ろから竜巻の渦が襲いかかって来た時は焦ったけど、こうして生き延びられたのはコイツのおかげかもしれない!」

 ユングはそこで喜びの声をあげつつも、冷静に状況を把握した。

「そうだ……! こうしちゃいられないや、はやくリーゼルバーグ隊長を助けに行かないと――!」

 不意に突然そのことを思い出すと、急いで彼らの下へと合流しに行った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

【GunSHOP】スキルで銃無双

カロ。
ファンタジー
現代にダンジョンが現れてから170年、ファンタジー物語の中でしか聞いたことが無かった存在が自分達の住む世界に現れてから劇的に日常が変わっていった。 そんな日常に住む俺もやっとダンジョンへいける年齢になり早速許可を取りダンジョンへ挑む。 初めてのダンジョン探索で手に入れたスキルは【GunSHOP】スキル、どうやら銃を買う事が出来るみたいだが現実の物とちょっと違うみたいだ。これはスキルだからなのかな? とまぁそんな感じで現代ダンジョンを攻略していくお話です。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...